第88話

 2月14日、水曜日。


この日は1日中忙しかった。


吉永さんの家から帰宅後、2時間だけ久々に睡眠を取り、朝の7時30分に珈琲を淹れる。


学校が自由登校になり、今日は入試のない美冬は、好きなだけ寝かせておく。


午前11時に美保さん達が来るまで、アフリカで宝箱を開け続け、時間になったら帰宅して、彼女達を迎え入れる。


緑茶と共に、各能力値を上げる品を2人に食べて貰いながら、美保さんには『アイテムボックス』のランクを1つ上げる品も一緒に食べて貰う。


これで彼女の能力も『アイテムボックス・改』になり、『戦利品の自動回収』が

付いた。


もっと早く渡すべきだったのだが、情けない事に、今まで忘れていたのだ。


理沙さんには『地図作成』のランクを1つ上げる品を出し、『魔物の位置が赤く表示される』機能を付加させた。


朝の珈琲を飲みながら、アイテムボックス内にあるアイテムを整理している時に、これらの品々だけ皆に配り忘れていた事に気が付いて、青くなった。


今日中にりげ無く皆に配るつもりでいる。


2人からは、共同で作ったというチョコレートを貰った。


A4のノートくらいの大きさがある。


『有り難うございます。大事に頂きます』とお礼を言うと、『今夜、口移しで食べさせてあげようか?』と美保さんにからかわれた。


試食の際、2人でそれをやったそうだ。


相変わらずお熱い。


着替えた2人を静岡のダンジョンに送り、自分はアフリカへ。


夕方6時に彼女達を迎えに行き、自宅で共に入浴する。


その後、美冬と4人で夕食を取り、22時少し前に、美保さん達を自宅に送り届ける。


そしてその足で、同じマンションに住むお仲間さん達の部屋を回る。


夕食の最中に、其々から、『バレンタインのチョコを受け取りに来て(ください)』と念話を貰ったからだ。


先ず南さん達の部屋を訪れ、お二人共同制作の、分厚い板チョコを頂く。


こちらはそのお返しに、『アイテムボックス』と『地図作成』のランクを1つずつ上げる品を渡した。


南さんの『アイテムボックス・改』には『アイテムの自動修復』が付き、百合さんの『地図作成・改』には『魔物の位置が赤く表示される』機能が付く。


『ゆっくりしていけば良いのに』という南さんの言葉に、『済みません。他の皆さんからもお呼び出しが掛かっているので・・』と正直にお伝えして、キスだけで許して貰う。


次に吉永さんの部屋を訪れ、驚く彼女に、お詫びと共に『アイテムボックス・改』のランクを1つ上げる品と、『地図作成』のランクを1つ上げる品を2つ渡した。


彼女の『地図作成』は、これまで宝箱の位置さえ表示されなかったのだ。


本当に申し訳ない。


お仲間さん達は皆、俺にアイテムの催促を一切してこないので、こちらがきちんと気を配ってあげないといけない。


各能力値を上げる事ばかりに目が行き、其々の特殊能力ホルダーの中身にまで配慮しなかった俺の責任は重い。


大事なアイテムを入手しても、単純作業のように宝箱を開け続けているから、注意と感動が薄れていて、忙しさの中で忘れてしまう。


『遅くなって済みません』と謝罪した俺に、吉永さんは深いキスと笑顔で答えをくれた。


更に仁科さんの部屋へ。


丁寧にラッピングされたチョコを受け取り、やはりお返しに、『地図作成』のランクを上げる品を2つ渡す。


彼女の『地図作成』も、宝箱の表示すらされなかったからだ。


2つ渡した結果、魔物の位置までは表示されるから、取り敢えずこれで何とかなるだろう。


玄関口で濃厚なキスをされて外に出る。


落合さんの部屋に行く。


一口サイズの手作りチョコが沢山詰まった大きな箱を手渡される。


そのお返しに、『アイテムボックス』のランクを1つ上げる品を2つ渡す。


これで『戦利品の自動回収』と『アイテムの自動修復』が付き、大分負担が軽減されるだろう。


今まで、魔宝石などをいちいち手で拾わせていた事に、多大な申し訳なさを感じつつ、頭を下げる。


そんな俺を強く抱き締めてきた彼女は、その後、静かで深く優しいキスをしてくれた。


玄関のドアを閉め、深夜の夜風を浴びて、今度はイギリスのエミリアの下へ。


念話が使えない彼女は、メールで以て要望を伝えてきた。


待ち焦がれていたらしい彼女は、チョコを渡してくれる前に、俺の首に両腕を回し、唇を塞いできた。


