第42話 自分にあった仕事さがし

「仕事って、どうやって選んだらいいのかな?」


 ふだんあまり会話をする時間のない息子が、ふいに父親に尋ねた。


 父は、なかなか、お互い忙しくて、息子と話をする機会がないなとさびしく思っていたところに、こうした質問をされてうれしく思った。


 が、質問内容としては、どう答えたらいいか、難しいなと思った。


 それは、自分の経験から話をすれば簡単なのはわかっているが、子供からは「大人は、すぐに自分の経験を話そうとするんだよ、今は時代が違うのに……」と思われてしまうのを心配した。


 そこで父はおそるおそる息子に尋ねた。


「何か自分のやりたいことってあるのか?やりたいことを仕事にするっていうことはあるよな」


 息子は、即座に答えた。


「それが……何をやりたいかって、まだ自分でもわからないんだよ」


 父はそれもそうだと納得して、今度は違う観点から話してみた。


「自分にあっているかあっていないか、向いてるかいないかって、そういう観点でさがすっていう手もあるよな」


「そうだよね。だけど、何が自分にあってるあっていないかとか、何に向いてるかって、まだわからないんだよ」


 息子としては、いたって、正直な気持ちを口にすると、父も、まさしく、自分を知るってことは難しいことだなと納得した。


《こまったな、どう言ったらいいかな、やっぱり、自分の経験を話すしかないかな》


 と、そう思ったとき息子が言った。


「今、入っているサークルでさ、リーダーとして運営することっておもしろいんだよ」


「運営?じゃ、何か自分で運営とか経営するってことには興味を感じるんだ?」


「ああ、そうだね」


「じゃ、そういう道も選択肢の一つじゃないのか……」


「そうか、わかった……また考えてみるよ、ありがとう」


 父は、ほーっと胸をなでおろしたのだった。


 

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