第28話 柔らかっぱいとプチスローライフ
私はルフィノさんに送られて宿の部屋に戻った。
つ、疲れた……。
なにげに汗かいたから風呂入りたい。そう言ったらルフィノさんは少々お待ちくださいと言って部屋の外に声をかけた。
だが待てない。ザッとでいいから洗い流してから寝たい。寝落ちそう。
教官を見習って服を脱ぎ捨てながら風呂場に行き、シャワー用の水を貯めるのも待てず、手から直接お湯を出して流した。
手のひらが直でシャワーヘッドになってるみたいなもんよ。違和感ありまくりだけど、そのうち慣れるんだろうな。便利だもん。人は覚えた便利を手放せないものだ。
あっ、でも魔力の取り込みが甘くなって水の出が悪い。疲れで集中力が切れるのも今後の課題だな。息をするように取り込んで、取り込んでるのを忘れるぐらいにならないと。
お湯で流し終わって、そういえば拭くものを準備していなかったことに気付く。温風を出せばいいんだけど、集中力が切れかけてる。
ちょっと休んでから乾かそうかな、と思っていたら「失礼します」と可愛らしい声がして、メイドさんが入ってきた。
メイドさんが! 入ってきた!
白いキャップ、白い襟元、紺の服に白いエプロン。
メイドさんが入ってきた!(三回目)
キャップは頭全体を覆うクラシカルなタイプだ。ボリュームのある白いネックチーフを首周りにかけている。ということはエプロンの下はワンピースじゃなくて
そして大変豊かなお胸が眼前に迫りくる。うおおお。
「お手伝いいたしますね」
可愛らしい声のメイドさんに優しく拭かれながら私は……わたしは……
ご、ごめんよグラディこれは裏切りじゃないんだあくまで研究心なんだこの世界の女性の胸が全員膝頭じゃないということを確かめたいだけなんだンァー柔らかい神様ありがとう!
疲れたふりして寄りかかってお胸の感触を堪能した私は、本当にそのまま天に召されるかのように健やかに寝落ちた。
起きたのは次の日の昼過ぎだった。
お腹が空き過ぎて目が覚めた。階下に降りて行くと、誰も帰ってないようだった。ご飯どうしよ。
そう思っていたらノックの音がして、ルフィノさんとメイドさんがワゴンを押して入ってきた。
ベルレ達は三人ともまだ帰れなさそうなこと、それまで部屋から出ないことを伝えられ、私はメイドさんに給仕されながら食事をした。
といってもそんな格式張った料理じゃないから、ルフィノさんが出て行ったあと、メイドさんとテーブルを囲んで一緒に食べた。
メイドさんはマルビナさんといってお歳は二十代後半ぐらいと思われ。ルフィノさんの商会でこまごまとした雑用をやっているのとのこと。メイドさんじゃなかった!
そっか……私の早合点だった。服も単にマルビナさんが好きで着ているセレクトだった。いい趣味してんなあ。
それから。
私は言いつけ通り、部屋の外には出なかった。
特に退屈はしなかった。窓から通りも見えるし。二日ぐらいは馬車が激しく行き交っていたが、今は落ち着いている。
一日に一回はルフィノさんが様子を見に来てくれ、食事やお茶の時間はマルビナさんが来てくれた。
宿の食事は単純に焼いたり茹でたりシンプルに火を通したものと、シチュー的な煮込み料理が基本で、あとはサラダやフルーツ、ナッツ類と素朴だ。
でも露地物の野菜やその他収穫物の素材そのものが良いので、簡単なものでも美味しかった。
みんなを待ってる間はルフィノさんやマルビナさんが持ってきてくれた本や小説を読んだ。
興味深かったのは羊飼いと天空城の童話だ。
子供向けなのか描写がフワッとしてるんだけど、空に城が浮かんでいるのを見た辺境の羊飼いが嘘つき呼ばわりされながらも勉強と研究を続け、ついに空を飛ぶ魔動具を作り出し、天空城へとたどり着く。
ラ○ュタは本当にあったんだ!
