第9話【VR?】戦果確認

 ゾンビと初戦闘を済ませたクリスたちは女子トイレから出ることにした。

 血と肉片と臓物がまき散らされた場所に長居はしたくなかったのだ。

 念のため辺りを見回して外の安全を確認する。


「近くにゾンビはいないようじゃな」


 周囲にはゾンビの姿は見られなかった。

 気配感知スキルにもゾンビの反応は無い。

 ゾンビの気配は先の戦闘で覚えたので間違えようがない。


「おそらく店内のBGMのおかげで、ほとんどのゾンビは天井にあるスピーカーの下に集まっているのだと思います」


 後ろから付いてきたナビの予想を聞いてクリスは納得した。


「なるほどのう。先ほどのゾンビは別として、この女子トイレは店の端にあるから余計に出くわさないわけじゃな」


「はい。あのゾンビは集団から弾かれて彷徨さまよっていたのでしょう」


「それだけ聞くとあのゾンビが可愛そうに思えてくるのう」


・コメント欄

 名無し1   :喰い殺そうとした相手に慈悲はいらないやろ

 鬼苺     :そのゾンビに容赦のない一撃を喰らわせたのは誰だろうな

 モノヅキ   :あれは凄かったですね~

 名無し2   :というかこれからどうするの?


 視聴者たちのコメントを聞いてクリスは顎をさすった。

 予定ではこの店を拠点にして活動しようと思っていたのだが、あのゾンビの様子だとこの店はもう手遅れかもしれなかった。


「救世主。まずは先の戦闘の戦果を確認しませんか?」


「戦果って何かあったかのう?」


 得たものと言えば、ゲーム開始早々に汚れた服と体だけじゃないかとクリスは思った。

 すぐにでも服を着替えて体を洗いたいところである。


「試しにステータスと念じてみてください」


 ナビに言う通りに念じてステータスを空中に表示させる。

 そして幾つかログイン空間で見た時と違っている所を発見した。



 クリス:第1段階完全適合者(次の段階までEXP970)

 ステータスポイント:25

 スキルポイント:55

 クエスト一覧

 体力:30

 攻撃力:50

 耐久力:30

 敏捷力:30

 精神力:30

 器用度:30

 スキル:体術Lv2、気功術Lv2、回復術Lv2、第六感Lv2、隠密Lv2、気配感知Lv1、料理Lv1



 よく見たらEXP1000が970に減っていて、ステータスポイントとスキルポイントが両方とも25ずつ足されている。

 そしてそれらの項目の下に、クエスト一覧という項目が増えていた。


「これはどういう事なんじゃ?」


「ゾンビを初めて倒したことで、クエスト一覧が解禁されました。クエスト一覧をタッチして下さい」


 ナビの指示に従ってクエスト一覧をタッチする。

 するとステータス表示が切り替わって、幾つものクエストが表示された。



 クエスト一覧

 〇ゾンビを1体倒す【クリア済み】:EXP5取得・ステータスポイント5取得・スキルポイント5取得

 〇ゾンビを100体倒す:EXP5取得・ステータスポイント5取得・スキルポイント5取得

 〇拠点を作る:EXP20取得

 〇クラフト系スキルで何かを1個生成する:EXP5取得・ステータスポイント5取得・スキルポイント5取得

 〇生存者と遭遇する:ステータスポイント5取得・スキルポイント5取得



 これらは例として挙げただけで、これら以外にも色々なクエストがあった。

 そのどれもがクリアすることで、EXPやステータスポイントやスキルポイントを取得できるようになっていた。


・コメント欄

 モノヅキ   :EXPとかのポイントをどう取得するのかと思ってましたが、こんな仕組みになってるんですね

 名無し1   :強くなるにはクエストをこなさなきゃいけないわけだ


「なるほどの。このゾンビを1体倒すというクエストをクリアしたからステータスが変化したんじゃな」


「はい、そうです。そして救世主は『取得経験値5倍』と『スキル&ステータスポイント取得5倍』の課金をされているので、それぞれ取得したポイントが5倍になっています」


「はて? それだとEXPの計算だけおかしくならないかの」


「それはゾンビを倒した場合もEXPを取得できますから問題ありません。先ほどの同格のゾンビならばEXP1分になりますね。ただし格上のゾンビを倒すと、取得できるEXPが増えます」


