第23話

 陰陽師人形が魔法を撃つ。


 カレンとSAYAはそれを避けようと、逆方向に跳んだが、

 ガキィン!!

 繋いだ鎖が二人を離さない。

 逆方向に跳ぼうとした二人は、結局その場に留まることになった。


「ちょっと待っ――!」


 カレンに魔法が当たる。

 ダメージは無い。

 その代わりに服の面積が少なくなった。

 鎖で繋がれていると、二人に魔法の効果がある。


 ドカン!!

 ハルジオンの爆発魔法が当たると、人形は跡形もなく消えた。


「ちょっと、なんで避けないのかしら!? このままじゃ、逆バニーとかいう変な格好にされるんだけど!?」


 SAYAが叫んだ。

 逆バニーにされると言ったが、正直もうほとんどなってる。


 胸から下腹部にかけてバニー服は大きく開いていた。

 胸と股間だけはなんとか隠れている。

 だが水着みたいな状態だ。

 その一方で、なぜか腕と足はしっかりと隠れている。


「SAYAさんが変な方向に避けようとするからでしょ!?」


 カレンも散々な状態だ。

 メイド服は縮み、ビキニタイプの水着にフリルが付いているような有様。


『こんな服、アニメでしか見たことねぇや』『ソシャゲの集金用ガチャ』『なんかコメ減って無い?』『みんな忙しいんやろ』


 ころねは二人の様子を憐れむ。


「うわぁ……ひどい格好ね」


 お前も危険デンジャラスビーストやろがい。 


「いや、ころねもあんまり人のこと言えないような……」


 結果としてハルジオンが一番ましな格好になっていた。

 いつもの魔法少女服。

 ただし中身は男だ。むしろ一番ヤバいかもしれない。


 鎖のトラップにかかった後。

 鎖に書いてあった『いちゃらぶキスをしたら外れる』の文言を見た二人の意見は完全に一致した。


『絶対に嫌』


 結果はこの通り。

 二人の息は一切合わない。

 その服のひどさが、二人の被弾率を物語っている。


『もうおとなしくキスしたらいいのでは?』『女の子同士だから大丈夫!』『早くキスしてくれ、寒い』『パンツ履け変態』


 ころねがあきれたように二人を見た。


「あのー、コメントでも言われてるし、おとなしくキスしてくれません?」

「絶対に嫌よ」

「メイド水着さらしたほうがマシだね」

「うわ、めんどくさ」


 ころねは深くため息をはく。

 

 ハルジオンは二人の様子を見て、首をかたむけた。

 そもそも、なんでそんなに嫌なのだろう。


「二人は何がそんなに嫌なの?」


 ハルジオンが質問する。

 二人はにらみ合ったまま、吐き捨てるように言った。


「人の気持ちを考えずに、自分の気持ちを押し付ける厄介女の臭いがするからよ」

「昔の恋愛を引きずって、いつまでも粘着してそうな根暗女の気配を感じるから」


 つまりは、それぞれが相手のことを生理的に受け付けないのだろう。

 実際のところは、それだけではなさそうだが。


 二人がギャイギャイと騒いでいたときだった。

 二人は突然に口を閉じる。

 そしてハルジオンを含めた三人は、廊下の奥を見つめた。


「え、なに? どうしたの?」


 よく分かっていないころねだけが、三人を見比べて焦る。


「何かが来る」


 ハルジオンたちは廊下の奥に気配を感じていた。

 とがった刃のような、するどい威圧感。

 それを隠そうともせず、焦りもせずに、ゆったりとハルジオンたちに近づいている。

 

「あれは……侍人形に似てるわね」


 侍に似たからくり人形。

 このダンジョンに入ってから何度も戦ったモンスターだ。

 それによく似ている。


 だが圧倒的に風格が違う。

 明らかかに彼らよりも上の存在なのだろうと感じさせる。


 ころねが少し怯えている。


「ユニーク、かしら」

「そうかもしれない。慎重に行かないと」


 どのように戦うべきか。

 ハルジオンが頭を悩ませていると、


「まず、後ろからも来たわよ!」


 ころねが焦った。

 後ろを振り向くと、5体ほどの人形たちが走って来ていた。


「でも様子が変じゃない?」


 しかし、人形たちはハルジオンたちを見ていない。

 それよりもずっと先を見ているように感じる。


「通り過ぎたね」

 

 人形たちはハルジオンたちに見向きもしなかった。

 彼らはさらに先、威圧感を振りまく人形へと走っていく。


 それだけでは無かった。

 

