第15話 呪いの解析

 ジェーシは俺たちを客間に通す。

 そして、椅子に座った。


「で、その子は何なのかしら?」


 ジェーシはレイチェルに視線を向ける。


「そんな露出の多い服を着ているのはアレックスの趣味? それともその子の趣味?」


「どっちでもない。レイチェル、変身を解いてくれるか?」


 俺はレイチェルのことを本名で呼んだ。

 レイチェルは驚く。


「大丈夫、ジェーシは失礼な奴だけど、信用は出来るからさ」


 俺がそう説明するとレイチェルは変身を解いた。


 レイチェルの素顔を見て、ジェーシは首を傾げる。


「どこかで見たことがあるわね」


「彼女は〝御旗の勇者〟レイチェルだよ」


 俺が言うとジェーシは手をパンと叩いた。


「そうだわ。レイチェル様だわ。最年少勇者の…………ええぇ!?」


 さすがにジェーシも驚いたようだった。


 俺はジェーシへここまでの経緯を説明する。


「なるほどね。なんて面白いことになっているのかしら!」


 …………おい。


 今の話を聞いてよくそんな感想が言えたな。


「あの、出来れば、、もっと気軽に話してくれませんか? アレックスにもそうお願いしているので」


 ジェーシは少しだけ沈黙し、

「分かったわ。でも、一方的なのは嫌だから、あなたも気軽にジェーシと呼んでくれるかしら?」


「またこの展開ですか。いえ…………分かった」


 レイチェルは俺の時よりもすんなりジェーシと打ち解けた。

 やはり同性の方が接しやすいのだろう。


「さてと……それにしてもアレックス、あなたもやるわね。勇者と結婚したら、将来安泰よ。レイチェル、あなた、勇者ってことは結構、お金を持っているんでしょ?」


 おい、ジェーシ、レイチェルは気軽に話して欲しいってお願いしただけで、失礼なことを言っていいとは言ってないぞ!


「えっと、はい、結構、お金は持ってます」


 レイチェルは正直に話さなくていいから!


「アレックス、これであなた、お金持ちになれるわね。まさか、あんたのところにこんな美人で、強くて、お金持ちのお嫁さんが来るなんて!」


 どこからそんな話になった!?


「おい、俺は説明したよな!? 俺はレイチェルの呪いを無効にするために一緒にいるんだよ!」


 俺が抗議するとジェーシはレイチェルを見て、溜息をついた。


「あんたって昔からそうよね?」


「な、何が?」


「そんなんだから、いつまで経っても童貞なのよ。好機に気付けずにさ」


「?」


 俺にはジェーシの言葉の意味が分からなかったが、一瞬だけレイチェルが強く手を握った気がした。


「まぁ、いいわ。それよりも解呪方法が知りたいのね」


 ジェーシは呆れているようだが、俺にはその理由が良く分からない。


「失礼するわね」と言い、ジェーシはレイチェルに触れる。


「…………確かに強い呪いを受けているわね。レイチェル、ちょっと準備するから待ってて」


 ジェーシは一度、客間から出て行く。

 戻ってくると二つの魔道具を持って来た。


「それはなに」とレイチェルが尋ねる。


「私が自作した呪いの種類や強さを調べる魔道具よ。三つ、提供してもらいたいものがあるわ」


 ジェーシは言いながら、二つの魔道具を机の上に置く。


「こっちの魔道具には魔力を流してくれるかしら。で、こっちは指を中に入れると小さな針が出るようになっていて、血液を採取できるようになっているの。ちょっとチクッとするから覚悟してね」


 ジェーシはすぐに魔力を流して、一つ目のノルマを達成する。


「…………」


 ジェーシが俺の手をギュッと握っていることから、血液の採取を少しだけ躊躇していることが分かった。


 それでも大きく息を吸って、魔道具に指を入れる。

 チクッとしたらしく、レイチェルの体がビクンとなった。


「はい、ありがとうね」


 ジェーシは二つの魔道具をさげる。


「もう一つは何ですか?」


 レイチェルは俺と握っている手に力を入れている。


「身構えなくていいわよ。髪の毛を一本もらうわ」


 それを聞いたレイチェルは安心し、手から力が抜けた。

 髪の毛を一本だけ抜き、ジェーシに渡す。


「解析までには少しだけ時間をもらうわ。明日の朝には分かると思うから、またその時に…………」


 会話の途中で、


 ドンドン、とドアが叩かれた。


 俺たちは顔を見合わせる。

 ドアの叩き方が尋常ではなく、何かが起きたと直感した。


「ジェーシ、大変だ!」


 ジャンのおじさんの声がした。


 俺たちは客間を飛び出す。

 そして、家の入り口のドアを開けるとおじさんが頭から血を流していた。


「お義父さん、大変だわ! 早く手当てを……」


「俺なんてどうだって良い! 大変だ! 西の畑にオークが出たんだ!」


 おじさんはそう訴えた。

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