5分以上もそうされてから、やっと解放され、香り高い紅茶を淹れてくれる。


その際、物凄く豪華な箱に入った手作りチョコも添えられた。


俺は彼女の正面に、『アイテムボックス』と『地図作成』を得られるアイテムを置き、その場で食べて貰う。


彼女のステータス画面でそれらを確認してから、今度はその2つのランクを1つずつ上げる品を置く。


それらも食べ終えた彼女には、『戦利品の自動回収』と、『宝箱の位置が青く表示される』機能が付加された。


『もう1つだけ頑張ってください』


そう言って、更に『地図作成・改』のランクを1段階上げて貰う。


魔物の位置までは表示されないと、この特殊能力は宝の持ち腐れになりかねないからだ。


こちらの時間は、まだ午後3時半くらい。


あと1つあった大学の講義を今日はサボったらしく、その講義を内緒で録音してくれている友人に、明日からお礼をするそうだ。


昼食3回分らしい。


『どうしても今日、あなたにチョコレートをお渡ししたかったから』


そんな事を真顔で言われたら、何も言えなくなる。


日本時間で0時になる前に、エミリアの部屋をおいとまする。


そして直ぐに自宅へ。


「お帰り」


自室ではなく、俺の部屋で勉強していたらしい美冬が、いきなり現れた俺に驚く素振りも見せずに、そう告げてくる。


「遅くなって済まない」


「まだ0時前だから大丈夫だよ」


そう口にして、側に置いてあった箱を差し出してくる。


「はい、バレンタインデーのチョコレート。

ちゃんと手作りしたからね?」


「有り難う。

受験で忙しいのに、気を遣わせて申し訳ない」


「あと2つだけだし、私立は楽勝だから問題ないよ。

3大学、5学部も受けるから、面倒ではあるけどね」


「美冬の高校から初めての東大合格者が出るから、先生方も喜んでいるだろう」


「そうだね。

友達も応援してくれてるし」


「珈琲を淹れるから、夜食代わりにアイテムを食べてくれないか?

渡し忘れていた物があるんだ」


「良いけど、何個?」


「2つだよ。

『地図作成・改』のランクを2つ上げたいから」


「そのくらいなら食べられる。

夕食、ちょっと食べ過ぎたから・・」


「はは、テールシチュー、美味かったもんな。

あれなら毎日でも食べられる」


「理沙さん達も、2回もお代わりしてくれたしね。

大型の寸胴ずんどう鍋で大量に作るから、3日くらい食べられるし」


「テールとはいえ、一度に15キロも肉を使うから、筋から滲み出るゼラチンが堪らないよな。

玉葱の原形が無くなるほど煮込むのも俺好みだよ」


「フフッ、和馬を繫ぎ止めるには、先ず胃袋からだね」


「美冬やお仲間さん以外なら、そうかもな。

珈琲を淹れてくる」


その後、美冬にはしっかりとアイテムを食べて貰い、彼女の『地図作成・改』を、3番目の『人の位置が白く表示される』まで高めた。


「ねえ、今夜はもうこれで勉強やめるからさ、・・一緒に寝ない?」


「良いけど、風呂に入らなくて良いのか?」


「今夜はベッドでスキンシップしたいな」


「・・言っておくけど、吉永さんからのプロポーズは、ちゃんと受けたからな?」


「知ってるよ。

彼女から大喜びのメールが来てたしね。

・・元々、和馬が断るなんて考えてなかったし、今日はまだ最後までしないから」


「・・寝込みを襲うなよ?」


「そんな事言うと、本当にしちゃうからね?」


「冗談だよ。

でも、もう少しだろ?」


「うん。

楽しみにしてるよ」



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 『探索者チャット・日本語版』


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1524:俺様


 最近さ、何か暇じゃね?


2082:ベテラン?


 それはニートのお前だけだ。


1524:俺様


 最初から喧嘩売るなって。


今日はそういう気分じゃないの。


1604:私


 世間では受験シーズンだからね。


ダンジョンも多少は閑散とするでしょ。


1524:俺様


 元から学生なんてそう居ないじゃん。


ここ1、2年、せいぜい訓練学校の奴らくらいしか見たことないぞ。


2819:女子大生


 和歌山には、結構学生が多いですよ?


