第28話 変な親娘
※冒頭部分はレイチェルの父親の小説の内容になっております。
ローブを脱がしたら、もうリザは何も着ていなかったのだ。
「やっぱり気付いていなかったな?」
リザは胸を両腕で、陰部は脚を交差させて隠す。
「リ、リザ、お、お前……お前……! は、裸……!」
俺は突然のことで何を言えばいいか分からなくなった。
「動揺し過ぎ。これくらいで驚くな。私とハヤテはこれからもっと凄いことをするんだろ?」
リザは真っ赤な顔でニカッと笑った。
「あっ…………えっ…………そう、だな…………」
リザからこんな奇襲を受けるとは思わなかった。
こんなことが出来るとは思っていなかった。
「…………ハヤテが夜に会いたいって言った時からこういうことする、って予想していた。ううん、期待していた。もし、何もせずに帰ろうとしたら、私の方から迫るつもりだったからな。だから、私の準備は出来ているぞ…………」
言い終えるとリザは深呼吸をしてから後ろに倒れる。
そして、ゆっくりと胸を隠していた両手をどけ、交差させていた脚を開く。
二つの小さな膨らみと秘部が露になる。
「今、私、ハヤテに裸を見せてる……」
右手でシーツを掴み、左腕で顔の上半分を隠した。
リザの肌は白くて、とても奇麗で…………
…………って、これ、官能小説じゃないか!!
「お父様、この二人って処女と童貞ですか?」
レイチェルも隣で小説を覗き込んでいた。
おい、レイチェル、父親になんて質問をしているんだ!?
「そうだぞ。この部分は童貞と処女の初体験だ」
おい……じゃなくて、あのフリード様、娘になんて返答をしているんですか!?
「初体験を物語の終盤に持ってくるということは今回の小説は純愛なのですか?」
「純愛、ではないな。この主人公の青年は異世界から召喚され、偶然、森で奴隷のハーフエルフと出会う。そこから物語が始めり、様々な種族とハーレムを作るんだ」
「でも、お父様の小説、ハーレムを作ったら、その後はすぐにまぐわう展開じゃないですか?」
まぐわう、なんて言葉、普通はすぐに出てこないし、実の父親に言う言葉じゃないぞ!
「だから、この小説は新しい挑戦なのだよ。作者名でこの小説を手に取った者たちはこう思うだろう『どうせ、この作者のことだから十ページ後には男女が裸でくっついているだろう』とね」
「確かにそうですね。私だって、お父様の作品ならそういう展開だって思います」
この親娘の会話、酷過ぎる……
俺はブレッドさんを見た。
すると直立のまま、目を瞑り、沈黙する。
その様子から、これが日常であり、そして、ブレッドさんには関わる気が無いと分かった。
「しかし、だ。今回はどんなにお色気展開があっても、中々一線を越えない。読者はずっともどかしい気持ちで小説を読むことになる。それを最後に爆発させるんだ。で、アレックス君、どうだった?」
フリード様は俺に感想を求めて来た。
「い、いや、だとしたら、情事の部分だけ読んでも魅力が半減してしまうのではないですか?」
相手は王族なので、俺に突っ込みを思い留まらせた。
「いやいや、アレックス君に聞いているのは小説の感想じゃなくて、童貞を捨てた時のリアルさについてだ」
…………ん?
何を言い出した?
「私は十三の時にメイドと色事に及んで、童貞を捨ててしまったんだ。だから、大人になってから、童貞を捨てるという感覚や価値観がどうも分からなくてね」
おい、こいつ……じゃなかった。
フリード様は娘の前で何を言い出したんだ。
「キュリナおばさんのことですよね。今も奇麗ですものね。子供の頃のお父様が劣情を抱くのも分かります」
レイチェルが言う。
どうやらレイチェルも知っているようだ。
本当にもう嫌だ、この親娘…………
「で、どうだ? この童貞卒業はリアルに書けているか?」
「そんなことを聞かれても困ります。だって…………」
童貞、と言いかけて言葉が詰まった。
それを宣言するのは恥ずかしい。
「お父様、アレックスは童貞です。感想は聞けませんよ」
レイチェルが要らない説明をしてくれた。
なんで俺の個人情報を勝手に公開したんだ!
「レリアーナ、アレックス君は軍人なのだろ? 軍人と言えば、娼婦の館で夜を過ごすものじゃないのか?」
何だか、最近、同じような台詞を聞いた気がするな……。
「そう言う人もいます。でも、俺……私はちょっと仕送りとかをしていて……」
俺の育った村の主な収入源は畑の作物や森で取れる動植物だが、不作になると小さな村なので一気に厳しくなる。
それに魔物からの襲撃もあるので村を囲う策なども必要だ。
色々と金が要る。
だから、俺と親友のジャンは村へ仕送りをしていた。
「そうだったのか。若いのに献身的な青年だ。…………だが、金を払わなくても性交は出来るだろう?」
ずいずいと来るな……
「残念ながら、そんな機会と相手が存在しませんでした」
俺がそう答えるとフリード様は首を傾げる。
「まさか、そんなことは無いだろう。なぁ、レリアーナ?」
フリード様はレイチェルに視線を向けた。
……え?
なんで?
「さっきも言いましたが、アレックスは童貞です」
……二回刺された。
「私とも何もありません」
レイチェルの言い方は少しムスッとしている気がする。
……んっ?
あっ、フリード様は俺がレイチェルに手を出したと思っているのか!?
「間違いないのか?」とフリード様がレイチェルに聞くと「はい、間違いないです」
レイチェルは即答した。
するとフリード様の視線は再び俺に向けられた。
その視線は怒っているようだ。
えっ、なんで!?
「ここへ来るまで色々とあったのに、なぜ手を出さない? アレックス君、私の娘はそんなに魅力が無いのかね? 手を出す価値が無いと?」
なんか変な怒り方をしている!
「いえ、そんなわけではありません! でも、付き合ってもいない内にそういうことをすべきではないかと……」
「男が何を言っているんだ! 私が君くらいの年の頃は身分を隠して街へ遊びに行き、女性に声をかけ、朝まで一緒に過ごしたものだ!」
それはあんたが特殊なんだよ! と突っ込みを入れてしまいそうだった。
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