二秒で帰還


 ブルーノの魔術。

 特に、【再現リプレイ】と【過去視パストビュー】はぜひとも手に入れたいと思った。


 先程、ブルーノの身体で洞窟に閉じ込められた際、僕はその二つの魔術をプルに使用し続けた。

 結果、三十数回分ずつ【保存】させられた。


 時間が許せば、もっと多くの【保存】したか

ったが、崩壊しつつある洞窟内にあれ以上留まるのは危険なので諦めた。


 早速、使わせてもらう事にする。


「その巻物スクロールを使った場所と、正確な日時はわかるかな?」


 僕の問いかけに、ビンセントとソフィーは胡乱げな瞳を返す。

 なぜ、そんな事を知る必要があるのか?

 怪訝に思われて、当然かもしれない。


 ただ、僕の表情と口ぶりは真剣そのものだったはずだ。

 想いが伝わってくれたのか、二人は訝しさを表しつつも応じてくれた。


「時期ならわかるべ。ちょうど、町で祭が催されていた頃だから」


 時間帯は午前中、昼前ごろだったという。


 それは好都合である。

 祭がいつであるかは、町の人ならば誰でも知っている。


 が、使用した場所の方は記憶が曖昧だった。


 人気のある場所は避けるはずだから、町の外である事は間違いない。それも、町の裏手。

 が、詳細な位置までは覚えていないようだ。それ程、町から離れてはいないはずだとはいうが。


 彼らの記憶を蘇らせる為に、僕らは町の裏手へとやって来た。

 ビンセントは、石化が戻りつつあるカインを肩に担いでいる。

 ミュウは、僕にぴたりとくっついてきていた。


「あの木の下だったべ」

「いや、あそこの岩のそばじゃね?」

「あのへんだったと思うの」


 ……半年も前である。

 記憶があやふやなのは、むしろ当然か。


 僕は町の裏手の草原が広く見渡せる場所で、プルに【潜入ダイブ】する。


 【過去視パストビュー


 今から半年前の祭の日、昼前の光景を幻視した。


 どうやら、ソフィーの記憶が正解らしい。


 先程、彼女が指し示していた木の下に、カインを含む銀の弾丸シルバーバレットの四人の幻影が近づいていく。


 自らの身体に戻った僕は、その樹木の元へ駆けていき皆に呼び掛ける。


「僕のそばに集まってくれ」


 ミュウは、既に横におり僕の腕をぎゅっと掴んでいる。

 けど、それ以外の皆は少し離れた位置に佇んだまま怪訝さや戸惑いを露にする。


「一体、何を始める気だ?」


 ビンセントは眉根を寄せる。

 ソフィーも、同様の顔をしてみせる。


「そーだ、ちゃんと説明するべ」


 僕が彼らの立場でも、同じ反応を示すだろう。


 どうする?

 僕の【潜入ダイブ】や、プルの能力について説明すべきか。


 そこで、ビンセントに担がれたカインに目を留め僕は血の気が引く。

 彼の脚は、もう付け根くらいまでが石化から回復してしまっている。

 もう、一刻の猶予もない。


 イリスが、僕のそばへ駆け寄ってきた。


「エイルさんを信用して欲しいのッ!」


 彼女は切実な顔で皆に訴える。

 リディアも、木の下へ駆け込んでくる。


「えーい、もう任せるぜ」

「あんたに全部、賭けるしかねー」


 ビンセントとソフィーも、僕の傍へ来る。


「シエラ、キミはどうするの?」


 唯一、木から少し離れた位置に佇み続ける彼女に僕は問う。


「ここに残る? それとも……」


 シエラは考えこむ様に少し俯いてから、顔を上げる。決意を固めた事が窺える表情で言う。


「私も、エイルさん達と一緒に行きたいです」

「え?」

「……だ、駄目ですか?」

「いや、キミがそうしたいなら」


 安堵の表情を見せ、シエラはこちらへ来る。


「その巻物スクロールって、何人くらいまで転移出来るの?」

「人数制限とかはねー」

「ああ、大体半径五メートル以内の全員を一斉に転移させる」


 この場の全員、問題なく飛べるだろう。

 僕は地面のプルに触れる。


「ダイブッ」


 その場で倒れそうになる〈僕〉の身体を、シエラとイリスが支えてくれた。

 おかげで、事情を知らないビンセントとソフィーにも過度な心配を与えずに済んだ。


 まずは……。


 【過去視パストビュー


 カインを含む銀の弾丸シルバーバレットの四人の幻が、すぐ目前に現れる。

 ソフィーの手には巻物スクロールが握られている。

 それが、地面に広げられた。

 淡く白い光が漏れ出し四人の幻影を包み込む。


 よし、今だ。


 【再現リプレイ


 今、僕らの眼前でも、幻影で見たものと同様の白光が発せられこの場の全員が飲み込まれていく。


 皆、何が起きているのか理解出来ていない顔をしている。


 段々と光が収まっていく。

 周辺の景色は同じ様な草原だが、先程までとは明らかに異なっている。

 〈僕〉の身体も無事、転移してきていた。


 全員が、不思議そうな顔で辺りをキョロキョロと見回している。


「あれを見るべッ!」


 ソフィーの指さす先へ、一斉に皆の視線が向く。

 そこには、僕らが見慣れた町の外壁がある。

 ダウノアだ。


「え、エイル。キミは一体何を?」


 自らの身体に戻り、起き上がろうとする僕にリディアが問いかける。

 が、その質問はビンセントの大声によりかき消された。


「やべえぞッ!」


 場にいる全員が、ビンセントに注目する。彼の視線は、地面に横たえられたカインに向けられていた。


 カインの身体は、頭部と胴体の一部を除きほぼ石化から回復していた。

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