第91話

 3月17日、土曜日。


「和馬、今日はダンジョンに入らなくて良いわ。

直ぐにうちに行きましょ」


午前10時に家にやって来るや否や、南さんがそう告げてくる。


「・・珍しいですね。

一体何故ですか?」


「決まってるでしょ?

あなたと子供を作るのよ」


「!!!」


美冬はまだ寝てるのに、何で知ってるんだ?


「知らなかったの?

私達、和馬の女は、お互いに念話で話せない分、SNSで色々と遣り取りしてるのよ?

木曜に美冬から、『これからです』のメールが送られてきたし」


何て事を・・。


「吉永さんと個人的なメールの遣り取りをしてるのは知っていましたが・・。

それに、『僕の女』って、お二人はパートナー同士じゃないですか。

僕は飽く迄もおまけでしょ?」


「まだそんな事を言うのね。

私は付録程度の男に抱かれるほど安い女じゃないわよ?

ましてや子供なんて、対等以上の男とじゃないと、絶対に作らないわよ」


「和馬君、そこまで自分を貶めると、冗談にもなりませんよ?

南は本当に君が好きなんです。

もしかしたら、もう私以上かも・・」


「百合、そんな事ないわ。

同じくらいだから・・」


俺の前でキスを交わす2人。


「そういう訳だから、早く行きましょ。

明日の夜まで、ずっと私達を愛してね」


「美冬に書き置きをしておかないと・・」


「はい。

紙とペン」


アイテムボックスから計ったように出される。


『明日の夜まで拘束されます』


そう書くのが精一杯だった。



 「実は今まで、美冬以外には秘密にしていた事がありまして・・」


3人でシャワーを浴びた後、伊藤家のキングサイズのベッドに腰を下ろし、そう切り出す。


6階の2部屋を所有する彼女達は、生活拠点に『伊藤』の名札を、物置き代わりの部屋に『神崎』の札を掲げている。


「秘密?

私達にも?」


バスローブを脱ぐ手を止めた南さんが、怪訝けげんそうな顔をする。


「お伝えすると、直ぐにでも貞操の危機に陥りそうでしたので・・」


「私達、随分信用ないのね」


2人が少し腹を立てている。


「済みません。

でも、本当にシャレにならない能力でして・・」


「能力?

そっち方面の?」


「はい。

僕の特殊能力の中に、『子宝』と『若返り』、『処女の血』、『愛欲の僕』というものがありまして・・。

『子宝』を使って女性を抱けば、相手は必ず一度で孕みますし、『愛欲の僕』という能力は、抱いた女性をパーティーに加えれば、その人の得られる経験値が倍になるというものです」


「素晴らしいわ。

私、できれば議員になる前に子供を産んでおきたかったから。

経験値の方は、初期の頃なら重宝したでしょうけれど、今の段階ではそれ程必要ではないわね。

問題なのは・・」


「そうです。

『処女の血』は、その状態の女性を1人抱く度に、肉体年齢が1つ若返るというものですが、18歳未満にはならないので、美冬を抱いても変化はありませんでした。

そして『若返り』ですが、これを用いて抱いた女性に精を放つと、その相手は、膣内で放たれた回数に応じて、1つずつ肉体年齢が若返っていくのです」


「「!!!」」


「これも18歳未満にはならないので、抱き過ぎたからといって、相手が子供のようになる事はないです」


「・・その能力は確かにヤバいわ。

公になれば、重婚どころの騒ぎではなくなる。

あなた、世界中の女性から狙われるわね」


「秘密にしていた理由を、納得していただけましたか?」


「まさか。

だってあなた、私達がそれを知ったら、直ぐに襲うと考えていたのでしょう?

失礼しちゃうわ」


「申し訳ありません」


「お詫びに、今晩と明日で、私達を少し若返らせて頂戴。

それから子供も仕込んでね」


「済みません。

若返らせる事は可能ですが、子供は無理です」


「どうして?

