第2話 転移先

「なんだここは?」


 転移先は異様な光景だった。


 森だったのだろうが、草木が全て枯れている。

 それに生き物の気配が全くない。


 その理由はすぐに分かった。


「この子が全て生物の生気を吸い取っているのか」


 少女の首から流れたと思われる血はすでに固まり、乾いていた。


「どういうことなんだ?」


 気を失っている少女には呪いが掛かっているようだった。

 俺が彼女に近づいても平気なのは異常な呪い耐性のおかげだろう。


 俺は分析魔法を使って、呪いの強さや効果を調べる。


「なんだ、これは!?」


 俺は思わず声をあげてしまった。


 呪いの強さは測定不能。

 呪いの効果は広範囲の全ての動植物の生気を吸い取る、というモノだった。


 広範囲というだけあって、見渡す限りの森が枯れている。

 この少女は生きているだけで災厄となる存在だ。


 よく見ると首の傷は誰かに付けられたものではない。


 少女の手には剣が握られている。


 その剣で自らの首を斬ったようだ。


「んっ? この子はまさか…………!?」


 魔王軍との決戦の前に俺は少しだけこの少女と話したことを思い出した。


「〝御旗の勇者〟レイチェル様か?」


 少女は勇者の一人だ。


 この呪いはまさか、魔王の受けたのか?

 それで誰にも迷惑をかけないように自決しようとした?


 確かにこの呪いはヤバそうだ。


 でも、もしこの呪いが魔王から受けたものだとしたら、俺には魔王の呪いすら効かないってことか?


「それにはさすがに驚くな」


 魔法の才能なんて何もなかった俺だが、二つ特別な能力を持っていた。


 一つはこの異常な呪術に対する耐性だ。

 俺には一切の呪いが効かない。

 まさか、魔王の呪いまで無効にできるとは思わなかったが…………


「待てよ。もし、魔王の呪いすら効かないなら、もう一つの能力でレイチェル様を救うことも出来ないだろうか?」


 そして、もう一つの能力は呪術を受けてしまった者の呪いを一時的に無効にする能力だ。


 その方法は簡単で俺が相手の体に触れていれば良いだけだ。

 だけど、触れていないとまた呪いは再発する。


 限定的で解呪は出来ない。

 だから、実用性皆無の役立たずの能力だ。


 俺はレイチェル様に手を伸ばす。


 しかし、途中でその手を止めてしまった。


 一時的に呪いを無効化してどうするんだ?


 魔王の呪いを解呪できる人間なんているのだろうか?

 ここで助けても一生、手を繋いでいるわけにはいかない。


 だとしたら、ここで助けてもまたレイチェル様は苦しむかもしれない。


 今なら気を失っている。


「この方のことを思うなら…………」


 俺はレイチェル様が握っている剣に視線を移した。


「安らかな死を迎えるべきではないだろうか?」


 そんなことを考えていると、

「お父様……お母様……」

 レイチェル様が呟くように言う。


 目を醒ましたのかと思ったが、ただのうわ言だった。


 でも、レイチェル様はまた涙を流している。


 確か、俺よりも三つ年下のはずだ。

 今、17歳…………


「この方を殺すなんて出来ない…………死ぬのには早すぎるだろ…………」


 俺は後のことなど何も考えずにレイチェル様の手を握った。


「これで呪いは止まったのか?」


 枯れた森では呪いの有無が確認できなかった。


 だけど、すぐそばに小鳥が飛んできたのが見えた。


 小鳥は問題無く、鳴き声をあげている。


「どうやら成功みたいだな。…………さて、これからどうしようか。まずは傷の手当ても必要かな。でも、これって…………」


 確認すると首の傷はすでに塞がっていた。

 どうやら、この呪いは他の生き物から吸い取った生気を取り込めるらしい。


「傷の手当ては大丈夫そうだな。それにしても、まさか勇者を助けることになるなんて…………」


 この出会いがどんな結末になるか分からないが、凡人の俺には中々刺激的なことになりそうな気がした。


「とりあえず、水に困らない場所へ移動したいな」


 俺はレイチェル様を背負って、行動を開始する。

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