愛で引きこもり義妹を外に連れ出す
シマアザラシ
第1話 引きこもり義妹
栗宮 政吉(くりみや まさきち)25歳独身……俺は社畜だ。
そこそこ勉強を頑張りそこそこの大学を卒業して、そこそこのデザイン会社に入ったはずだが……俺はただの社畜だ。
まあ、何が言いたいかというと……。
「このクソ女があああ!!! 頭腐ってるのかああああ!!! こんな仕事の納期が守れる分けねえだろうがゴミがああ!!! 休みをよこせやあああああああ!!!」
「はっはっは、粋がるなよ小僧。口が悪いの許してやるが、騒いでも仕事は終わらないぞ? さあ働け、労働こそが喜び、生きがいだ!」
人間、毎日18時間労働、79連勤するとこうなる。
もう、俺の精神は神の領域に達し、何が正解か不正解か、善か悪かも判断ができなくなっている。
なんなら、簡単に壁を越えられそうだ……法という。
「おい、クソ女」
俺は直属上司で社長の馬鹿娘に言う。
「おい、小僧。私は一応年上だ。敬え」
「今の俺にプライドはない。休みをよこせ。もしくれないなら……クレーン車で警察署に突っ込むぞ、こら」
「はっはっはっは、そんな冗談言っても……」
「クレーン車はレンタルした。あとは突っ込むだけだ。ちなみに40トンまで吊れるお前を吊るしてやろうかあああああ?」
俺はスマホの画面を見せ、レンタカーショップ。予約画面を見せる。
「………………」
「………………」
素直に79日ぶりの休みをくれた。やったぜ。
◇◇◇
夜7時過ぎ――。
俺はすがすがしい気分で駅に向けて繁華街を歩いていた。
さて、休みを勝ち取った。しかも3連休。
ふっ、所詮は会社は世界の歯車の一つでしかない。脅せば、休みは貰える。まあ、ここまでしないと、休みをもらえないとか、どうかと思うけど……。
『なじみの所』から借りたとは言え、クレーン車のレンタル代めっちゃ高かったし。
「だ、だめだ、だめだ、せっかくの休みなんだし、楽しいことをしよう。何なら今からの飲みに行って……ん?」
スマホを見ると、唯一の家族の親父からメールが来ていた。珍しいな一応一緒に住んでるんだが、オヤジは昔から仕事中毒なので、最近は会うどころか、会話さえしていなかったんだけど……。
何の用だろう……。
俺は軽い気持ちでメールを開いた。
『あ、前も言ったけど、わし、再婚したから。妻は仕事仲間で今一緒に海外にいるから、あとはよろしく。最低でも来年までは帰らん』
今3月です。
「…………………なんだと」
どうしよう。文面が全く理解できない……これは俺が働き過ぎで思考力が終わってる……とか、そういうことじゃないだろう。
文面がもう怪文章だ。
待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て。
「い、いや落ち着け。確かに再婚云々は半年前ぐらいに聞いた気がする……まあ、親父も若い時に母さんを亡くしてるし、再婚自体はいいことだろう……」
と、自分を納得させていると……メールの文章に続きがあることに気が付く。
『というわけで、妻側にも子供がいて、今日荷物を運びこんだらしいから、面倒を見てやってくれ』
「…………………」
はぁ?
えっ? どういうこと? 文面が全く理解できないんだけど(2回目)。情報が少なすぎるだろ……。
俺はすかさず電話を掛けるが……まあ、出ない。
親父は仕事中は電話に出ない……なので連絡がものすごく取りづらい男だ。しかも今海外とか言ってなかったっけ? 範囲が広すぎるわ……せめてどこの国か言えや。
「……こ、このまま飲みに行くのはさすがにまずいか?」
俺は理解が追い付かないまま、自宅に向かうことにした。
◇◇◇
自宅マンション前に到着した。
家は親父が若い時に無理して買ったらしい4DKの広めのマンションで、最近は親父も帰ってきていないので、3部屋ほとんどの部屋を使っていない。
なので……普段は電気をつけない部屋があるのだが……。
「電気、ついてるな……親父が本当に海外にいるなら、他の人がいるのか? というか、義弟か義妹かどっちだよ……あれ? 義兄か義姉という可能性もあるのか? というか、再婚相手の子供って何人だよ……」
やべえ、ここまで情報がないと逆に面白い。
いいや、深く考えても状況は変わらなそうなので、行き当たりばったりでいいや。
「ただいまー……」
俺は家の鍵を開けて、部屋に入る。その瞬間にふわっと、カレーの香りがした……しかも、家庭的なカレーではなく、香辛料がきいたお店のインドカレーの香りだ。
俺の大好物だ……。
『おかえりなさい♪ 聞いてたより早かったね、嬉しい!』
すぐにパタパタと小さい足音と明るい子供声が聞こえた。
すると、小学生高学年ぐらいの青のワンピースにエプロン姿の女の子がやってきた。嬉しそうに俺のことを出迎えてくれた。
ここまでは予想通りというか……なんというか……。
だけど……あ、あれ? 日本の方じゃない?
髪は綺麗な金髪で、瞳も翡翠色と言っていいのか? 綺麗な瞳をしていた。
「初めまして、りんど……じゃないね。栗宮花音(くりみやかのん)11歳です! 政吉さん!」
なんと、子供にしてはハキハキしており、大人っぽい印象を受ける。それに日本語もうまく、発音におかしいところもない。
「えっと……栗林政吉です。ご、ごめんね。俺、親父からあんまり話を聞いてなくて……」
「聞いてるんで、大丈夫。まったく、ママも新しいパパもきちんと情報共有してくれないと困っちゃうよね?」
「ああ……」
本当にこの子、小学生か……?
「そんなことより政吉さん! ごはん用意したから一緒に食べようよ!」
「ああ……」
「ふふっ、緊張してるの? さっきからセリフが一緒だよ? 可愛い」
「可愛いって……小学生に言われる言葉じゃないな……」
「ふふっ、『お姉ちゃん』ともどもよろしくね!」
「ん? お姉ちゃん……?」
俺が聞き返すと花音ちゃんが、どこか気まずそうに笑う。
「あー、お姉ちゃん社会からドロップアウトして、今引きこもりだから……運が良ければ半年以内にぐらいに会えると思うよ?」
「……?」
ん? どういうこと……?
「ま、まあまあその辺はおいおいね! ほ、ほら、政吉さんの大好きなインドビールも用意してますから、早く、早く」
俺の腕を引っ張る花音ちゃん。
ま、まあ、今はとにかく、大好物が用意されているなら、食べて飲もう。現実逃避していない……と言えば噓になるが難しいことを考えるのは後でもいいだろ。
◇◇◇
引きこもり『栗宮 澪(くりみや みお)』はパソコンに向かって黙々とゲームをしていた。
10代半ばぐらいで顔は整っているが、身だしなみには気を使っていないので、着古されてよれたジャージに、のびっぱなしでぼさぼさの髪。さらには、まだ荷ほどきも終わっていないのに、広めの10畳ほどの部屋は段ボールだらけだった。
「…………今日は疲れた。やっぱ人間は日の光を浴びたらとけちゃうんだよ」
引っ越しということで、久しぶりに外に出て改めて思ったことは……
「やっぱり、外はクソだね。わかっちゃったっもんね、ふひひひ。なんか、家族が増えるみたいだけど……まあ、会わなきゃどうでもいいや……」
独り言をぶつぶつ呟きながら、ゲームに興じた。
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