第92話

 3月19日、月曜日。


午前10時、落合さんと仁科さんが家にやって来る。


何だかそわそわしている。


彼女達にも当然、美冬からのメールが届いている訳で、次は自分達の番だと期待しているのだろう。


その美冬は、『大学が始まるまでに、少しでも宝箱を回収しておくよ』と言って、珍しく早起きして9時からブラジルのダンジョンに入っている。


土日をしっかりと休養に充て、睡眠も十分に取ったらしく、『帰りは明日の朝になるから、ごゆっくり』と、送り届けた際にニヤニヤしていた。


「念のためにお尋ねしますが、今日はダンジョンと寝室のどちらに致しますか?」


彼女達の立場では言い出し難いだろうから、こちらから提案してやる。


2人が肩をビクンとさせ、互いに顔を見合わせる。


「・・寝室で」


「私もそちらでお願いします」


既に何度も一緒に入浴しているのに、そう口にする2人の顔は赤い。


「お二人別々に致しますか?

それとも、ご一緒に?」


再度2人が顔を見合わせる。


「私は一緒が良いです」


「できましたら、私もその方が・・」


「分りました。

ただ、そうなると場所を何処にしましょうか?

家のベッドはダブルなので、3人だと狭いですし、マンションの8階に置くために買ったキングサイズのベッドは、届くまでにもう少し時間が掛かるので・・」


美冬と経験した後、その汗を流しながら、浴室でした会話を思い出す。


『今後はさ、頻繁にお仲間さんとも裸の交流を持つ訳だから、目黒の8階にある空き部屋を、それ用に使おうよ』


『会社の本部の隣を、ヤリ部屋にするのか?』


少し呆れて、そう口にした。


『そんな露骨な言葉を使っちゃ駄目。

休憩室、若しくは福利厚生ルームだよ。

従業員の美容と健康維持のために使うんだから』


『でも、南さんや理沙さんの家には、既にキングサイズのベッドがあるぞ?

美冬とする時だって、俺の部屋にあるダブルベッドを使えば良いだろ?

吉永さんの部屋にも、キングサイズのベッドがあるし・・』


『仁科さんと落合さんの部屋は?』


『寝室には入った事がないから分らないな』


『なら念のために1つ買っておこうよ?

別に、ただ仮眠を取るためだけに使用したって良いんだからさ』


『・・まあ、それはそうだな。

直ぐ近くに、其々の部屋があるのだが』


『今後も、お仲間さんが増える可能性だってあるでしょ?

先はかなり長いんだから・・』


『いや、今の所、もう十分だと思っている。

エミリアを入れると既に9人だしな』


『意外と欲がないんだね。

何十人も欲しい訳じゃないんだ?』


『ゲームじゃないんだぞ?

1人1人の人生にきちんと責任を持つなら、今くらいで十分だよ。

・・死に別れる訳でもないしな』


『・・和馬のそういう所、大好き。

でもさ、困っている綺麗な女性を見つけて、何もしないでいられる?

