2話 旅立ち
「……そうだ…」
ふと苦い「禍根」が胸の底に甦ってきて、エマは無言で唇を引き結ぶ。
ずっと意識の奥に根を張っていた
何も無ければ関わり合わずに放置するつもりだったが、この
今こそ、
「一緒に行く前に、当たっておきたい“心残り”があるんだけど…寄り道してもいい?」
「心残り?」
「うん。今まで散々に
「代わりに支払われる対価は俺の願い、か。うん、悪くはないな」
大事な女性の頼みを無碍にするほど、馬鹿ではないハンクは、エマの懇願にひとつ返事で頷いた。
「協力、してくれるの? ありがとうっ」
「
「ん。約束」
ハンクの願いというか…野望を知る由もないエマは、頼もしい協力者を得たことに満足して頷き返した。
「…?」
背後からエマを抱いていたハンクは、不意に微弱な
今にも消えそうな
それは蝉の
無理に剥がすのも悪いと思いながら
【どうか、その旅路に幸あらんことを…。】
死に直結する深手を負っている金髪の女性は、どこか別の遠く離れた世界軸への転移咒式の成功を見届けると安心した表情を浮かべ、静かに息を引き取った。
(多分、彼女が本当の
その魔封じは、ようやく「誰か」にメッセージを伝える役目を果たし、清らかな光を撒いて宙に霧散して消えた。
……ざ わ ……ざ わ ……ざ わ ……ざ わ ……
その瞬間、滞留していた魔力の解放に呼応してエマの肩で切りそろえられていた紅茶色の髪が毛先からじわじわと鮮やかな
それはまるで孵化して殻が剥がれ落ちるような、美しく驚くべき変化であった。
「!」
ウエーブがかった砂金色の美髪の一房が肩を滑り落ちてきて、エマはきょとりと目を瞠る。
いま身に何が起きているのか言い表す言葉は見当たらないけれど、例えば昨日の自分と
違う、という
「ハンク…」
問いかける眼差しに気づいたハンクは、柔和に微笑むと
その手には手鏡が握られている。
「今は説明よりも、直接見た方が早い。エマ、これがへクセとして生を享けたキミの“
「…え…。な、なにこれ…っ、私の顔は!? 純日本人の顔はどこ行ったの!?」
総毛立ったまま、寄越された手鏡に目を遣ると…そこには薄い金の長い髪と、明るい孔雀色の目を持つ別人が驚愕を浮かべてこちらを見つめていた。
はっきり言おう。
そこに映ったのは、想像していた自分の面影は全く見当たらない別人だった。
長い睫毛に、猫のような瞳孔をもつ宝石のように鮮やかな孔雀色の
いま、美しき純血統の
「もう……顔が変わるとか………展開がファンタジーすぎるでしょ…」
「キミには“いかなる災いも跳ね除けて難を逃れられるように…”と古い魔封じが掛けられていた。容姿が変わったのは、それが解けたからだな」
思い切り西洋人チックな顔になって混乱するエマに、ハンクは更なる絶望という名の追い打ちをかけた。
しかし、エマはそれをものともせずに口角を上げる。
「…まさか顔が変わるだなんて思わなかったケド、それはまあいいわ。逆をいえば、魔力で
頷いて応えるハンクに、エマは絶世の
「なら何も問題ないわ。それくらいのハプニングは想定内だもの。心置きなく
その
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