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レネディール大陸北北東の山岳部に、人狼の国・トルガイ王国は在った。

その西側には起伏激しい広大な高山が広がり、山懐から裾野にかけて小さな村がいくつも山にしがみつく様にして点在している。

トルガイ王国の現王はグウェンダル・Rレグナム・トルガイ。在位は100余年と長く、官吏や民衆からも「賢狼グウェン」と呼び慕われて久しい。

彼の勅命によりルーテルからリジア、そして荒地を挟んだ先の街トエト…北から西へと道筋を逆行しながら各都市間に刑務兵達アエディリスを配備して包囲網を敷いたトルガイ王国軍は、長引く戦況に一気にカタをつけるべく各都市に潜伏している人間エダイン・ウルグを炙り出し始めた。


ルーテル近隣の村、もしくは都市から追い立てられ集まった人間エダイン・ウルグ達は、王国軍の攻撃に脅えながらトエトの街を迂回して荒地へと分け入った。

人間エダイン・ウルグたちは、みな生気のない疲れきった顔で荒地の間隙に襤褸布を敷いてテントを張り、道端の草を食べて飢えを凌いでいたが、毒水が湧く荒地の植物を口にした者らは七日と持たず死滅した。

魔力を持たない人間に、荒地は静かに牙を剥いたのだ。


死に絶えた同胞の骸を見ながら飢えに耐え、九死に一生を得た一部の人間エダイン・ウルグたちはそこから更に西進して海岸線に沿って広がる森を目指した。

しかしそれを予期していた王国軍勢は火矢を番えて迎え撃ち、その多くを捕虜としたのだったが……虜囚として生け捕られ王城に送られた彼らの後の処遇は……奴隷であった。

背に生涯消えない焼印を捺され、雑役を任された彼らは人間エダイン・ウルグ狩りに囮として駆り出された。

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