急げ、竜の穴へ
カインの身体は、頭部と胴体の一部を除いてほぼ石化から回復していた。
次の瞬間……。
ぶしゅっ!
カインの胸部から、鮮血が噴出する。
咄嗟の行動なのかリディアが駆け寄り、彼の傷口に手をかざす。
治癒魔法を施しているらしい。
全員が思い浮かべたであろう疑問を先取りする様に、リディアが大声で言う。
「治せはしないッ! けど、一時的に出血を抑える事くらいは出来る」
ただ、苦しげに顔を歪ませつつ彼女はこうも付け足す。
「あくまで、魔法を施し続けている間だけだ」
一刻の猶予もない状況に、変化はないようだ。
「ミュウッ!」
「んうッ」
僕の呼び掛けに、ミュウはワンピースを脱ぎ始める。
突然、裸になる彼女に皆が眼を見張る。
ただ次の瞬間、その瞠目は更に大きくなった。
ミュウの身体が白く発光し、あっという間に竜の巨躯が皆の目の前に出現したからだ。
けど今は、彼らの驚嘆に付き合っている暇はない。
僕は地面に置かれたグラムを引っ掴み、ミュウの背に飛び乗る。
「いくぞ、ミュウッ」
「キュオッ」
「待つべッ!」
翼を広げ飛び立とうとするミュウを、ソフィーが引き留める。
素早くミュウに近寄ると、その身体に手を翳して何らかの魔術を施し始める。
「
「あ、ありがとう」
ミュウの足元で、プルが何かを訴える様にぴょんぴょん飛び跳ねている。
「よし、お前も来い」
僕の膝元に、プルが飛び乗る。
ミュウは大きく羽ばたき、空へ飛び立った。
急げ、竜の穴へ。
さすが、
いつもとは比較できない速度で、ミュウは飛行し続けている。
それでも、ダウノアから竜の穴まではかなりの距離がある。
グレン達と馬車と徒歩で訪れた際は、半日がかりだった。
リディアの治癒魔法は、どれくらいかけ続けられるのか。
おそらく、そう長い時間ではない。
今のペースでは厳しいか……。
よし、あれを使うぞ。
僕はミュウの背の上で、プルに【
いくぞッ!
『プルう』
【電光石火】
僕は自らの身体に戻り、即座にミュウの首にしがみつく。
「キュオオオッ!」
凄いぞ、ミュウッ。
まるで矢……いや、弾丸の様だ。
猛烈な速さで、眼下の木々が背後へ流れていく。
プル、お前も落ちるなよ。
さらにもう一度、【電光石火】を使った。
まさしく瞬く間に、竜の穴の入口へと到達できた。
スピードもそのままに、ミュウは洞窟内へ飛び込んでいく。さらに、その最深部へもあっという間にやって来られた。
……ん? 縦穴の上辺りに誰か佇んでいるぞ。
ファルナさんだ。
僕らが洞窟内に入って来た事を察知して、待ち構えていてくれたようだ。
こちらへ向けて、大きく手を振る。
「エイルさあーん」
少し手前でミュウの背から下りた僕は、グラムを手にファルナさんの元へ駆け出した。
腕を大きく伸ばし、剣を彼女へ差し出す。
グラムを受け取ったファルナさんは、即座にそれを縦穴の縁にある小さな穴に差し込む。
魔剣が白い光に包まれる。
グラムは以前の様に、また地面と一体の存在となった。
これで魔力は封じられたはず。
果たして、カインは無事だろうか?
ファルナさんへの挨拶もそこそこに、僕らはまたダウノアまで引き返し始める。
もはや急いでも仕方ないのだか、一刻も早く戻りたかった。
幸い、ソフィーにかけてもらった
先程転移して来た場所のすぐ近くの木の下に、皆は集まっていた。
僕らを待ってくれていたのだろうか。
リディアが、こちらへ向けて手を振っているのが見えた。
カインは……いた。
立ち上がって、僕らを見上げている。
どうやら間に合ったようだ。
安堵の溜息が、僕の口から大きく漏れ出た。
「ミュウ、よく頑張ったな。お前のおかげだ」
「キュアッ!」
ミュウの首筋を僕は優しく撫でる。
プルが、まるで自分も褒めて欲しそうに僕の膝の上で小さく飛び跳ねている。
「お前もな」
僕は、プルの身体もなでてやった。
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