第29話 人は人
「お父様は昔から女性が大好きでしたよね」
レイチェルが会話に参加する。
娘にそういった交流関係を知られているのは嫌じゃないのだろうか?
「私のお母様だって平民の出だったのに浴場で押し倒しましたし」
「…………」
そうだった。
レイチェルは出会ったばかりの頃、そんなことを話していた。
フリード様は娘に色々と把握されている。
というより、隠そうとしない。
「ああ、セレナは本当に良い体をしていたな。そんな女性が浴場で私の身体を洗う際、薄い布の一枚でいるんだ。手を出すな、という方が無理じゃないか?」
「…………」
今更だが、レイチェルが性的なことに抵抗が無い上、関心が強いのは父親の影響だろう。
「二人の状況を聞いて、絶対にもうヤってしまったと確信したのだがな。本当に何もしていないのかね?」
フリード様はもう一度聞く。
「何もしていないわけじゃないですよ。裸を見せたり、胸を揉ませたり、股間に顔を埋めたりはされました」
「レイチェル、二回も同じことを言わないでくれ!」
俺は思わず、いつもの調子でレイチェルに突っ込みを入れてしまった。
「レイチェル?」とフリード様は首を傾げる。
「あっ、えっと、その……」
王族の娘を呼び捨てはまずい。
俺はさすがに怒られると思ったが、
「ああ、そうか。勇者としてはレイチェルで通していたな」
フリード様は思い出したように言う。
「レリアーナもレイチェルも今となっては私の大切な名前です。だから、アレックスが私のことをレイチェルと呼ぶことを許して欲しいのですが……」
「許すとか、許さないとかは私が言うことじゃない。レリアーナがそうしてもらいたいなら、好きにすると良い。アレックス君、今まで通りに呼んであげてくれ」
「えっ、あ、はい。分かりました」
「不思議そうな顔をしているね」
俺は少し迷ったが、気になったことを聞かずにはいられなくなり、
「王族の方は、私のような平民のことをもっと下に見ていると思っていました」
と口にする。
俺と普通に話しているフリード様のことが気になってしまった。
「確かにそういった価値観を持つ王族や貴族がいるのは事実だ。私のような者が少数派だというのは自覚している。…………さっきも言ったが私は若い頃から身分を隠して街で遊んでいた。そこで人と接するうちには王族とか貴族とか平民とは所詮、身分でしかない、と思ったのだよ。人は所詮、人だ」
フリード様はさらっと言う。
王族がこんなことを言うなんて、と俺は驚いた。
少し変わっているが、フリード様には好感が持てる。
「それにしても君は本当に意志が強いのだな。私がもし君くらいの歳で同じ状況なら『助けてやったんだ。お礼はどうすればいいか分かるよな? 大丈夫、責任は取る』と言って、襲っていたと思うぞ」
「…………」
この人、最低だ。
娘の前でなんてことを言っているんだ?
「親の私が言うのも変だがレリアーナはかなり美人だと思うのだが? 確かに少しだけ胸は残念だが……」
「なんですか? お父様、私と喧嘩をしますか?」
レイチェルの声は低かった。
レイチェルの胸が残念?
確かに大きくはないけど、残念だと思ったことは無い……って、俺は何を考えているんだ?
ジェーシと比べると確かに少しだけレイチェルの方が小さい気がするけど…………
「アレックス、どこを見ているのかな?」
レイチェルの敵意が俺に向く。
俺の視線が無意識のうちにレイチェルの胸へ向いてしまっていたのだ。
「えっと、あはは……」
「えい」
「いてて……!」
レイチェルは繋いだ手をぎゅ~~、と握った。
「レリアーナ、怒ってはいけない。むしろ、誇るといい。小さい胸というのも需要があるんだ。少し特殊な分野になるが……」
「娘を『特殊な分野』って言わないでくれますか? 私は別に小さくないです。たぶん……。お父様は昔から、女性の胸ばかり見て……」
一体俺は何を聞かされているのだろうか?
仲が良いのは喜ばしいが、親娘でそんな会話をされると反応に困る。
「お前だって、大きな胸は好きではないか? 子供の頃から胸の大きなメイドを見つけては揉んでいたのを覚えているぞ」
「私は女で、子供だったから大丈夫です」
いや、大丈夫じゃないだろ!
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