対決


「な、何なんだ。ここは?」


 まずルースは、石化した竜に目を留め驚愕の表情を浮かべていた。


「竜が石に……どうして」


 すぐに、彼は僕らの存在にも気づく。

 こちらを見て、思い切りその眼を見張った。


「リディア? なぜキミが……」


 そこで言葉が切られる。ルースの関心は、僕(リディア)よりも隣のミュウに惹き付けられたようだ。


「どうして竜がもう一匹ッ?」


 さらにルースは眉を顰めてみせると、ミュウの背中が確認できる位置に移動する。


「そ、そこに乗っているのは……エイルッ?」


 信じられない物を次々と目にしたルースは、目を見開き口を半開きにしたまま固まった。

 確かに酷く理解に苦しむ状況だろう。

 けど、それはこちらも同じだ。


「お前がバルドとマリンを殺したのか?」


 ルースは、ハッとした様に僕を見る。


「一体、何があったんだ?」

「それはこっちが聞きたい。その竜は何だ。なぜ、お前がここへ来た。どうしてエイルと一緒なんだッ?」


 お互い、訳のわからない事だらけだろう。問い質したい事は互いに山ほどあるはず。


「キュアアアッ!」


 突然、ミュウが大声で鳴いた。

 上体を起こし、威嚇する様に翼を広げる。

 そのはずみで背中の〈僕〉が地面に落下しそうになり、慌てて僕が受け止める。


「おい、ミュウッ。どうした?」


 その顔からは、強い憤怒の色が窺えた。

 ミュウは羽ばたき、ルースに向かって突進する。


「よせ、ミュウッ!」


 豹変し自らに迫り来る竜に、ルースは手にした剣で応対する。

 ミュウは、ルースの振るう剣を危うく躱す。


 一体、ミュウは何を怒っているんだ?


 とにかく、あの剣で斬られるのはまずい。

 〈僕〉の身体を地面に置き、僕は腰のロングソードを抜く。


 ミュウに相対しているルースに、側面から斬りかかった。

 敏感に反応しこちらへ向き直ったルースは、グラムで僕のロングソードを弾く。

 続けて横薙ぎに振り抜かれたグラムを、僕は背後に飛んで避けた。

 リディアの身体を傷つける訳にはいかない。

 けど、ミュウも守らねば……。


「うおりゃああッ!」 


 僕は果敢にロングソードでルースに斬りかかる。

 またも、グラムで受け止められた。

 次の瞬間、腹部に強い衝撃ッ!

 ルースの足裏での蹴りを食らってしまった。リディアの身体は、壁際まで吹っ飛ばされる。


 しばしの間、呼吸が出来なくなるほどの強烈な一撃だった。


 ミュウは相変わらず怒り狂ったように、ルースを襲い続けている。初めて見る、ミュウが戦う様だ。


 きっと本能のままに、腕や尾を闇雲に振り回しているだけなのだろう。工夫もない攻撃は、ルースにはまったく通用しそうもない。全て容易に躱されてしまっている。


 爪で引っ掻こうと腕を大きく振るも空振りし、ミュウは空中で体勢を崩す。

 すかさずルースはミュウの頭上まで跳躍する。


「食らえッ!」


 グラムがミュウの長い首に振り下ろされる。

 完璧な間合いとタイミング。ミュウには躱せそうにない。き、斬られる……。

 が、ルースのグラムは空を切った。

 突然、ミュウが消えた……ように見えた。


 少女の姿になったのだ。真下の地面に裸のミュウが横たわっている。剣を避ける為の、本能的な行為かもしれない。

 ただ、仰向けに倒れたままのミュウはまるで動かない。

 落下の衝撃で意識を失ったのか?


 ルースは少女になったミュウを見て、一旦は眼を見張る。か、すぐに微笑を浮かべる。


「もはや、何が起きても驚かん」


 ま、まずい。ミュウが殺されてしまう。

 僕はまだ思うように動けず、二人とも距離があり過ぎる。

 ミュウのすぐ傍に、〈僕〉も倒れている。落下したのが、ちょうどその場所だった。


 ルースが、ミュウを見下ろす位置まで来る。


「死ねッ!」


 グラムを持つ手が高く振り上げられた。


「ダイブアウトッ!」


 僕は身を起こし、すぐ目の前にいるルースに飛びかかる。剣を持つ腕を必死に掴んだ。


「エイル、お前ッ!」


 ミュウが斬られるのは防げた。が、僕の非力ではルースの動作を完全に制止するのは無理そうだ。

 グラムはそのまま強引に振り下ろされ、僕の右肩に刃が深く食い込んでいく。

 鋭い稲妻の様な痛みが走る。


「うわああぁッ!」


 ルースは嗜虐性を匂わす笑みを浮かべる。


「貴様はもう終わりだ、エイル」

「いいや。お前の負けだ、ルースッ!」

「何?」


 僕はルースの腕を掴んでいる自分の両手を、肌の露出した手首の位置へ移動させる。


「ダイブッ!」


 いつものように、僕の意識がルースに向かっていく。そのまま彼の中へ入って……いかない!

 な、何が起きた? 


 確かに【潜入ダイブ】は発動しているはず。なのに、上手くルースに潜入できない。途中で弾き返されてしまう感覚だ。

 こんなの初めてである。

 一体、何が……。


 ポオーン。


 頭の中で音が鳴り響く。

 以前にも、聴いたような……。


『スキル【潜入ダイブ】の発動に失敗しました』


 あ、助言者アドバイザーさん。

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