第15話 信長を倒した男

 敵対する誰もが、何としても倒したかった、おそろしき織田信長を、明智光秀が本能寺の変で、ひょっこり、やっつけたあとのことだ。


 信長の築いた安土城が、燃え尽きて落城するとき、天守閣に信長の姿を見た者がいるという噂が光秀の耳に入った。


 光秀は、ことのほか、おどろいたが、びびっていると思われてはまずいと冷静を装って、その者を探し出すように命じた。


 やがて、一人の商人が連れて来られた。


「おぬしが信長公の姿を見たのだな?」


「はっきりとじかにこの目でみました!」


「信長公はどんな表情をしておった?笑っていたかそれとも厳しい表情だったか?」


「へい、笑っているような表情をしておりました!」


《信長の首は見ていないが、逃げ出すスキはなかったはず!信長公が、厳しい表情をしていたなら、すべてを失って怨霊となったと思えるが、かりに笑っていたなら、生き延びてあざ笑っているのかもしれないぞ》


 光秀は、そわそわと落ち着かなくなってきた。


 そもそも、明智光秀が天下を取れなかった理由がここにある。


 誰も不可能だった信長殺害を成し遂げた意義は、どれだけ大きいものがあったか測り知れない。


 言わば、ナンバーワンを倒した者が次のナンバーワンになるのが普通じゃないのか。


 それにもかかわらず、天下をとることもできず、信長の死についてびくびくしていたということは、つまり、信長を殺すことだけが光秀の目標であり、個人的な恨みを晴らしただけにすぎないのだ。


「目標達成!おれは引退するから、あとは適当にやってくれ!」


 そう言って欲しかったな、やったことは本当にすごいことなのだから……

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