助ければ、かなりの確率で皆と同じになるような気がするけれど‥』


『・・・』


『まあ、その辺りは私達で考えれば良いか。

という訳で、取り敢えず1つ注文しておくね』


回想に浸っていると、落合さんがず怖ずと申し出る。


「あの、私の寝室に、キングサイズのベッドがあります」


「・・実は私も、最近それに買い換えました」


仁科さんも、ぼそぼそとそう口にする。


「・・・」


「か、和馬様の秘書としては、そういう備えも必要かなと思いまして・・」


「お忙しい和馬様に、私達を別々にお相手させるのは心苦しくて・・」


「・・・」


「宜しかったら、今日は3人でうちに・・」


落合さんが俺を見つめてくる。


「そうですね。

折角のお気遣いですから、お言葉に甘えさせていただきます」


「有り難うございます」


ホッとしたように微笑む彼女。


「お邪魔する前に、お二人にお伝えする事があります。

僕の能力に関する事なのですが・・」


この2人にも、南さん達にしたような内容を語って聴かせる。


「・・・」


「・・・」


彼女達は、暫く呆然として、言葉も発しなかった。


カチャ。


俺が口にする、珈琲カップの音だけが室内に響く。


「・・やっぱり、止めておきますか?」


俺と最後までしなければ、彼女達にはまだ人として死ぬ選択が残される。


ダンジョンで能力値を上げ続ければ、その内老化は止まるだろうが、不死までいけるかどうかはまだ俺にも分らない。


数百年、数千年先なら、肉体の寿命がきてもおかしくない。


俺の5000万年という寿命は、飽く迄『不老長寿』という特殊能力のお陰なのである。


同様に、美冬達をそれに付き合わせる事ができるのも、『若返り』という能力の賜物なのだ。


「申し訳ありません、和馬様。

あまりに驚いて、色々と心を整理する必要がございましたので、お返事が遅くなりました。

私は、和馬様の秘書になると決めた時から、何処までもあなたに付いて行く覚悟をしております。

ですから、たとえその期間がどれ程先へ伸びようと、何の問題もありません。

今日は誠心誠意、お相手致します」


「私もです。

ご心配をお掛けして済みませんでした。

もう和馬様以外の男性を考えられない私ですから、あなたとねやを共にするのは必然です。

末永く、宜しくお願い致します」


少しホッとした。


大丈夫だろうとは思っていたが、内容が内容なだけに、もしかしたらとも考えていたのだ。


「そう仰っていただけて嬉しいです。

こちらこそ、どうか宜しくお願い致します」


「・・ではそろそろ、移動致しましょうか。

たっぷりとかわいがってくださいね?」


今日も1日、長い戦いが始まった。



 「・・落合さん?」


返事はないか。


俺の背中を抱き締めていた彼女の両腕がずるりと下がり、腰に絡みついていた両足が力なくほどける。


そんな彼女からゆっくりと身体を離し、ベッドの中央に仰向けになる。


落合さんの逆側には、未だ意識を取り戻さない仁科さんが身を横たえている。


開始してから約12時間が経ち、もう直ぐ日付が変わる。


初めは1人ずつお相手し、どちらも程無く意識を飛ばしたので、その後は彼女達2人を同時に相手にしていたが、やはり精神力の差があり過ぎて、『若返り』を用いた際の強烈な刺激に耐え切れずに、直ぐにどちらかが陥落した。


2人の体力をカバーしていた『自己回復(S)』も、連続的に襲い来る快楽と疲労に、次第にその回復速度が追い付かなくなり、彼女達の体力をどんどん削っていった。


最初の頃には聞こえていた嬌声は、5、6時間もすると絶叫に変り、それからは、2人の意識が回復するのを待ちながら、よりゆっくりと相手をしていた。


残念ながら今日だけでは、2人の肉体年齢に変化は見られなかった。


合わせて数発しか打ち込んでいないので、既定の射精回数に満たなかったらしい。


ここ数日で関係を持った5人の女性に思いを巡らせ、其々に確固たる絆ができた事を喜んでいると、視界に影が差す。


「お身体の方は大丈夫ですか?」


「はい、何とか。

・・麗子さん、暫く起きそうにありませんね」


「意識を失って、まだ数分ですから」


彼女がおもむろに唇を重ねてくる。


「もう一度お相手しましょうか?」


「是非・・と言いたいところですが、さすがに今日はもう身体が・・。

また次の機会にお願い致します」


俺の腕を枕に、仁科さんが寄り添ってくる。


「『素敵』、『最高』などという言葉の類では言い表せないほどの経験でした。

私の身体全体があなたを求めて止みませんでした。

・・狡いです。

こんな事を教えられたら、何時だって、何処ででも、あなたに身体を開いてしまう。

私、かなりお堅い人間なのに・・」


「自宅や寝室以外では、こんな事しませんよ。

僕は独占欲が強いし、特殊な性癖も持ち合わせていないので、他人から見えるかもしれないような場所では何もしません」


「安心しました。

私、かなり乱れてしまうと思うので・・」


「確かに、初めてとは思えないくらいでしたね」


「意地悪」


「とてもかわいかったですよ」


反対側から声がする。


「・・麗子さん。

身体は大丈夫ですか?

まだなさるなら、場所を空けますよ?」


「有り難う。

でも残念ながら、今夜はもう無理みたい」


空いている方の俺の腕を枕に、彼女も寄り添ってくる。


「麗子さんも、普段の姿からは想像できないくらいに厭らしかったですよ?

見ていてかなりそそられました」


「まあ酷い。

私はちゃんと気を遣ったのに。

フフフッ」


「今時、大人に対して『かわいい』なんて、語彙の乏しい女性しか使いませんよ。

からかわれているとしか思えません。

フフフッ」


俺を挟んでジャブの応酬をした2人が、不意に真面目な顔をする。


「・・到頭お互いに、一生に一度しかない姿まで見せ合ってしまいましたね」


「そうですね。

もう『親友』とか『戦友』などという関係すら、飛び越えてしまったかもしれません」


「今後は『純子』って呼び捨てでも良いですか?」


「ええ、勿論。

私も『麗子』って呼ぶから」


「気が遠くなるような長い時間のお付き合いになりそうですが、他の皆さん共々、宜しくね」


「こちらこそ宜しく。

2人で頑張って、和馬様に満足していただきましょう」


「精神力を上げ続けないといけないわね」


「ダンジョンで更に励むしかないですね」


「時間は十分にあるのですから、マイペースで良いですよ?

お二人には仕事もあるのですから」


「仕事があるのは皆さん同じです。

それに胡坐あぐらをかいてると、私達だけ夜のお呼び出しが掛からなくなりそうで怖いですから」


「和馬様にもちゃんとご満足していただかないと、順番を飛ばされそうで不安ですしね」


「大丈夫ですよ。

急な予定が入らない限り、月曜はお二人の為に空けておきますから」


「有り難うございます。

・・でもまあ、お仲間さん以外の女性は気にしなくてもよくなりましたから、楽にはなりましたね」


落合さんが、そんな事を言ってくる。


「何故ですか?」


「だって絶対に耐えられませんから。

後腐れがないように、必ず『若返り』を使ってお抱きになるでしょうし、そうすれば、相手の女性は1分と持たずに失神して、ご満足できずに終わってしまいますからね」


「・・・」


それ以前に、もしそんな撮み食いをしたなら、美冬達から玩具にされるんですけど・・。


落合さんと仁科さんは、その時、俺の味方をしてくれるのかな?

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