第18話
「
ミーシャさんは訝しげに首を傾げた。
冒険者ギルドは早朝が最も慌ただしい。
受付の応対が一段落した頃を見計らい、僕は彼女に、そういう魔術が使える人の心当たりについて尋ねてみたのだ。
石化状態から回復させるには、そういった効果を持つアイテムを用いるのが一般的だ。
ただ、ここダウノアでは、周辺に石毒を持つような魔獣は棲息しておらず需要自体がないため手に入らないと言われた。
王都でならば入手できるだろうが、資金と移動の為の時間を要する。そもそも人間用のアイテムが、竜にも有効か不明だ。
ならば、まずはそういった魔術の使い手を探す方が賢明かもしれないと思った。
「心当たりないですかね?」
「状態異常の種類にもよりますけど」
「その……石化なんですけど」
やや口ごもりつつ僕が告げると、ミーシャさんは思い切り目を見張る。
「せ、石毒にやられた方がッ?」
驚かれるのも当然だ。
「石毒持ち」なんていう、超危険な魔獣が付近に出没したとなれば一大事である。
館内にいる冒険者たちも、彼女の声に反応して一斉にこちらを振り向いた。
「いえ、そういう訳じゃないんです」
僕は慌てて大袈裟に手を振り否定する。
「た、たとえばの話でして。参考までに教えてもらいたいだけです」
「はあ……」
ミーシャさんは訝しそうに眉根を寄せてから、諳んじるように視線を彷徨わせる。
ある人の名前をあげた。
「グリンウェルさんならば……」
「回復術師の方ですか?」
「いや、そうではないんですけど」
ミーシャさんは、なぜか困惑したような苦笑を浮かべ小首を傾げる。
ん、どういう意味だろう?
僕は、当然そうなのだろうと思い問い掛けたので、予想外に否定されて少し困惑する。
ともあれ、その人が石化を治せるというのであれば、ぜひとも紹介してもらいたかった。
「その方は、今どちらに?」
「あ、けど当分はお留守かもしれませんね。つい先程、
「深層にですか?」
「はい。<
「それって
「はい」
少々ややこしいが、<
もちろん、パーティー名は
しかも、
「貴重な素材でも採取しに行かれたんですか?」
僕は何の気なしに訊いたつもりだった。
が、ミーシャさんは、なぜか顎に手を当てじっと考え込んでしまう。
思わず、傍らのミュウと顔を合わせた。
「先日、エイルさんがゴブリンを討伐したのは森の浅層ですよね?」
ミーシャさんは眉を顰めつつ問いかけてくる。
「ええ、もちろん」
「〈一本杉〉より、手前ですか?」
「はい」
より深い領域にいくほど、強力な魔獣が棲息しており、危険度は高くなる。
〈一本杉〉は、浅層を三分の一ほど奥へと進んだ辺りに生えている杉の木だ。周囲の木々よりも倍以上も背が高く、遠方からでもよく見えるため一つの目印とされている。
「普通じゃないんですよね。そんな浅い場所にこんなにもゴブリンが頻繁に出現するなんて」
たしかに、僕も森のごく浅い領域ならば、薬草採取などで何度か足を踏み入れた事がある。けど、魔獣に遭遇した事は一度もなかった。
それと、きのう僕らが去る直前、正体不明の何やら強そうな魔獣の声らしきも耳にした。
「あの辺りで、何か起きているんですか?」
「そこだけじゃないんですよ」
「え?」
「浅層の奥地では、中層にしか棲息しないはずの魔獣が目撃されたりしていて」
「……いったい、なぜ?」
「わかりません」
「じゃあ、グリンウェルさんたちが深層へ向かったのって?」
「森全体を調査するためです」
なんとも、大掛かりな調査である。
だとすれば、その人が戻るのはだいぶ先になるだろうと予想される。
その上、調査もするのだから一週間くらいは要すると考えるべきだろう。
仮に、そのグリンウェルさんが、石化状態を回復できる魔法を使えるとして、
まして、治す対象が〈竜〉だと知ったら……。
引き受けてもらえる自信はない。
場合によっては、莫大な金額を請求されるかも。
そもそも、〈竜の穴〉に行く事自体を拒否されそうだよな。
ならばむしろ、王都までアイテムを買い求めに行く方が現実的かもしれない。その場合も旅費を含め大金が必要になりそうだ。
とりあえず、その人が戻るまでの間にできるだけお金は稼いでおくとしよう。
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