第49話 一流
自ら一流のシェフと自負する男が、いよいよ世界進出を目指した。
そこで、山奥に住む料理の仙人を訪ねた。
「世界一流のシェフになるにはどうしたらよいのでしょう?」
すると仙人は答えた。
「今から、この国にいる三人の料理人を教えるから、そこに行って、その料理人より美味い料理を作ることができれば、世界にも通用するじゃろ!但し、必ず、その料理人と同じ条件でするのじゃぞ」
「お安い御用です。この国では俺が一番ですから!」
男は仙人が言うことだから仕方がないと三人のもとを訪ねた。
一人目の家を訪ねると現れたのは、脳出血で右半身がマヒしてしまった元パティシエだった。
元パティシエは左手だけで見事な菓子を作った。
男は四苦八苦しながらも、なんとか左手だけで同等の菓子を作ることができた。
「焦ったなあ、まあ何とかできてよかった……」
男は次の家を訪ねた。すると現れたのは二十歳で視力を失った全盲のシェフだった。
全盲のシェフは永年、何も見えないという恐怖心を克服して見事なピザを焼けるようになっていた。
男は、目隠しをして料理を始めると、すべて勘に頼るしかなかったが、さすが勘はピタリと当たり、同等のピザを焼くことができた。
「いや、危なかったな、ヒヤヒヤしたなあ」
そして三人目は、原因不明で先天性四肢欠損症のママでシェフではなかった。
ママは三歳の娘のために愛情込めて両足だけで卵焼きを作った。
男は一口食べさせてもらうと、それはそれは、美味しい卵焼きであった。
「まいりました!私には足を使って、こんなに愛情あふれるおいしい卵焼きは作れません……」
そう言って仙人のもとに戻ってきた。
「私は自分では一流と思っていましたが、まだまだ修業が足りないことが分かりました!心を入れ替えて一流になれるように頑張ります!」
「喝!じゃ、わかっとらんのう!一流、二流などと考えるお前の心がもはや一流なんぞではない!そんなものは、他人の評判じゃ、お前らしい、ありのままの料理こそが大事じゃぞ」
「はい、わかりました!」
男はさっそく帰って、まず家族に、愛情込めて精一杯の料理をふるまった。
息子は一言、「おいしかったよ、お父さん!」と言ったことばに、男は何よりも満足したという話だ。
ほう、霞しか食べていない仙人なのになあ……
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