第14話 温泉回と性癖暴露
山の陽は急に落ちる。
スッと暗くなったと思ったら、シェルリがランプを岩棚に吊るした。
オレンジのムーディな明かりが静かな山奥の温泉地を照らす……と言いたいところだけど、このランプは火ではなく光の魔法だ。さらに言うなら魔力を込めたのはシェルリである。
つまりどういうことかというと、夜間工事現場の投光器かよってぐらい明るいんだな!
これ麓から見ても光ってんじゃなかろうか。
私としては光量控えめのムーディライトであってほしかった。何故ならこれから入浴タイムだから。裸族のお時間だから!
裸族達があまりにも当然のような顔をしているので私が間違ってるのかなって気になったけど、いやいやこの世界でも裸はプライベートなものだよね? グラディにひん剝かれた私は今、川の真ん中で泡にまみれています。
石鹸あるんだなあ。あるか。私が異世界見くびりすぎてるのか。でも川に色々タレ流しなのは水質汚染とかどうなんだろう……と思ったけど、汚染したところでどうせ魔法一発で浄化するんだろうな。
あったかいお湯が流れてくるのって、なんかいいなあ。これはこれで。
泡を洗い流したところでグラディに抱っこされ、湯船代わりの
岩で囲った湾処にはベルレとシェルリもいた。当然マッパで。
ベルレは酒飲んでおっさんよろしく寛いでるし、シェルリは出っ張った岩に抱きつくようにもたれて寝ていた。
そして投光器の光にライトアップされるグラディの完璧ボディ。アンド私。助けてくれ。
「グラディは恥ずかしくないのです??」
思わずストレートに聞いちゃったよ。
「この完璧な肉体に恥じ入るところなど髪の毛ひと筋たりともございませんわ! 見た者はわたくしに金貨を払うべきですし、ご自宅に帰ってから恋人や妻に萎え散らかすとよいのですよ!」
ド外道かよ。
「アレア。人の裸なんてどうでもよくなるほど見て、見飽きなさい。そして自分も見られても平気におなりなさい」
「な、なんで?」
「敵が全裸だろうが鎧だろうが己が裸だろうが戦場は待ってはくれませんことよ。戦士として生きていくおつもりなら羞恥心はお捨てなさいな」
戦士じゃなくても一人でやっていくおつもりなら捨てた方がよろしいですわ! とグラディは叫んでベルレを湯から引き摺り上げた。ウオオオオイ!
「さあ! 人体について学びましょうね!」
グラディ教官の解剖学講座が始まった。
ベルレを教材にして。
◇ ◇ ◇
「本当なら汚いものを見て耐性をつける方がよろしいのですよ。でも初めのうちぐらいは綺麗なものを見ましょうね」
グラディなりのご配慮だったんだろうか……。
剣を使う時に動く筋はこれ、だから斬るならここ、みたいな講座だったけど、治癒魔法を使う時に必要になる知識も込みなんだろうなって思った。
ベルレの目は終始死んでたよ。でもベルレも人に見られることにまったく頓着してない。なんとなくだけどグラディとはちょっと傾向が違うように思った。
グラディはビルダー系の自信と自慢が見え隠れするけど、ベルレはなんていうかな、犬と風呂入ってるような……根本から「対象外」の感じ。それはシェルリからも感じるけど、シェルリの場合はそもそも浮世離れしてるっていうか、よくわかんないんだよな。優しい人だとは思うけど。
ロリコンじゃないのは判ってるので、他はまあ……いいや……その辺はあんまり詳しく知りたくない……かな……。
と、フワッとさせたまま流そうとしたのに、全裸教官がキラッキラの瞳で察しましたわ! とばかりに踏み抜いていく。
「ご安心なさいませアレア! わたくし達、性的嗜好がまったく噛み合いませんの!」
これからしばらく生活を共にする人のリアル性的嗜好を語られるのキツくね?!
好きキャラの傾向とかそういう話じゃねえよなあ!
「グラディは男の尻に異物をねじ込んで革ベルトでメッタ打ちにする趣味だ」
初手、ベルレからの剛速球。
アッ、でもすごい判る、イメージ通りで納得しかない。
「さらに申し上げれば太めの男性ですわね! 脂肪でも筋肉でもどちらでもかまいませんが、お肉がたっぷり乗っている方が好ましいですわ! そしてシェルリは複数の年上の御婦人達によってたかって一方的に捏ね回されたいタイプ。年上と複数人が絶対条件です」
お姉様達にヨシヨシされたい×同時接続パーティプレイか……しかも一方的に。
これからどんな顔してシェルリを見ればいいの。
「そして俺は一人で楽しみたい派。他人がいると気が散る」
町に入ったら視界全部の女が駆けつけてきそうな顔面マップ兵器のベルレがソロプレイヤー宣言した。
なんなの、創造神の使徒は特殊性癖が条件なの。
ちなみに「アレアは好きな子のタイプはありますか?」とグラディに聞かれたので、人間にはほとんど興味ないですと正直に答えた。二次元専門だったので。
まだ子供だものね、なんて可愛い雰囲気で流れそうだったので安心して、
「大きな獣が好きです!」
と追加した。馬も好きだし。だからプレシオも好きだ。虎とか豹とか、狼とか、熊とか。近付けないけど見てるだけでもモフい動物は普通に好きだ。
なのに三人が今まで見たこともないドン引き顔で私を見たのが解せぬ。
◇ ◇ ◇
温泉には三日ほど滞在した。
私は弓の練習がてら毎日グラディと狩りに出かけた。さすがに自力では一匹も狩れなかったけど、とどめを刺すことは慣れてきた。解体も。
ベルレが解体の教材用に角のある大きなイノシシを狩ってきた。もう頭から血と脂にまみれてバラした。温泉ですぐ洗えるから耐えられた。
「解体って魔法でやらないの?」
「できるが、疲れる」
単純に労力に見合う時は魔法でやるし、見合わない時は手でやるとのこと。
こんな大変なのにそれでも手でやった方がマシって、魔法で解体するのって相当大変なのかな。
「そうか?」
シェルリが首を傾げる。
「そうですわよ!」
「普通はそうなんだよ」
怒濤のツッコミが入ったので、この三人の中でも魔法使い度はやっぱりシェルリが飛び抜けてるらしい。
しかし、獲物の体が大きくなればより「食肉」感が増して見えるので、私には小動物より大型の動物の方が精神的に楽っぽいと思った。そりゃ大変だし疲れるけど。もっと成長して背も伸びて筋肉も付いたらシュババッとバラせるんじゃないかなあ。希望。
夜は温泉に浸かりながらベルレとグラディの体、つまり人間の体をよく観察した。もうスケッチさせて欲しい。教材が贅沢すぎて。
一度、シェルリが「私も見るか?」と近付いてきたことがあったけど、ベルレとグラディに追い払われていた。ダメらしい。
そうやね、私も一人ぐらい聖域を残しておいて欲しいと思うよ……。
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