第22話
歩いていると、ハルジオンの服装に変化があった。
「あ、戻った!」
服装が普段の魔法少女風の装備に戻った。
戻ってもコスプレみたいではあるが。
「あー、戻っちゃった。もっと可愛がっておけば良かった」
「……次に踏んだらどうなるのかしらね」
『SAYAさんまた踏ませようとしてない?』『せっかく戻ったのにwww』
「さ、さぁ! 早く先に進もう!」
不穏なことを言っているカレンとSAYAを振り切って、先に進もうとハルジオンは叫んだ。
カレンとSAYAも無理強いをするつもりはないらしく、一行は先に進んでいく。
「……なにかしら、この部屋は」
たどり着いたのは、そこそこ広い部屋だ。
部屋の真ん中には、二つの枕が置かれた
その奥にふすまがあるのだが……。
「予想通り、開かないね」
「ころねさん」
「はいはい、分かりましたよ」
ころねは
特に何も起らない。
「枕が二つだし、二人必要なのかな」
「問題は誰が行くかだけど」
その会話を聞いて、ハルジオンが前に出る。
「呪いも解けたし、ボクが行くよ」
「ハルちゃん待っ――!」
カレンが止めるよりも先に、ハルジオンは布団に触れてしまった。
「えっ!?」
その瞬間、布団の周りに結界のようなものが張られる。
そしてカレンたちの声が聞こえなくなってしまった。
いったい何が起こるのか。
ハルジオンが身構えていると、
「ん? なにかしらこれ」
ころねが枕の下から木版を発見した。
<愛してるゲーム>
お互いに愛してると言って、ドキドキしたほうの負け。
負けた方は姿が変わる呪い。そして相手のことがもっと好きになる呪いがかかる。
どちらかが三回負けたら終了。先に進める。
なんだこれは……。
ハルジオンは困惑する。
思春期の学生が考えたバカな恋愛ゲームだろうか。
他人事だと思いたいが、この場に居るのはハルジオンところね。
二人でこのゲームをやらなければならないのだろう。
「これ、勝った方はペナルティ無いのよね……ごめんなさいね。ハルジオンさん」
ころねは自身ありげに笑った。
恋愛経験はころねの方が圧倒的にあるはずだ。
自分の勝ち目は薄いだろうと、ハルジオンはうなだれる。
とりあえず、ハルジオンはころねの隣に座った。
「あいしてる?」
「……なんで疑問形なのよ」
特に効果はないようだ。
「ハルジオンさん、それじゃダメよ。こうするの」
ころねはハルジオンのあごを持ち上げて、強引に目を合わせた。
「愛してる」
キメ顔でそう言った。
「分かった。やってみる」
「あ、あれ?」
残念ながら、ハルジオンには効果がなかったようだ。
ところで、ころねは自分がして欲しいシチュエーションを考えてやってみた。
それは当然、自分の弱点にもなる。
しかも、ハルジオンは余計なことを思い出していた。
(そういえば、前に『飯野』が床ドンがどうのって、言ってた気がする)
床ドン。
下の階の住人に苦情の意を表明するために、床を叩くやつではない。
相手を押し倒すような形で追い詰める、壁ドンの派生技みたいなやつだ。
ハルジオンはころねを押し倒す。
突然のことに呆けた顔をしていたころねのアゴを持ち上げる。
驚きに見開いた眼をジッと見つめた。
「愛してる」
ころねの顔が赤くなっていく。
どうやら効果はばつぐんのようだ。
「あば、あばばばば」
しかも脳がバクり散らかしているらしい。
ころねに追撃をするように、五芒星が浮かび上がった。
ころねの頭に犬耳が生える。
負けたときのペナルティだろう。
「ち、ちがう。別にドキドキなんかしてないのに!」
負け惜しみを言っている。
だがダンジョンはそんなもの聞いてくれない。
ころねはハルジオンを押しのける。
そして半ばやけくそ気味に叫んだ。
「あ、愛してる!」
次は自分の番か。
ハルジオンはころねに近づこうとしたのだが。
「ちょ、ちょっと待って、休憩しましょう」
「なんで?」
「今はちょっと、まずいから、ドキドキしてるから」
「でも、そういうゲームでしょ?」
「そ、そうだけどぉ……!」
ハルジオンはころねの腕を引く。
体勢をくずしたころねは、ハルジオンの肩に頭を預けるような形になる。
ちょうど、ころねの耳にハルジオンがささやくような状態だ。
「愛してる」
「――ッ!!」
ころねが声にならない叫びをあげる。
その体が一瞬だけこわばったか、すぐに
ころねの首に首輪が現れた。
しかも、それだけではないらしい。
「な、なにこれぇ。ハルジオンさんの匂いが強く感じる。匂い嗅ぐだけでドキドキするぅ」
ころねはすんすんと鼻をならしながら、ハルジオンの胸元に顔をうずめる。
勢いに押されてハルジオンは押し倒される。