「その理屈じゃと、格下のゾンビ相手だとEXPの取得効率が悪いんじゃないかの」


 いわゆる雑魚モンスターを倒しまくってもレベルアップしづらい仕様である。

 同格のゾンビでEXP1分ということは、格上のゾンビを倒しても大幅な違いはないだろうとクリスは考えた。


 その考えは間違いではなく、だからこそクエスト一覧で各種ポイントを報酬にしているのだった。


 ちなみにこの場合の格とは、適合者の適合深度と、ゾンビの感染深度のことを指している。


 適合者と同じくゾンビにも第1から第5段階までの感染深度というものがあり、その感染深度の具合でゾンビも適合者と同様に強化されていくのだ。


 先の戦闘を例にすると、第1段階完全適合者のクリスと、感染したばかりの第1段階感染者であるゾンビの戦闘が起こったわけである。

 両者の深度は同じ段階にあるので、一応は同格の相手同士の戦闘だったのだ。


 クリスが課金してるから圧倒的な結果に終わったが、普通なら適合者より感染者であるゾンビの方が有利である。


 人間より数が多く疲れることなく動き続けて、感染攻撃で適合者でさえ感染者に変異させれるゾンビの方が脅威なのだ。


 ……という説明を、クリスはナビから教えられた。 


・コメント欄

 モノヅキ   :適合深度を上げるのは地道な作業になりそうですね

 名無し2   :課金して良かったってわけだ

 鬼苺     :作業ゲー見せられると飽きるから助かるわ


「それはワシも同感じゃな」


 お爺ちゃんにとっても作業ゲーは苦にしかならない。

 何が悲しくてゲームで苦労しなくてはいけないのか。


「それでは次はクエスト一覧を消してから、インベントリと念じてみて下さい。ドロップアイテムが入っているはずです」


 再度、ナビの指示に従ってクエスト一覧を消すと、クリスはインベントリと念じる。

 すると見慣れてしまった半透明な板が出現した。



 インベントリ

 〇隕晶いんしょう(小・ノーマル)×4個

 〇凝血隕晶(小・レア)×1個



「ほう、ドロップアイテムが既にインベントリに入っておるんじゃな」


 クリスは、あの爆発四散したゾンビからよく無事に取得できたものだと感心した。

 とはいえ、いちいち落ちているドロップアイテムを探して獲得しなくていいのは助かるとクリスは思った。


「隕晶は、ゾンビの脳内に生成されたゾンビウイルスの結晶です。クラフト系スキルを通すことで、あらゆる物質に変換できる万能素材として活用できます」


「それは凄い。こんな小さな物がそんな大そうな代物になるとはのう」


 インベントリから隕晶を取り出して掲げて見る。

 隕晶いんしょう(小・ノーマル)というだけあって、ビーズ程の大きさで指でつまめるほどに小さかった。


「隕晶の種類やサイズによって、物質変換が出来る物と出来ない物があります。またレアリティが高い隕晶ほど、出来上がった物に特殊な力が込められる可能性があります」


「それで強かったり特殊なゾンビほど、より良い隕晶が手に入るんじゃろ。ゲームあるあるじゃなぁ」


「ですが救世主はドロップアイテムに関しても課金してるので、隕晶の量と質はそう心配せずとも大丈夫でしょう。それではちょうど救世主は料理スキルを取得済みなので、何か食べ物でも生成してみて下さい」


「あ~、今は遠慮しとくのじゃ。この汚れた姿でやったら、作ったばかりの食べ物まで汚れてしまうじゃろ」


 クリスの格好は血肉と臓物で汚れたままである。

 今、食べ物を生成しても食事を楽しめれる状態ではない。


・コメント欄

 名無し2   :そりゃそうだわな

 名無し1   :カニバリズムとかマジ勘弁だぞ


「それでしたらスキルポイントを使って浄化スキルを取得したらどうでしょうか」


「その浄化スキルがあるとどうなるんじゃ?」


「浄化スキルは、指定した範囲の穢れを浄化するスキルです。汚れも落ちますので、これがあれば掃除や洗濯いらずになります」


「それはまた便利なスキルじゃな」


「浄化スキルLv1なら、救世主の体と身に付けている物までが範囲指定できます」


 クリスは早速スキルポイントを使って、浄化スキルLv1を取得した。

 そして自身を指定して浄化スキルを発動したら、体が淡く輝いて、あれほど酷かった汚れが瞬く間に無くなってしまった。


 ついでにクリスは浄化スキル以外にも、新しいスキルを一つ取得しといた。


 また初戦闘の失敗を繰り返さないよう、器用度を攻撃力と同じ50まで上げるのだった。


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終末世界のゲーム配信者『謎のVRゲーム【セイヴァー・オブ・ザ・アポカリスワールド】。初見プレイで後戻りできないけど、もう遅い』 @6-sixman

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