久遠寺家の跡取りは美冬が産むでしょうけれど、うちにだって必要よ?

重婚制度を創って和馬と結婚しても、『伊藤家』としての跡取りは別に欲しいわ」


「『子宝』と『若返り』は、同時に使えないのです。

それに、僕は自分の子供を欲してません。

美冬とも話し合って、作らない事に決めました」


「理由を教えて」


「僕が未熟だというのもありますが、作った子供の方が、必ず先に死ぬからです」


「『処女の血』を使い続けて、若さを保ち続けるということ?

『若返り』にも、反復効果があるの?」


「『若返り』に反復効果があるのは確かです。

定期的に何度も僕に抱かれていれば、ずっと10代の肉体のまま生きられるでしょう」


「でもそれ、和馬が死ぬまでよね?

毎年処女を1人ずつ抱いて、私達にも若さを保証してくれる訳?

それだと確かに、自分の子供を抱くなんてできないから、作っても相手が先に死んじゃうわね」


「実はですね、僕には更に秘密がありまして、『不老長寿』という特殊能力のお陰で、現在の寿命は5000万年ほどあるのです」


「・・冗談を言ってるの?」


「・・・」


「まさか、本当に?」


「事実です」


「「!!!」」


「・・和馬君、もうほとんど神様に近いですね」


「いやいや、それは恐れ多いですよ。

真の神様は、この世界を創った方であって、僕達は飽く迄その恩恵の一部を甘受させていただいているに過ぎません。

作り話には、転生した一般人に殺されるような間抜けな存在もいるみたいですが、自らが分け与えた力で直ぐに殺されるような阿呆は、神を名乗る資格なんてないです。

その気になれば、直ちに世界を壊し、与えた力や英知を回収するくらいできなくて、何が神様ですか。

僕はずっと、探索者として生きる機会を与えてくださった存在に感謝してます。

お金を稼いで女性を抱いて、食事をして寝るだけの人生にならなかった事を、心から有難く思っています」


「和馬君、神様の存在を信じてるんだね」


「ええ、勿論。

特定の宗教に属するつもりはありませんが、実際にそれに近い方はいらっしゃるので」


「もしかして、会った事あるの?」


「いいえ。

でも、大事な宝箱を開けると、文字が見えるんですよ。

『知恵と幸運、武力を備えた汝に、更なる力を授ける』って」


「「・・・」」


「話が逸れちゃいましたね。

僕が子供を欲しがらない理由を納得していただけました?」


「ええ。

ただ、少し百合とも相談させてくれる?」


「勿論です」


「百合、あなたは、己の血を分けた子供を欲しいと思う?

たとえ彼らが先に死んでいっても、自分の子供を育てるという行為はできるけど・・」


「これまでの和馬君の話を聴いた限りでは、必要ありませんね。

元々、私達は子供を望めない同性同士のカップルでした。

南の血を受け継いだ子供なら、私達2人の子として受け入れますが、あなたがそれを欲しないのであれば、別に要りません」


「・・私も、和馬や百合達と、永遠に等しいような時を生きられるのなら、自分の子供には拘らないわ。

自身が築いた富や地位を、子供に引き継がせる事なく自分で保持できるのなら、和馬が欲しいと望まないのなら、敢えて作ろうとは思わない。

正直な所、私に育児ができるとは思えないしね。

たとえ産んでも、百合や家政婦任せになりそうな気がするから」


「和馬君と3人で愛を育み、お仲間の皆さんと絆を紡いで、楽しく暮らしていきましょう」


「そうね。

そうしましょうか」


「・・結論が出たみたいですね」


「聴いた通りよ。

もう子供には拘らない。

『若返り』で以て、ずっとかわいがって欲しいわ」


「肉体年齢、つまり見た目が若返るという事は、女子高生くらいに見えるようになるという事ですよね。

そうしたら、和馬君とも普通に恋人同士に見えるじゃないですか。

それ、凄く良いです」


「確かに、今のままだと9歳も離れているから、周囲からは和馬が私達のツバメに見えるものね」


「実際は、私達が囲われているようなものですが・・」


「やっかむ人達には、その辺りの事情なんてどうでも良いのよ」


「今日はもうこれで解散しますか?

