第51話 大団円

「ただいま!」


 夕方、無事にゴブリン討伐を終わらせたレイチェルたちが帰って来た。

 彼女の話だとゴブリンの巣は無事、駆除したらしい。


「すごくお腹が減ったよ」


「お風呂が沸いているよ。食事はもう少しで準備が出来るから、先に入っておいで」


「ありがとう」と言って、レイチェルは浴室へ向かう。




 夜は賑やかな食事会になった。


「俺はあの日、アレックスがいなくなって本当に心配したんだ。それなのに、お前はリサさんと楽しい旅をしていたなんてな」


「何度、同じ話をするんだよ。俺は俺で大変だったんだよ」


 俺とジャンはお互いに結構な量の酒を飲み、二人で昔話をしていた。


 子供たちは俺が作ったアップルパイを食べ、レイチェルとジェーシは二人で話をしている。

 その光景を見て、俺は今の幸せを実感した。



 

「じゃあ、俺たちは帰るからな」


 夜のかなり遅い時間になって、ジャンたちが帰宅した。

 グレン君は寝てしまい、ジャンが抱き抱える。


 ララとリリーも疲れたようで寝てしまった。

 俺とレイチェルで娘二人を子供部屋へ運ぶ。


 そして、俺とレイチェルは客間へ戻り、僅かに残っていたワインを二人で飲み始めた。

 二人だけになるととても静かだ。


「そっか、もう十年なんだ…………」


 レイチェルは懐かしそうに言った。


「そうだね。楽しかったよ」


「楽しかった?」


 レイチェルがムスッとする。


「ごめんごめん、これからも楽しくなるね」


「そうだよね」


 今度は笑う。


 俺たちは最後のワインの瓶を空にした。


「ねぇ、アレックス、今日はもう寝る?」


 レイチェルは切なそうに言う。

 彼女の言葉の意味はすぐに分かった。


「君は疲れているんじゃないのかい?」


「ううん、私は平気だよ」


「分かった。ちょっと子供たちが寝ているか確認してくるね」


「うん、先に部屋で待ってる」


 レイチェルは嬉しそうに言い、部屋へ戻った。


 俺はララとリリーが寝ている子供部屋のドアをそっと開ける。

 二人が寝ていることを確認し、レイチェルが待つ部屋へ向かった。


「二人はちゃんと寝てた?」


「うん、はしゃいで疲れちゃったんじゃないのかな」


「じゃあ、アレックス、今日は、ね…………」


 そう言うレイチェルはすでに上着を着ていなかった。


 お酒も飲んでいるし、そんな姿を見せられたら、興奮してしまう。


「レイチェル…………」


 俺は服を脱ぎ、彼女の覆いかぶさった。


 レイチェルもそれを受け入れる。

 今日は眠れない夜になるぞ。


 …………そんな風に鼻息を荒くした時だった。


「ちょっと待って」


 レイチェルが「待った」をかける。

 そして、彼女はベッドから立ち上がり、上着を羽織ってからドアを開けた。


「あっ……」と声を漏らしたのはララだった。

 後ろにはリリーもいる。


「騙されたみたいだよ」


 レイチェルは俺に言う。

 その可能性は考えていなかった。


「ねぇ、お母さんたちは裸で何をしていたの?」


 まだ純真無垢なリリーが言う。


「それはね。私たちの妹か弟を作っていたんだよ」


 ララが説明としては正解を言う。


「裸で抱き合うと子供が出来るの? グレンお兄ちゃんは好きな人同士で一緒にいると子供が出来るって言ってたよ?」


 ジャン、ジェーシ夫妻は子供向けの教育をしているようだ。


「う~~ん、間違っていないけど、一緒にいるだけじゃ駄目なんだよ。子供が出来る為にはね…………モガガ……」


 俺は急いで服を着て、ララの口を塞いだ。


「苦しいよ、お父さん」


「ララは手遅れかもしれないけど、リリーにはまだ純粋でいてほしいんだ」


「お父さん、愛娘にそれは酷いよ?」


 ララはムーッと俺を睨む。


「いいから、早く寝なさい」と旗色が悪い俺は二人に言った。


「えー、勉強の為に子供の作り方を私たちに見せてくれないのぉ?」


 ララが残念そうに言う。


 自分の子供たちに、自分たちの夜の営みを見せる親がいるはずないだろ!

 我が娘ながら、将来が心配になる発言をする。


「レイチェル、君からも言ってやってくれ」


 こういうことは同性である母親からの方が良いかもしれない、と考え、レイチェルに話を振った。


「う~~ん、見せるわけにはいかないから、お母さんの本を貸すよ。それで勉強して」


「おい!」


 俺はレイチェルがララに渡そうとした本を掠め取った。


「そんなことをして欲しかったわけじゃないけど!?」


「大丈夫だよ。純愛物を貸せばいいでしょ?」


「違う、そうじゃない!」


 純愛って言っても君が渡そうとしたのは官能小説じゃないか!


「え~~、純愛物よりも私は女の騎士さんが捕まって、堕ちる方が好き」


 ララがとんでもないことを言う。


「…………」


 どうしよう、うちの娘、九歳でとんでもない方向に興味を持ってしまった。

 というか、血統なのか、レイチェルもそっちの話が好きみたいだし…………


「…………リリー、君は早く部屋に戻って寝なさい」


 俺が少し低い声で言うとリリーは怒られたと思ったのか、

「うん、ごめんなさい」

と心配そうな表情で言って、戻って行く。


 ごめん、リリー、明日、きちんと謝るから許してくれ。


「さてとレイチェル、ララ…………」


 俺は二人に視線を向けた。


「えっ、まさか、ララに私たちの行為を見せる気になったの?」


「えっ、見せてくれるの?」


 この親娘はまったく……


「もちろん、これからお説教だよ」


 二人には道徳とか倫理とか常識とかを少し学んでもらおうか。


「そ、そんな……」


 親娘が口を揃えて、同じ表情で言う。


 こう見ると親娘で本当に似ているな。

 良い所も、悪い所も……


 でも、まぁ、毎日、退屈しないし、楽しい。


「あっ、お父さん、これは『今夜は寝かせないぞ』ってやつ?」


「そんなわけないだろ!」


 でも、本当に娘の将来が少しだけ心配だ。


「寝かせないのは私だけだよね?」


「君はララの前でそんなことを言わないでくれるかな!?」


 こっちはもう一生、こういう調子だろうな。

 レイチェルらしいけどさ……


 ――――まぁ、それに、今夜は寝かせない、のは事実かもしれないしさ。

 次は男の子が欲しいな…………

 女の子でももちろん嬉しいけどね。


 俺やレイチェルの楽しい日常はこれかも続いていく。

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