第16話 子どもだまし

 子どもの頃、神社の夏祭りに怪奇人間の見世物小屋ってのがあって、こわいもの見たさになけなしのこずかいをはたいて入って見たことがある。


 なにやら、出て来たのは、普通のしわくちゃのお婆ちゃんで、尻尾がある人間だっていうけど、どう見ても作りものにしか見えなかった。


 大人になった今、これって、まさに子どもだましというやつなんだろうなと思う。


 大人になると、いろいろ気にさわることがあって、日本のモンスターが登場する映画やドラマは、アメリカものに比べると、リアルさに欠けるんじゃないかと。


 なにしろ、すっかり興ざめするのは、モンスターの死んでいる眼球、腕を曲げるときに出るシワ、潤いのない口、表情のない顔面、質量を感じない動作、モンスターのくせに人間にような動き、かわいい鳴き声、火だけはよく吐き、安ものに感じるコスチューム、飛び上がる感じはトランポリンを想像させ、空中では前転して着地し、首から上はヘルメットにしか見えず、手先は手袋、足先はブーツ、どの彩飾も不自然、暴れる場所も荒れ地か住宅街かビル街などなど、いちいちあげるときりがない。


 リアルさがほしいの一言に尽きるが、きっと予算がないんだろうなあって思うと我慢して見るか、いっそ、見なければいいんだろう。


 だが、子供の立場に立ってみたらどうだろう。


 きっとそんな視点で見ているわけはなく、本気でモンスターはそういうもんだと見ているに違いない。


 そう言えば、子どもの本質って基本的にこわがりだったんだってことを、大人になってみるともう忘れてるんだなあ。


 だから、リアルにこだわって、あんまりこわがらせちゃいけないし、ほどほどにしないと、大人になる前に気を病んじゃうかもしれない。


 災害、伝染病、戦争、犯罪とお先真っ暗なきびしい世の中だ。


 こんな時代に子どもをのびのびと育てるには、意外に、よりいっそう、子どもだましが必要なのかもしれない。


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