それともダンジョンに行きます?」


「は?

何でそうなるの?」


「子供を作る必要がなくなったのですから、慌てて行為に走る必要はないかなと思いまして」


「本気で言ってたら殴るわよ?

現代社会におけるセックスはね、子供を作るためだけじゃないの。

愛する人と身体を重ねて、心を満たす行為でもあるのよ」


「念のためにお伝えしておきますが、『若返り』を用いた行為は、物凄く激しい快楽を女性に与えます。

僕の物を通して、その魔力が女性の体内に流れ込むからです。

精神力が5万以上ある美冬でさえ、両手ではきかないくらいに意識を飛ばしました。

お二人も、その可能性が高いですよ?

それと、行為前にはシーツの上に大き目のバスタオルを敷く事をお勧め致します」


「脅したって駄目だからね。

ずっと待ち焦がれていたんだもの。

今夜と明日は、存分に楽しませて貰うわよ?」


「忠告はしましたよ?」


「望む所よ」



 3月18日、日曜日、午後10時。


「・・もう駄目。

お願い・・許して」


「・・これ以上は・・無理です」


汗と体液にまみれた2人が、ベッドの上でぐったりと横たわり、浅い呼吸を繰り返している。


「お疲れ様でした。

見た感じでは、2歳くらい若く見えますよ?」


あれから約34時間、ずっとこの2人の相手をしていた。


最初はその快楽におぼれるだけだった2人だが、12時間を経過した辺りから、その動きが緩慢かんまんになり、24時間を過ぎると、1人が脱落している間、もう1人がいように俺にもてあそばれるようになった。


勿論、お互いに合意の上での行為だから、彼女達から停止を求められれば、一旦は止める。


だが、これまで経験した事のない凄まじい快楽を与えられ続けた2人は、『自己回復(S)』による体力の回復が済むと、まるで麻薬に侵された中毒者のように俺を求めた。


時にはうめき、ある時は泣き叫んで俺の身体にしがみ付いた。


俺の方でも、美冬でしか知らなかった快楽に、また別の味が存在することを知り、興奮というより興味が勝って、執拗しつように彼女達を攻め続けた。


「・・素直に喜べない。

こんなの、麻薬と同じじゃない。

身体に悪いと分っていても、手を出すのを止められないなんて・・」


「別に身体には何の問題もありませんよ?」


「例えよ、例え。

異常なまでの快楽は、身体にも毒になるの!」


「ならもっと早くにお開きにすれば良かったのでは?」


「・・・」


「和馬君、もしかして私達に意地悪してました?

これまで散々、浴室内で君の意思に反して摂取行為を繰り返したから、その意趣返しのつもりでしょうか?」


未だうつ伏せで横たわる百合さんが、抑揚のない声音でそう口にする。


普段は感情をあまり顔に出さない彼女だから、激しく乱れた事が悔しいのかもしれない。


「・・悔しいけれど、認めざるを得ないわ。

もう百合の指だけでは無理ね。

和馬を加えないと、満足できないわ」


仰向けで横になり、重力に逆らう大きな胸を呼吸で揺らしながら、南さんがすっきりしたような表情でこちらを見る。


「私もです」


百合さんがそれに同意する。


「まあ、比べても意味ないわよね。

文字通り、物が違うのだし」


「そろそろお風呂に入りますか?」


「そうね。

申し訳ないけれど、湯を溜めて貰える?

普通に動くには、もう少し時間が掛かりそうなの」


「了解しました。

序でに、床に散らばったバスタオルも洗濯しておきますね」


「有り難う」


「済みません」


2人からお礼を言われ、浴室に向かう。


明日も似たような事が起こりそうな身には、もう次の戦いへの準備が始まっている。


ほんと、無尽蔵だよな。

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