第4話【VR?】クリスと視聴者たち
蓮司――改めクリスが、タイトル名とサムネイルの出来栄えに満足していると、それから1分もせずに視界の端の視聴者数とコメント欄に変化が見られた。
視聴者数が0人から4人に増えて、コメントの書き込みまでされたのだ。
・コメント欄
名無し1 :可愛い子発見!
モノヅキ :タイトル名とサムネに釣られて見に来ました
名無し2 :始めて間もないから過疎ってるな
鬼苺 :初めまして。セイヴァー・オブ・ザ・アポカリスワールドって聞いたことないゲーム名だね
「むっ、どうも初めましてなのじゃ。このゲームを簡単に説明するとオフラインゲームで、ジャンルはおそらくオープンワールドサバイバルアクションかの。CEROレーティング:Zでゾンビが出現するみたいじゃぞ」
・コメント欄
モノヅキ :ゾンビゲーですか
鬼苺 :あれ? クリスちゃんの喋り方って変わってるね
名無し2 :創作の中の老人口調だな
名無し1 :配信のための役作りだろ
視聴者たちがゲーム配信よりもクリスの言葉遣いのおかしさに言及した。
家族である有栖たちは聞き慣れているが、現実ではあまり聞き慣れない喋り方であるから当然の疑問だろう。
「亡くなった婆さんがこの喋り方を面白がっての。認知症になってもこの喋り方をすると、よく笑ってくれたんじゃよ。今ではすっかりこの喋り方に馴染んでしまったんじゃ」
・コメント欄
名無し2 :そっかー。お祖母ちゃんがねぇ
鬼苺 :初配信なのに悪いこと聞いちゃったな
「そう気にせんでくれ。もう12年以上も前の話じゃからな」
しんみりする視聴者たちに対して、クリスは何でもないように言う。
妻が亡くなったのは悲しかったが、息子夫婦と住み始めて孫たちの成長をこの目で見れた。
人との繋がりと時間の流れが悲しみを癒してくれたのだ。
・コメント欄
名無し1 :ええ話や
名無し2 :まさか初配信でこんな話を聞くことになるとはな
モノヅキ :ちょっと待ってください。今の話おかしくないですか?
「うん? ワシ何かおかしいことでも言っってしまったかの?」
首をひねるクリス。
男ならウザいと思われる仕草だが、アバターとはいえ可愛い美少女だと許される仕草だった。
そんなクリスを擁護するコメントが書き込まれる。
・コメント欄
鬼苺 :こんな美少女に物申すとは何事か!
名無し1 :可愛いは正義なんだぞ!!
モノヅキ :いや、12年前の話ならクリスちゃんの外見年齢からすると合わなくないですか?
名無し2 :はっ!? たしかに!!
名無し1 :言われてみればおかしいぞ!?
鬼苺 :気付かんかったわ!?
なんというかノリの良い視聴者たちであった。
とはいえこの時、視聴者たちは勘違いをしていた。
あまりにもリアルなクリスのアバターのせいで、彼女が現実に存在していると思っていたのだ。
当然、クリスの中身がお爺ちゃんであるなどまったく思いもよらない話だった。
「なにか勘違いしとるようじゃな。この姿はVRゲームのアバターのものであって、ワシは70歳の
・コメント欄
名無し2 :嘘乙
モノヅキ :VRゲームの発展は著しいですが、これほどの現実の人間の再現度は無理ですよ
名無し1 :今日発売された最新VRゲーム機のゲームでもここまでのグラフィックじゃなかったぞ
視聴者たちの言う通り、クリスは気付かなかったが既存のVRゲームではありえない話だった。
人間そっくりに創ることは出来ても、その創造物に対して人は強い違和感や嫌悪感を抱いてしまうのだ。
いわゆる不気味の谷現象である。
そのあたりの塩梅が難しく、VRゲーム業界では今でも頭を悩ます問題であった。
しかしセイヴァー・オブ・ザ・アポカリスワールドのアバターは、そういったマイナス感情を想起させない。
事前情報が無かった視聴者たちが、クリスというアバターを実在の人物だと思っても仕方がないほどだった。
「嘘と言われてもワシは正直に話しとるんじゃがなぁ。……まあ、気に入らんかったら視聴するのは止めてくれて構わんぞ?」
・コメント欄
鬼苺 :それとこれとはまた別の話
名無し2 :嘘か本当かは気になるけど、クリスちゃんが可愛いから許すぜ!
名無し1 :視聴継続
モノヅキ :むしろ謎のVRゲームの方が気になりますね
少し騒いだものの、しょせん暇を持て余して動画漁りをしていた連中である。
とりあえず暇を潰せそうならなんでも良いというのが本心だった。
・コメント欄
名無し1 :ところで今はゲーム中らしいけど何してるの?
モノヅキ :そういえば背景が真っ白ですね
「まだログインしたばかりで、アバター設定が終わったところかの。サポートナビゲーターさんや。ワシは次に何をすればいいんじゃ?」
クリスが辺りを見回して声を上げる。
するとサポートナビゲーターの無機質な女性の声がどこからとも聞こえてきた。
《アバターの設定が完了しましたら、次は課金をご希望するかの確認を致します。YesかNoのボタンを押してお決めください》
クリスたちのやり取りが終わるまで黙っていたサポートナビゲーターは、意外と空気が読める存在なのかもしれない。
システムメッセージの下に、YesとNoと書かれた丸いボタンが出現する。
・コメント欄
名無し2 :今の声がサポートナビゲーター?
モノヅキ :ゲームスタート前の段階なんですね
名無し1 :オフラインゲームで課金推奨とかマジかよ
鬼苺 :クリスちゃん課金するの?
「課金しても困らんだけの金はあるからYesじゃな。それにグダグダやるより、さっくり進めれる方がやる方も見る方も気が楽じゃろ」
クリスはYesと書かれた丸いボタンを押した。
《課金の承認を確認。課金内容のリストを閲覧します》
そうして出てくるのはずらりと並ぶ課金リストであった。
100項目近くある課金の数々は、オンラインゲームでもあり得ない多さである。
ましてやオフラインゲームならば異常とも言える数だった。
だが最近のゲーム事情に詳しくないお爺ちゃんからすると、不思議に思わず軽く驚く程度だった。
「ほほう。今時のゲームは、いろんな課金ができるんじゃなぁ」
・コメント欄
モノヅキ :いや、これは課金項目が多すぎですよ
名無し2 :やったことないゲームだけど、これはおかしいと断言できるレベル
鬼苺 :どんだけプレイヤーから金を搾り取るつもりなんだよ
視聴者たちがこのゲームの異常性に気付き始めたが、お爺ちゃんはあまり気にしなかった。
「中古セールで500円で買ったゲームじゃからな。安く買えた分、課金しても問題ないわい」
名無し1 :その安さで買わせといて、どんだけ課金要求すんだよ。怪しさMaxだぞ
鬼苺 :確かに。ちょっと気になってこのゲームをネットで調べたけど、本当に情報が見つからなかったよ
モノヅキ :更に興味が湧いてきました。とりあえず課金リストを見てみませんか?
「だからこそ謎のゲームとサムネイルに書き込んだのじゃ。それではリストを順番に見ていくかのう」
クリスは上から順番に課金項目のリストを流し読みしていく。
そして視聴者のアドバイスやサポートナビゲーターにも相談して、何を課金するか決めていった。
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