第50話 記念日

「ララちゃんがあなたみたいになったら、グレンとの将来設計は考えないといけないわね」


 ジェーシがレイチェルに向かって言う。


「ジェーシまで!? 酷いよ……」


 俺たちの会話の外でララがグレン君に近づく。


「ねぇ、グレン、私たちの子供、ほしい?」


 外から見たら、微笑ましい少女の発言だが、ララは子供の出来る仕組みをすでに理解してしまっている。


「俺たちの子供? うん、ほしい」


 一方、グレン君は分かっていないようだ。

 いや、まぁ、それが当然だよな。

 

「えっとね、じゃあ、あと三年くらい待ってね。そうしたら、準備が出来ると思うから」


「準備?」


 ララの言う『準備』の意味が分からずにグレン君は難しい表情をした。


「準備っていうのは私の…………モガガ……」


 俺はララの口を塞ぐ。


「グレン君にあまり変なことを教えちゃいけないよ」

と言いながら、ララの口から手を放した。


「は~~い」とララは軽い返事をする。


 こういう知識も教えないといけないのだろうが、今はまだ早いだろう。

 特にグレン君の教育に悪影響を及ぼしそうだ。


 ジェーシからも怒られそうだし……


「まぁ、恋愛をやることは大いに結構だが、さすがにもう少し待ってほしいな。俺もジェーシも三十を過ぎたばかりでお祖父さんや、お祖母さんになりたくない。アレックスやリサさんもそうだろ?」


 ジャンが言う。


 まぁ、確かにな。

 でも、今の様子だと俺は四十代でお祖父さんになりそうだ。


「私は気にしないけど? 家族が増えるのは嬉しいし」


 レイチェルが言う。


 俺たち大人組は苦笑した。


「君はまったく……」


 さすがにもう少し待ってほしい。


「さてと楽しい話はこれくらいにして、そろそろゴブリン討伐に行きたいんだが? 今日は早く終わらせたいだろ?」


 ジャンが笑いながら言った。


「今日って、何かあるの?」とレイチェルが言う。


 そういえば、レイチェルって記念日とかもあまり気にしないんだよなぁ。


「なんで自分たちの結婚記念日を忘れるのかしらね」


 ジェーシが苦笑しながら言うとレイチェルが「あっ」と言う。


「ご、ごめん、アレックス! 私ったら…………!」


「君らしくて安心するよ。今日は鳥肉たっぷりのシチューの他に鳥の丸焼きも作る予定さ。あっ、鶏肉が被るのは嫌かな?」


「ううん、私はどっちも大好き」


「それは良かった。この前、お義父さんと会った時、君が好きなワインをもらったんだ。それも開けようか。食後にはアップルパイも用意するからね」


 それを聞くとララとリリーが「お父さんのアップルパイ!」と口を揃えて喜んだ。

 グレン君は複雑な表情になる。


「大丈夫、グレン君も一緒に食べようか」


 俺が言うとグレン君も嬉しそうに「うん!」と答えた。


「この子ったら、私の料理よりもアレックスの料理の方が好きなのよね」


 ジェーシは不満そうだった。


「まぁ、結婚したばかりの時は本当に酷かったからな。戦場の飯の方がマシだった」


 ジャンが当時を思い出し、苦い表情になる。


「んっ? あなたのご飯、明日から黒パンだけにしようか?」


「おっと、悪い悪い。それよりもグレンだけ招待、ってわけじゃないよな、親友?」


 ジャンが俺に肩を組む。


「もちろん、君たちも一緒だよ。てか、最初から俺たちが断るなんて思ってないだろ?」


 ジェーシは食材の入った籠を持ってきていた。


「さすがにただでご馳走になるわけにはいかないでしょ。ベーコンとか、チーズとか、あとお酒も持って来たわ」


「結構な量になりそうだね」


「私がいれば、大丈夫だよ」


 レイチェルは胸を張る。


 その姿を見て、俺たちは笑った。


「さてと、じゃあ、行ってくるぞ、ジェーシ」とジャンが言う。


「私も行ってくるね、アレックス」


 レイチェルは言いながら、俺にキスをした。


「ジェーシさんはジャンさんと行ってきます、のキスをしないの?」

とララが二人に尋ねる。


 ジェーシはララと視線を合わせる為にしゃがんだ。


「ララちゃん、あなたの両親は頭の中がお花畑だから、人前でああいうことをするけど、普通はしないのよ」


 などとジェーシに酷いことを言われてしまった。


「確かにジェーシが甘えるのは俺と二人の時だけ……ぐふっ!?」


 ジェーシがジャンに肘打ちをする。


「あなたは余計なことを言わなくていいのよ」


 ジェーシは少し顔を赤くした。


「ふふふ、ジェーシだって、人のことを言えないね」


「あなたと一緒にしないでよ」


 ジェーシはレイチェルに抗議する。


「さて、じゃあ、ゴブリン討伐は頼んだよ。俺はジェーシと料理を作って待っているからさ」


 俺の言葉にジャンは「おう」と言い、レイチェルは「「うん!」と言って出発した。


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