第10話
ドラゴンが大きく息を吸った。
次の瞬間、その口から灼熱の炎があふれ出る。
紗耶に向かって、炎が殺到する。
しかし、紗耶は大剣を構えたまま、軽々と避ける。
そして走りながら手元に氷の槍を作り上げると、それをドラゴンに向かってぶん投げた。
ガンッ! 重い鉄塊を叩いたような音が響く。しかし、
「この程度じゃ効かないか」
その攻撃はドラゴンの鱗に傷をつけただけ。
威力が足りていない。
ならばと、紗耶が立ち止まる。さらに強力な魔法を撃てばいい。
しかし間に合わなかった。
ドラゴンの巨体。その脇から太い尻尾が飛び出した。
ガギィン!!
大剣によって防御したが、踏ん張りがきかない。
子供が乱暴に投げたおもちゃのように、紗耶は空中に投げ出される。
ドラゴンの追撃は
その大きな翼の中に、暴風の塊が生まれていた。
それは周りの石や岩を巻き込んで、ガラガラと音を立てていた。
もしも人が巻き込まれば、ミキサーにかけられたようにズタズタになるだろう。
紗耶はとっさに魔法を構える。
しかし間に合わない。
轟音をまき散らしながら暴風が目の前に迫る。
紗耶の脳は全力で危険信号を発するが、どうしようもできない。
ズドン!!
爆炎が、そのすべてを吹き飛ばした。
そして紗耶の体が抱きしめられる。
お姫様抱っこだ。
そして軽々と着地した。
「えっと、大丈夫ですか?」
いったい誰が助けてくれたのか。
紗耶が顔を確認する。
それは、なぜか安心できる顔をした、桜色の髪の少女だった。
〇
『スゲーー!!』『ハルちゃんかっこいいよ!』『こうやってカレンちゃんも落としたんですね』
コメントが盛り上がっている。
ハルジオンはその画面を見てハッと気づく。
「あ、すいません。配信してて、切ったほうが良いですよね」
勝手に配信に映すのはまずいだろう。
とりあえず、ハルジオンは紗耶に聞いてみた。
『え?』『切らないで切らないで』『あれ、この助けた人、SAYAじゃね?』『すまん、誰だそれ?』『某陽キャ向けSNSで大人気の人だよ。配信とかはやってないはずだけど』『陰キャが釣れたようだな』
え、そうなの?
コメントを見てハルジオンは驚く。紗耶がSNSで有名になっていたことなど知らなかった。
ここにも陰キャが居た。
「いえ、続けたままで大丈夫よ。コメントで言われてるようだけど、私もSNSならやってるから」
SAYAは立ち上がると、ドラゴンをにらみつけた。
ドラゴンは突然現れたハルジオンに警戒しているようだ。動きはない。
「情けない姿を映されてしまったのは残念だけど」
「す、すいません」
「キミに怒ってるわけじゃないわよ。危ないところを助けてくれた恩人だもの。私は、自分の弱さにムカつくだけ」
SAYAは本当に悔しそうにしていた。
なにか、強くなければいけない理由があるのだろうか。
SAYAは軽く息をはく。そしてドラゴンに注意したまま口を開いた。
「ところで、私の名前はSAYA。キミの名前を聞いてもいいかしら?」
「ボクは、ま、魔法少女系探索者のハルジオンです」
知り合いの前で、この名前を名乗るのはめちゃくちゃ恥ずかしかった。
ハルジオンは顔を赤くする。火山の暑さのおかげで、恥ずかしがっていることはバレていない。はずだ。
「魔法少女? そう言ったスキルは聞いたことないのだけど」
「すいません。そういう
『うわぁ……』『冷静に考えると、自分で魔法少女を名乗ってるのって痛いな』『もうやめたげてよぉ!』『こっちまで恥ずかしくなってきた』
「そ、そうなのね」
二人の間に気まずい空気が流れた。
その空気を断ち切るように、SAYAが声を上げる。
「ところで! ハルジオンさん、あれを倒すのを手伝ってもらえないかしら? 一緒に来ていたパーティーメンバーは逃げ出してしまったのよ」
ハルジオンは先ほど逃げて行った男たちを思い出す。
よくよく思い出すと、大学で見た顔かもしれない。
「はい。ボクで良ければ手伝います」
『え、あれを倒すの?』『明らかにヤバそうなやつなんだが』『このダンジョンでこんなやつ見たことないぞ?』『ユニークかもしれん』
魔石を落とすようなモンスターは、ダンジョン内で生活して繁殖している、わけじゃない。
彼らはダンジョンが生み出した機械のようなものだと、研究者たちは考えている。
ダンジョン内の環境のコントロールや、ダンジョンの外からやってきた外敵の排除。
そういった目的のために作られた機械だと。
そのため、時には強力なモンスターが突然現れることがある。
こうしたモンスターは『ユニークモンスター』と呼ばれて警戒されている。
『ユニークなら逃げたほうがよくないか?』『一流のプロに任せよう、学生が相手するもんじゃない』『なんで戦う気なんだよ、この二人!?』
詩音はドラゴンに向けてステッキを構える。
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