話としてはそこで終わりで、なんていうか、どこでどんな風に生まれたって男でも女でもいくつになったって努力したら夢に届くよみたいな、多分に啓蒙的なお話だった。
かなり昔からある古い童話で、子供に最初に与える絵本みたいなポジションらしい。
天空城! 夢が広がるじゃないですか。
わくわくしながらマルビナさんに聞いてみたら「行ってみたいですよね」ってあたたかく微笑まれて、アッこれサンタクロースを信じてる子供に向ける目だ。
つまり天空城はサンタクロース。ないんですね……しょぼん。
◇ ◇ ◇
三日ぐらい経って、夜にグラディが帰ってきた。
服や装備はさすがにあちこち汚れていた。
本人には傷ひとつなかったしイキイキツヤツヤしてたけど!
「おかえりなさい。ご苦労さまでした」
「はい。アレアもご活躍だったそうですわね。ご苦労様でした」
無事を確かめ合ったらお風呂タイムである。
グラディのためにバスタブにお湯を張って、シャワーにもたっぷりお湯を入れたよ。別にグラディが自分でお湯を用意できないわけじゃないんだけど、得意不得意でいうと不得意なのだ。
この宿のバスタブは大きいので、二人でのんびり浸かってくつろぎながらお喋りした。
「ベルレとシェルリは?」
「まだ調査をしてますわ」
シェルリ大丈夫なのかな。
グラディに魔法の使い過ぎ? でシェルリが倒れたことを話したら、大丈夫と軽く手を振られた。
「普段使ってない筋肉を使ったようなものですわ。心配せずとも大丈夫ですよ」
そうなのかな。じゃあ心配はしないけど、早く帰ってきて欲しい。
風呂から上がって
村内はまだ少し混乱していますから、しばらく部屋にいましょうね、という訳でお籠もり続行だ。
インドアでもやることはいっぱいある。魔法の感覚を忘れないうちにおさらいしたいし。
二階に上がって寝床の上で胡座をかいて座る。座禅の気持で。
目を閉じ、あの時やったことを思い返しながら瞑想する。
どっちかというとキモはあの探知する感覚なんだよな。把握さえできたら後は心臓握ればいいもの。
あの時はシェルリ経由だったからすごく強くブーストされてたというか、チューニングがぴったり合ってたみたいな感じだったけど、自分だけでやると雑音だらけのラジオみたい。人とソファの区別もつかない感じ。先は長いなあ。
マルビナさんと暖炉を竈代わりにして飴を作ったりもした。
暖炉に鍋をかけて飴を練り、トレイに出して枠に流し込んだり、自由に形を描いたり。
様々なジャムやハーブ、果汁を混ぜていろいろ作った。私はドロップぐらいの粒を作りたかったけど小さく丸めるのが難しくて、謎のかたまりを量産していたらグラディに「魔法で丸めてごらんなさいませ」と言われ、そっか魔法でやりゃいいじゃん! と目からウロコ。
ミートハンマーの時と同じ要領で手のひらに魔力の手袋みたいなのを纏わせて熱い飴を成形した。球とかサイコロとか星とか。
だんだん楽しくなって花びら一枚一枚作ってお花とか作ってた。楽しかった。
私がそうして一人遊びしてるのを黙って見守ってくれたマルビナさんとグラディに感謝だ。
ただ、出来上がった巨大なツバキの花の飴は……食べるには砕くしかないな。
もっと単純化して小さくしたら売れるかな?
そんな感じで室内で軽いアクティビティを楽しんだり、魔法の練習したり、グラディに将来のための体操というかバレエみたいなものを手ほどきされたり、スローライフを楽しんでいた。
将来のためってなんだと思ったら、本当は剣の稽古を始めたいけどまだ体が出来上がってないからやらないんだって。
何故だろう、それ聞いて「助かった!」って気持になったのは。
なので将来稽古を始めるのを見越して、今は体を動かす体操だけって。ストレッチとバレエと太極拳とヨガを混ぜて割ったみたいな謎ダンスだった。筋が伸びる感じは気持ちいい。
1週間ぐらいしてベルレとシェルリが帰ってきた。
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