09

「…っと、すまない…」


「ううん、いいの。それより…詳しく、へクセのことを教えて。…へクセって、皆ハンクみたいにオオカミに変身できるの?」


そっと手を抜き取って、エマは向かいの席に座るハンクの常緑色エバーグリーンひとみを静かに見つめた。

タンポポ珈琲を淹れたエマは、珈琲を手渡しながら気になっていた質問を投げかける。

「それが当たり前」なんて言われたら、どうしよう。

というか、出来ないで済むのだろうか?!

変身メタモルフォーゼ…できる気がしなくて、エマは身構えた。


「いや、違う。そういう事ではないんだ。それは…俺が人狼カムルイと、へクセの半血こんけつだからなんだ」


「カム、ルイ?」


「…カムルイとは向こうレネディールの言葉で人狼。オオカミと人型の両方になれるものの事を指す。俺はどちらかというと人狼より父系のへクセの血が濃いハズなんだけどな…魔力が不足すると犬化してああなってしまうんだ、面目ない…」


「面目なくなんてないよ。…私の、知らない、知りえないことばかり起きて正直ビックリしてるけど、どうしてかな…怖くはないの」


「エマ…」


「ねえ、もっと話して?ハンクのこと、レネディールのことも全部…」


今度はエマからハンクに働きかけ、惑っている大きな手に触れる。

僅かに気まずさを含んだうかがう眼差しに、エマは改めて相好を弛めて、微笑んだ。


「勿論だ…」


エマからの接触コンタクトにハンクは奮起して喜色を顕にすると、おずおずと反応を待っているエマの手にそっと触れた。


それから、ハンクはエマの《知りたい》という求めに応じて他種族やその情勢について事細やかに続けざまに話していく。

雪抱く険しい山脈に囲まれた北の大地に生まれ、何度も人間との戦争が起こる度に住処を変えて苦労して大人になったこと。

愉しそうに、懐かしみながら話す口ぶりにエマはまだ見ぬレネディールという国を想像して目を細めた。

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