第40話 人を評価すること

 何か事件がおきたとき、こんなことを耳にすることがある。


「ふだんは、挨拶もしてくれていい人ですよ。まさか、そんなことをするなんて信じられません」


 ということは、その人の凶悪な面には、気づくことはなく、いい評価をしていたということである。


 人の評価というのは、今や人事考課という制度で給料にまで影響する時代になっている。


 そのため、評価する側からは、プラスになる面(長所)だけあって、マイナスになる面(短所)はない方がいいということになる。


「あなたは誰にでも優しくできるが、優柔不断だから、決断力のある人になりなさいね」


「あなたは意志が強く決断力があるけど、人の話を聞かないから、他人の意見も聞くようにしなさいよ」


「悪い面を、もっと早く、直しておくべきだったのよ。だから、失敗したのよ」


 まあ、幼いころから、こんな具合にやられるわけである。

 

 だが、この通り、人間とはこのように、なるものなのだろうか?


 一人の人間であっても、ある時は笑い、ある時は怒り、ある時は泣き、いろいろな顔を見せるが、だが、だからと言って、この四つに分裂した人間とは言わない。


 その人の根っこは一つである。


 ところが、評価されたい、または評価されると思うと良い面だけ出そうとして背伸びしてしまう。


 いくら、悪い面を封印しようとしても、そうはいかないのだ。


 石ころであろうと、卵であろうと、月面であろうと、表と裏を同時に見ることは不可能であるから、そのとき、見えているものは半分だけなのである。


 それゆえ、人を評価するということは、難しいというか、もしかしたら、完全にはできないのかもしれない。


 それをできると錯覚して、評価が流行しすぎることは、幼いころから、評価に振り回される人間を作ってしまうということなのだ。

 

 まあ、自分はもう手遅れだけどね……

 



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