4話
「う、腕が痛い……」
「私はそんなに重くないんですけど!」
水族館から出た後、詩音と華恋は帰り道を歩いていた。
あとは適当な所で別れる。
詩音は着替えをして帰るだけだ。
「先輩にはデリカシーがないですよ。思ったとしても、女の子に重いなんて言っちゃいけないんです」
「はい……」
女の子に重いと言ってはいけない。
詩音は一つ学びを得た。
だが学びを上手く使えるかは、その人しだい。
「華恋ちゃんは軽い女の子だね」
「せんぱーい? その言い方だと、私が遊んでる女みたいに聞こえるんですけど。むしろ愛は重いんですけど?」
「どう言っても怒るじゃん……」
そもそも体重に触れるな。
二人がワイワイと歩いていると、
「あれ、華恋ちゃん?」
「あ、
女性に声をかけられた。
身長は詩音より少し低い。女性の平均ぐらいだろう。
黒く長いストレートの髪に、白を基調とした服は清楚さを感じさせる。
しかし、大きく膨らんだ胸と、目元についた泣きぼくろが妖しい雰囲気を演出していた。
彼女のことを華恋が紹介してくれた。
「他校の友だちなんですよ」
「
「あ、初めまして」
詩音と二木根は互いに頭を下げる。
友だちの友だちに会ったときは気まずい。
どこで他人の会話に入ったらいいのか分からなくなる。
とりあえず空気に徹しようと詩音は決めた。
二木根は二人を見た。
詩音と華恋は腕を組んでいる。
その様子を見て、二木根は微笑んだ。
「ずいぶんと仲が良いんですね」
「私の彼女だよ。詩音ちゃんって言うの」
「ふふ、羨ましいですね」
二木根はジッと詩音を見つめる。
獲物を観察している蛇のような。
うすら寒さを背中に感じた。
顔に何かついているのだろうか。
しかし、すぐに目線は外された。
「それでは、デートの邪魔をしたらいけないですから、失礼しますね」
「うん。またね!」
特になんでもなかったらしい。
去り際に、詩音と二木根がすれ違う。
ぼそりと、ささやかれた気がした。
「ごちそうさまです」
〇
「先輩、今日はありがとうございました」
最初に待ち合わせたオブジェの前。
華恋は儚く微笑んだ。
夕日が沈む。ゆっくりと夜が歩みを進める。
「こちらこそありがとう。とても楽しかったよ」
お寿司を食べたし、水族館も行った。
詩音は大変満足していた。
「……詩音先輩は減点ですよ。デートしてるときに他の女の子とイチャつくなんて」
「そ、それは誤解だって……」
イチャついたつもりなんて無かった。
ただ二人とは偶然会って、軽く会話をしただけだ。
詩音的には、そんな認識だった。
「そ、それよりもさ、ストーカーの気配は?」
そもそも、このデートの目的はそれだ。
だが華恋はそういえばそうだった、みたいな顔をしていた。
「あー、そういえば途中から感じなくなりましたね」
「そっか、じゃあもう大丈夫かな」
正確なところは分からない。
だが華恋と詩音の姿を見て、諦めた可能性が高いだろう。
詩音は安心して、グッと体を伸ばす。
脇腹あたりの服をつかまれた。
振り向くと、華恋が見上げていた。
「また、デートしてくれますか?」
その姿は迷子の子供のように見えた。
不安そうな、すがるように瞳をしている。
なんだかんだ、ストーカーが怖いのだろうか。
詩音はそう解釈した。
「うん。ボクで良ければいつでも呼んでよ」
食事の恩義もある。
ついでにご飯も奢ってもらえる。
ちょっとしたバイトみたいなものだ。
華恋はパッと笑った。
「じゃあ先輩、ちゃんと女装の練習もしといてくださいよ?」
「やっぱ必要なの?」
「あたりまえじゃないですか」
華恋はにやにやと意地悪に笑う。
「次は何を着てもらおうかなー」
「なるべく男が着ても違和感がないやつにしてください……」
そうして、二人の初デートは無事に終わった。
☆
二木根さんはヒロインではないです
それと、やっといてアレなんですけど、二章ではオーディションの新キャラは出ない予定
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