「ハルジオンさん好き。好きぃ。大好き」
ころねは甘えるように、ハルジオンに体をこすらせる。
好きも愛してるに入るのだろうか。
ハルジオンはゲームを終わらせるため、口を開こうとしたのだが。
「だ、ダメ! 言っちゃダメ!」
ころねはギュッと抱きしめながら、叫んだ。
「わたし、もうずっとドキドキしてるから! これ以上はおかしくなっちゃうから!」
ころねは嫌だと、子供のようにわがままを言う。
ハルジオンはあやすように頭をなでた。
「頭なでるのもだめぇ。もっと好きになっちゃうからぁ」
「でも、終わらせないと先に進めないし……」
「うぅ……」
ころねのうるんだ瞳と目が合った。
何かをねだるように、ハルジオンを見つめている。
「愛してる」
ころねはギュッと目をつぶって、ハルジオンを抱きしめた。
数秒ほどそれが続くと、ころねはぐったりと力をゆるめた。
ころねの姿が変わる。
ビキニタイプの水着のようだが、みょうにふわふわとしている。
なんとなく
「……ハルちゃん」
ころねが首元に手をまわしてくる。
そしてそのまま、ハルジオンに顔を近づけて――
「ちょっと待ちなさい!」
SAYAがそれをつまみ上げる。
ころねは捕まった猫みたいに暴れる。
「離して! 私はハルちゃんとチューするの!!」
「そんなこと許すわけないでしょ」
「この盛りの付いたメス犬め!」
「いや、カレンさんは人のこと言えないわよ」
「え?」
どうやら、張られていた結界が解けたらしい。
『常識人だと思っていたころねさんがこうなるとは……』『ダンジョンって怖いんだな』『でもカレンは常時こんなもんだよねwww』
ころねの『好きになる呪い』が落ち着くまで数分ほどかかった。
〇
「あ、あんなの生き恥だわ」
ころねは先ほどまでのことを思い出しているようだ。
真っ赤になったり青くなったり忙しそうにしている。
「ねぇ、これもしかして強制トラップって役得なんじゃないの」
「……ころねさんに踏ませるのは止めましょう」
SAYAとカレンがそんな会話をしていると、廊下の先に何かが見える。
腰くらいの高さの台だろうか。その脇にはふすまが見える。
「あれも強制トラップかな?」
ハルジオンがそう言うと、ダッ! とカレンとSAYAが走り出した。
「SAYAさんは、さっきハルちゃんとイチャイチャしてたんだからいいでしょ!」
「キミがハルジオンさんとトラップにかかったら、なにしでかすか分からないでしょ!?」
『トラップを奪い合うなwww』『二人とも早え!!』
同着だった。
二人は同時にその台に触れる。
ガチャン!!
カレンとSAYAの二人に手錠がかけられる。
二人の手錠は鎖でつながれていた。
「「あっ……」」
二人の声が重なった。
そりゃあ二人で触ったら、二人が対象になるのだろう。
二人の手錠にはこう書かれていた。
『いちゃらぶキスをしたら外れる』
☆おまけ:逆バニー化攻撃
ふざけたトラップの多いダンジョンだが、普通の敵も出てくる。
その敵に交じって、見慣れない敵が現れていた。
「二人とも気を付けて!」
しかし戦闘中だ。
常にその敵に意識を向けていられるわけじゃない。
SAYAが他の敵に気を取られたとき、陰陽師人形から五芒星が飛ぶ。
それと同時にカレンが人形を倒すが、出た攻撃は止まらない。
SAYAは大剣でガードしようとしたが、意味がなかったらしい。
SAYAのバニー服に変化が起こった。
お腹のあたりに穴が開き、代わりのように袖が伸びていった。
「な、なによこれ……」
胸元などの局部こそ大丈夫だったが、全体的に肌色が目立つ形状に変化した。
『服装の形を変える攻撃?』『なんだそれ……』『おへそ!!』
流れが速くなるコメントの中に、気になるものがあった。
『これ、最終的に逆バニーみたいにならない?』
ころねはそのコメント見ると、ドン引きしていた。
「ぎゃ、逆バニー……」
「なにかしら、逆バニーって」
「いや、私の口からはちょっと」
SAYAは納得がいかないようで、スマホを手に取った。
その言葉を検索したようだ。
「な、なによこの格好!? こんなのコスプレとか言うレベルじゃないじゃない! ただの痴女よ!?」
顔を真っ赤にして叫んだ。
見せてきたスマホには、ほとんど裸の、なんとなくバニーっぽい女性のイラストが映っている。
「いいじゃん。似合ってるよ。視聴者も喜んでるし」
「カレンさんは他人事みたいに言ってるけど、キミだって変な格好にさせられるかもしれないのよ」
「うっ、それは確かに」
最終的に、陰陽師人形は最優先で倒すことになった。
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