第14話 レーテ村へ到着
俺が故郷のレーテ村へ帰るとみんなが集まって来た。
「アレックスか? 人間が魔王軍に勝ったっていうのは本当なのか!?」
昔から良くしてくれるジャンの父さんが話しかけてくる。
ジャンもこの村の出身だ。
「本当ですよ」と俺が答えると集まった人たちから歓声が上がった。
「ジャンは無事なのか? まさか…………」
ジャンが俺と一緒に帰って来なかったので、おじさんは不安そうな表情になった。
「大丈夫です。しぶとく生きてますよ」
それを聞いたおじさんは心底、ホッとしているようだった。
「じゃあ、なんでアレックスだけ帰って来たんだ?」
「俺は今、別の任務に就いています。この人をある国へ送る途中です。レーテ村が途中にあったので寄ったんです」
昔から知っている人に嘘をつきたくないが、本当のことを言うわけにはいかない。
だから、俺はレイチェルのことをそう紹介した。
レイチェルは顔を変えているので〝御旗の勇者〟だと気付く者はいないだろう。
「任務ねぇ…………その人はアレックスの恋人か?」
おじさんが笑いながら言う。
まぁ、手を繋いでいたらそう思われても仕方ないか。
「違いますよ。ほら、俺って触れている間、人の呪いを無効にできるでしょ? 彼女は少し厄介な呪いを受けているので、それを解呪するまで俺が手を握っているんです」
「じゃあ、お前、ずっと女の子と一緒なのか!? なんて羨ましい……いたた!」
俺に嫉妬するおじさんの耳をおばさんが掴んだ。
「あんた、アレックスは任務でやっているんだよ! あんたみたいに下心があるはずないだろ! ごめんなさいね。うちのが」
「良いんですよ。おばさんも元気そうで何よりです。おじさんにも言いましたけど、ジャンは無事ですよ」
俺の言葉におばさんは大きく息を吐いた。
「まだ、孫の顔を見せてもらってないのに死なれちゃ困るよ」
おばさんは笑う。
その後、少しだけ村のみんなと話をしてから、俺は目的のジェーシの家へ向かった。
「いい人たちだね」
レイチェルが言う。
「うん、とても良い人たちだ。両親が死んだ俺を育ててくれたんだよ」
「アレックスの両親って?」
「母さんは病気で、父さんは魔王軍との戦争で、俺が子供の頃に死んだよ。それでも村の人たちは俺を見捨てずに育ててくれたんだ」
「軍人になったのは恩返し? それともお父様の遺志を継いで?」
「恩返しなのかな? 魔力があることが分かって、子供の俺は魔王を倒してやるって思ったさ。実際、俺にはそんな力は無かったけどね。世界を救ったのはレイチェルたちだし」
俺が自嘲気味に言うとレイチェルは首を横に振る。
「確かに直接魔王を倒したのは私たちだよ。でもそこまでの道程にはたくさんの人々の努力と犠牲があった。だから、あれは私たち勇者の勝利じゃなくて、人間の勝利、って言うべきだよ」
「勇者にそう言われるとちょっとだけその気になれるな」
「もう……からかわないでよ」
レイチェルは照れ臭そうだった。
「ごめんごめん。…………着いたよ」
俺は足を止める。
家のドアをノックするとすぐに女性が出て来た。
ジェーシだ。
「あら、しぶとく生きていたのね」
「ジェーシ、久しぶりに会って言うのもなんだけど、もう少し身なりを整えたらどうだ?」
ジェーシはダルダルの服に、ボサボサの髪で登場した。
「私には旦那がいるから。別に女磨きをする必要は無いわ」
ジェーシは自分に言い聞かせるように言った。
「そんな変な願掛けをしなくても大丈夫だ。ジャンは無事だし、もうすぐに帰って来るよ」
それを聞いたジェーシは俺の肩を掴んだ。
「本当……なのね?」
「こんな悪趣味な嘘をつかない」
俺の言葉を聞いたジェーシは体の力が抜けたようで崩れ落ちる。
涙を流し、「よかった……」と呟いた。
「じゃあ、吉報を届けてくれたお礼にアレックスの筆おろしをしてあげるわよ?」
ジャンが無事だと知ると、ジェーシからしおらしが消えた。
そのままでいて欲しかった。
というか、レイチェルがいるんだぞ!
「親友の奥さんで童貞を捨てる予定はない。というか、初対面の人もいるのにその調子で話さないでくれ」
俺はレイチェルへ視線を移した。
「初めまして、リサと言います」
ジェーシはレイチェルを観察する。
そして、何かに気付いて、
「ふ~~ん、失礼な子ね」
と辛辣な言葉を放った。
言われたレイチェルは驚いて目を丸くする。
「し、失礼はあなたの方じゃないですか?」
「いいえ、あなたの方が失礼。名前も顔も偽って、挨拶をするなんてね」
やっぱりジェーシにはバレるか。
「アレックス、この人は何者ですか?」
「解析魔法の熟練者だよ。いくつもの国から誘いがあったのに断った変人でもあるけどね」
「お金や名声なんて、愛に比べたら、価値なんてないようなものよ」
ジェーシはジャンと居ることを選んでこの村へ来た。
「話が逸れたわね。さて、あなたの正体、家の中で詳しく聞かせてくれるかしら?」
ジェーシは俺たちを家の中へ誘った。
レイチェルはお互いを繋いでいた手をギュッと強く握った。
それは彼女が緊張している時にする仕草だ。
「大丈夫、悪い奴じゃないし、話が分かる奴だよ」
「ところでアレックス、もしかして、その子で童貞を卒業しちゃったのかしら?」
「!!?」
「…………失礼な奴だけどね」
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