グラム奪還


 部屋に戻った僕は、ベッドに横になる。

 プルを胸の上に乗せて両手で触れた。


 ミュウは、凄く心配そうな顔で僕の事をじいっと見ている。

 シエラも不安で仕方なさそうだ。


 大丈夫……て、そもそも実際に行くのは僕の身体ではないんだよね。

 勿論、だとしても色々と不安は尽きないけれど。


 ……よし。


「ダイブ」


 プルに潜入ダイブした状態で、一度深呼吸する様に心を落ち着かせる。


 行くぞ、プル。


『プルぅ』


 ビンセントの元へ……。


 【単独転移ソロテレポート


 身体が空気に溶けていくような感覚だ。

 突如、眼前の風景が一変する。


 まず目に入ったのは、銀色の毛むくじゃらの背中。ビンセントだ。すぐ隣に、ソフィーらしき後ろ姿もある。

 共に、地べたに座り込んでいた。

 ……お、同じ場所にいたのか。


 ソフィーのさらに横には、イリスの背中も確認できた。肩を落としており、後ろ姿からでも酷く落ち込んでいるのが如実に伝わる。


 三人とも、まだ僕(プル)の存在には気付いていない。


 とりあえず、すぐ横に立っている石像らしき陰に身を隠す。


 ……て、ここ何処だよ?


 あまり広くはない洞穴の様な空間で、その出口は柵で塞がれている。

 ……牢獄か?


 まずい所へ来てしまったかも。ある程度は予想していたけど。


 しかも、イリスが戻らなかったという事は……。


 僕は【単独転移ソロテレポート】を試みる。

 やっぱり、使用出来ないか。

 他の特技も同様に、使用不可だ。


 原理は不明だが、この空間では魔術やスキルが封じられてしまうのだろう。


 て、この石像は何だろう?

 獣人をモデルとした立像だが、牢獄の中に何でこんな物があるのか不思議である。


 柵の外にはブルーノとレックスの姿もある。


 ブルーノは、腕を組み岩壁にもたれ佇んでいる。

 地べたに座り込んでいるレックスの傍らの壁に、立て掛けてある剣は……グラム。


 ビンセント達三人は、柵の外の三人をじっと注視している。


 あれくらいの柵の隙間ならば、僕(プル)の身体ならば通り抜けられるのでは?


 僕は三人に気付かれないよう、壁沿いをそっと這って移動する。

 柵の間にプルの軟体を入れ込む。


 んぐぐぐ……、スポンッ。

 よし、通れたぞ。


 その瞬間、ずっと感じていた仄かな圧迫感から解放された気がした。


 ためしに【隠遁】の使用してみる。

 お、使えた。檻の外にさえ出られればスキルも問題なく使用出来るのだろう。


 これで、もう気付かれる心配はない。

 僕は、壁にもたれるブルーノに這い寄った。


「ん?」


 突然、ブルーノが足元を気にする。

 ヤバい。僕は咄嗟に大きく飛び退いた。


「どうかしたか?」

「……いや、何でもない」


 レックスの問いかけにそう応じつつも、ブルーノは周囲を見回し続けている。


 【隠遁】はあくまで気付かれ難くするだけで、気配を完全に遮断出来る訳ではない。

 ブルーノ程の相手に、あまり迂闊に近寄り過ぎるのは危険かも。


 僕は辺りを見回しつつ策を練る。

 よし、上から攻める事にしよう。


 壁を這い上る。更に、天井に張り付いてブルーノの真上を目指そうとした時だ。


 ブルーノとレックスが、何やら会話を交わしてから歩き出す。

 向かう先はの獣人達が囚われている檻だ。


 五人くらい獣人を檻の外へ出すと、乱暴に部屋の中央あたりに連れて来る。


 何を始める気だ?


 獣人達は、レックスの手前に並ばされた。

 レックスが徐ろにグラムを鞘から引き抜く。


 ま、まずい。

 僕は二人の方へ急いで天井を移動する。

 それなりに距離はあったが、ブルーノが都合よく僕のすぐ真下にやって来た。


 よし、行くぞ……。


 ふと、ブルーノが顔を上げる。

 僕は慌てて天井を横へ移動する。

 くそ、隙がないな。

 けど行かなきゃ、レックスを止められない。

 どうする……。


 ドゴオーンッ!


 轟音が響いたのは、ビンセント達が囚われている牢獄からだ。

 次いでビンセントらしき悲鳴も聞こえてくる。


「無駄な努力が好きな野郎だな」


 レックスが牢獄の中を見ながら嗤う。


 何があったのかはわからない。

 けど、おかげでブルーノの意識もそちらに向いてくれた。


 今だッ!


 僕は天井から落下する。

 ブルーノの肩へ上手く着地出来た。

 そのまま、彼の首にプルの身体を触れさせる。


『ダイブッ!』


 暗転の後、目の前にレックスが現れた。

 手前の獣人に対しグラムを高く振り上げている。


「死ねええ」


 ヤツを止めねば。

 その一心で掌を地についた。 


 僕(ブルーノ)の魔術により、レックスの足元が沼と化す。


「何のマネだ、ブルーノッ!」


 地に沈みながら怒りを露にするレックスに、僕はグラムを渡すよう命じる。

 訳もわからない様子のまま、レックスは僕に魔剣を投げて寄越す。


 僕は傍らに落ちている鞘を拾い、剣を収める。


 よし、グラムを奪還出来たぞ。

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