01
「私から何もかも奪ったくせに、それすらも忘れて、のうのうと毎日息をしてる…そいつらに地獄を見せるにはどうすればいいのか…ずっと考えてきた…」
「エマ…」
───ハンクは、その目を知っていた。
底光りする眼差しの奥に、冷えきった孤独と憎しみが揺れるそれは“復讐者の目”だ。
(エマと、俺は…よく似た
そういえば、目が覚めた時に留守だったのは…まさか、今日も復讐対象の様子を見に行っていたのではないだろうか?
並々ならぬ憎悪を抱いている復讐対象を、彼女は一体…今までどんな気持ちで眺め続けてきたのだろう。
鏡合わせにした自分とエマが重なる感覚に
…ダメだ。それだけはいけない、彼女の
完全に闇の底に堕ちた自分のようではなく、どうかエマには光の中で笑っていてもらいたいのだ。
「すべてを奪われた日の光景も、この憎しみも、消えることはないわ…」
憎しみに凍え───我を失った目をさせたくなくて、ハンクは膝立ちに屈むと目線を合わせ、真っ直ぐにエマの目を見た。
「いけない」
「ハ、ンク…?」
「そちら側に落ちてはダメだ。己を見失うんじゃない」
強く暖かな言葉が、エマの凝った心を溶かして射た。優しく諭されて、ようやくエマは自分の有り様が恥ずかしくなり、バランスを崩してソファに座り込んだままゆっくりと項垂れて両手で顔を覆い隠した。
「……そうね。……そうよね。ごめんなさい。私ったら、自分勝手に一人で先走ったりして…なに考えてるのかしら」
「…なあエマ…俺にも、仔細を教えてくれないか? 復讐をするにも計画を知らないと、動くに動けないだろ?」
諭されて正気に戻ったエマは、深く頷いて居ずまいを整えると今まで身に降りかかってきた事情を全て話すと同時に、復讐計画を掻い摘んで伝えた。
しかし、エマの話は想像していたものよりもかなり過酷で残酷で、ハンクの心に怒りを灯すには充分だった。
「なんてことを……そんなヤツら、芋虫にでも変えて鳥の餌にしてやろうか」
ああ、理不尽に歯を食い縛ってきた彼女を、何からも護ってやりたい。そんな想いがふつふつと湧いてきてハンクは拳を握り締める。
だが、か弱く見えてもただ泣き寝入りする女に収まらないのがエマだった。
「ううん足りないわ。実はもう、
暇乞いに行くついでに復讐を果たすつもりなのだと悟ったハンクは、静かに固唾を飲んだ。
同時に…彼女は機転が利いて非常に賢く、計画を練ることに長け…集団内では策士に向いているということにも気が付いた。
「俺はどうすれば?」
「傍にいて。…今…できるのは、それくらいかな…。そろそろ暗くなるからカーテン閉めなくちゃ」
そっと横をすり抜けて離れていったエマの横顔は、よく研ぎ澄まされた抜き身の刃物のようだった。
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