第13話 平城京の池

 ある本にこんな話があった。


 奈良時代のころ、平城京をながめてある男がこう思った。


「都には役所の建物はたくさん建っていて都らしいが、どことなく殺風景だな。都のど真ん中に大きな池を作って、たくさんの大魚や亀を放して、釣りをしたり、見せ物にしたりすれば、おおぜいの人が集まって、さぞかし、にぎやかになるにちがいない」


 男は、さっそく、知恵をしぼって、木津川という川を塞き止めればすぐにできるはずだと考えたが、残念ながら、その年はほとんど雨が降らず川の水が少しも増えなかったため、とても実現は無理だった。


 そこで、ひょっこり、旅の者に話を聞いた。


「奈良のはるか北方には琵琶湖という海のような巨大な湖があるから、ひょっとすると、そこから水路を作って水を引けば相当大きい池ができるはずだ」


 男は、言われたとおり、一度も見たことのない琵琶湖に下見に行ってみると、あまりの大きさに度肝を抜かれて放心したように口走った。


「こんな立派な池があるなら、わざわざ都城に池を作ろうとする必要はないな」


 そう思い直すと、あろうことか、琵琶湖の湖畔に移り住んで小魚を釣っては満足し人生を終えたと言う。


 まあ、大願を懐いても、人の言に惑わされて、やすやすと考えをひるがえすようだと、何をやっても成就をすることはないわけである。

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