第14話 ミステリーと殺人

 テレビを見ていたら、サスペンスやミステリーが、むしょうにたまらなく好きだという五人の女性が最近の作品や傾向について座談会を行っていた。


 一人目の女性が切り出した。


「今夜もミステリー番組を見るためにあらゆるスケジュールを調整しているわ。何しろ、すっかり配役を見るだけで犯人はこの人に決まってると当て推量ができるようになったけど、それでもおもしろいのよ」


「ほう、この人は冷静派だな」


 二人目の女性は胸をどきつかせるように言った。


「何より心を波立たせるのは、憎まれ役が殺されるシーンね。そればかりか、不可解な死体が現れたときに自分の推理力や想像力がぱっと広がって、どうやって殺されたのか考えると身震いするほど興味をそそるわ」


「うわっ、けっこう激情派だ」


 三人目の女性は口ごもるような口調で言った。


「私、ふと思うときがあって、毎日毎日、まあよくたくさんの人が殺されるけど、数えてみると、なんとまあ殺される人の多いことか!こんなに毎日毎日、人が殺されてしまっていいのかしら」


 四人目の女性はとたんに言い返した。


「何を架空の物語に文句いってるの!実際に死んでるわけじゃないんだからさ。いやな役の人が死ぬことでストレス解消になっている人にはその程度でいいのよ。でもミステリーの面白さは、殺人よりも謎解きのレベルの高さの方よね。殺人は確かにインパクトがあるけど、推理しても簡単にわからないところがいいんじゃない」


「謎解きのレベルってのは妥当な意見だな」


 そして、五人目の女性が言った。


「私……殺人……いつも参考にしてるのよね……」


 私はこの発言がいちばん怖かった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る