「え、なんでアイツら仲間割れしてるの?」


 壁の中ら、廊下のさらに奥から、続々とモンスターが現れるとユニークへと殺到した。

 

『え、モンスターって仲間割れするの?』『噂ていどには聞いたことあるけど……』『実はこれ、めちゃくちゃ貴重な映像なんじゃね』『あのユニーク?めっちゃ強いやん……』


 ユニークはそれら全ての攻撃をいなし、一太刀で人形たちを切り伏せていく。

 一分もかからなかった。

 人形たちは全滅し、ユニークの周りには魔石が転がっていた。

 死体が残っていれば屍山血河しざんけつががきずかれていただろう。


 ユニークがこちらを向いた。


 無機質な瞳から、機械仕掛けのような冷たい殺気を感じる。

 チェーンソーやプレス機を見た時に感じるような恐怖だ。


 ただ当たり前の駆動によって、人に致命的な損傷を与えかねない物への恐怖。

 『アレ』は、こちらが泣いて謝っても、その動きを止めることはしないだろう。

 当たり前のことを、当たり前に遂行すいこうする。

 

「気をつけなさい」

「言われなくても」


 カレンとSAYAが身構えた。

 ユニークをにらみつける。


 その姿が、ブレた。

 カレンやSAYAの目では追えなかった。


 気がつけばユニークはSAYAの目の前に居た。

 腰に付けた刀を振るう。

 狙いはSAYAの首。

 一閃でそれを切り落とそうと――


 ガキィン!!


 刀が弾かれた。

 SAYAとユニークの間に割って入るようにハルジオンが居た。

 そのステッキと刀がぶつかった。


 ハルジオンは斬撃を受け流そうとした。

 しかし、上手くいかなかった。

 逃がしきれなかった衝撃がハルジオンを襲い、吹き飛ばされる。


 ダン!

 ハルジオンは勢いよく壁にぶつかる。

 

「ハルちゃん!」


 カレンが叫ぶ。


 ハルジオンはユニークによる追撃を心配した。

 だが、それは無かった。


 ユニークはハルジオンを見つめていた。

 感情のないはずの瞳に、興味と喜びが浮かんだ気がする。


 だが、それは一瞬でかき消えた。

 カレンが剣を振るう、ユニークがそれを受け止める。

 だがその隙にSAYAが大剣を振りぬいた。


 ガン!!

 ユニークを叩き切ろうとしたが、上手くいかなかった。

 人形は宙に吹き飛ぶが、くるりと回転して体勢を直すとキレイに着地した。


「アイツ、攻撃の瞬間に後ろに跳んだわ」

「ちょっとヤバいかもね」


 ハルジオンがステッキを構える。

 ユニークに対して爆発魔法を放つ。

 しかし、これでは倒せないだろう。

 さらにユニークとの間にバリアを張る。


「いったん逃げよう!」


 三人は同意して走り出した。

 来た道を引き返す。

 ユニークは走って追いかけてくる気はないらしい。

 しばらく走ると、十分に距離を引き離せた。


『なんだよアイツ……』『ただの面白ダンジョンだと思ってたのに』『これ、ヤバくね?』『救助隊に通報しといた方がいい?』『今からで間に合うか?』


「ど、どうするの……このままじゃダンジョンから出れないんじゃない?」


 ころねの声は震えていた。

 あのユニークに怯えているのだろう。


 このまま戻ってもたどり着くのは、転移させられた部屋。

 つまりは行き止まりだ。

 ダンジョンから脱出するには、先ほどのユニークとの戦いは避けられない。


「アイツが追い付く前に、なにか作戦を考えないといけないわね」


 ユニークはゆっくりとだが追ってきていた。

 あまりのんびりとはできない。


 それに、戦うにしても解決しないといけない問題もある。


「とりあえず、ボクところねで足止めをするよ。その間に二人は……手錠を外してくれないかな」


 カレンとSAYAはにらみ合った。

 だがハルジオンの案を否定もしなかった。

 この状況で嫌だとは言えないのだろう。


「ちょ、ちょっと待って、私とハルジオンさんで足止めするの?」


 むしろ、否を唱えたのはころねだった。


「無理よ。無理無理。そんなことできないわよ」

「ころねが戦う必要はないよ。ボクのサポートをしてくれればいい」


 ハルジオンはころねを見た。

 不安そうな瞳と目が合う。


「ボクがころねを守るから」

「ぐはぁ! さ、さっきの後遺症が……」


『落ちたな』『チョロイン』『ハルちゃん、なんて悪い女なの……』


 ころねはうめくように言った。


「分かった。サポートするわよ」

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