一時期、強い魔物が完全に姿を消しましたので、弱い人でも入り易くなりましたからね。


1604:私


 死亡率はどうなんですか?


2819:女子大生


 他と大して変わらないんじゃないかな。


ほとんど死体を見ないよ?


3120:主婦


 皆さん、1日にどのくらいダンジョンに入ってますか?


私は毎日1時間くらいですが。


1604:私


 3日に一度で、1回2時間。


8972:女子高生


 週4で1回に2時間です。


2819:女子大生


 週3で、1回に90分くらいですね。


1524:俺様


 俺は2日に一度くらいの割合で、長い時でも1回3時間だな。


周囲に人が居ない時は早々に立ち去るし。


2082:ベテラン?


 ダークウルフくらいは狩れるようになったのか?


1524:俺様


 3人居れば、勝てる時もある。


2082:ベテラン?


 言ってる意味が分らんな。


負ければ死ぬだろう?


1524:俺様


 危なくなったら逃げるし。


2082;ベテラン?


 仲間を置いてか?


1524:俺様


 臨時パーティーなんて、何処もそんなもんだろ?


自分の命が最優先だよ。


8972:女子高生


 それじゃ永久に持てないよ?


人の縁は大事にしないと。


1524:俺様


 そういうお前ら学生の方が、余程酷い事してるぜ?


ラノベなんかによくあるだろ?


ダンジョン内で、底辺の奴を置き去りにするやつ。


あれ、フィクションばかりじゃねえんだぜ?


作り話だと、最弱の奴がダンジョン内で修行したり都合よく覚醒するけど、現実はそうじゃねえからさ。


十中八九死ぬし、運良く生きて出られても、最早誰も信じられなくなるのさ。


2082:ベテラン?


 お前みたいにか?


2819:女子大生


 確かに、初期の頃には、そういうの多かったみたいですね。


教室や職場でのいじめが、証拠の残らないダンジョン内に移ったと言われています。


けれど、そういう事をした人達も、半分近くは魔物に食われたそうですから。


1604:私


 今回は暗い話ばかりね。


何か楽しい話題ない?


2082:ベテラン?


 宝箱を全く見かけなくなった。


茶箱すら見つからない。


1524:俺様


 それ、全然楽しくないだろ。


8972:女子高生


 宝箱って、全部で何種類あるんですか?


私、一度も見た事ないです。


2082:ベテラン?


 金、銀、茶の3種類だな。


尤も、金箱は、世界中でもまだ二十数個しか確認されていない。


その中身は、各能力値を300も上げるような物らしい。


発見数からも分る通り、普通には見つからないとさえ言われている。


運良く見つけた奴らも、魔物との戦闘で、偶々建物が壊れた場所から出て来たから見つけられたと言っている。


普通に探したら、先ず見つけられないような場所に隠されているらしい。


銀箱は世界各地で偶に発見されるが、中身は貴金属や工芸品、美術品の類だそうだ。


2819:女子大生


 能力値を300も上げるって、ほとんどチートじゃないですか。


売れば幾らになるんです?


2082:ベテラン?


 現在はオークションにすら出品がないが、以前、生命力を300上げるという品が、3000万で落札されたな。


2819:女子大生


 3000万!?


老後の貯金ができる額じゃないですか。


良いな~。


2082:ベテラン?


 金箱を見つけるのは、ジャンボ宝くじで1等を当てるより難しいから。


ドロップ品で稼ぐ方が断然良いよ。


3120:主婦


 私、もう10年近くダンジョンで戦ってますけど、まだ一度も落ちた事ないんですよね。


やっぱり、1時間くらいじゃ駄目なのでしょうか。


1つでも装備品が落ちれば、家計が随分楽になるのですが・・。


8972:女子高生


 ひえ~、10年ですか。


じゃあもう大分お強いのですね。


因みに私も、ドロップ経験ありません。


ゴブリンかオークしか、単独では倒せないので。


3120:主婦


 私だって、単独ではダークウルフを倒せないですよ?


主婦仲間3人でも、出口付近でないと戦いません。


2819:女子大生


 あ~あ、何処かにイケメンの王子様がいないかな~。


強くて、お金持ちで、凛々しい王子様。


そんな人なら抱かれたい。


1524:俺様


 そういうあんたは、強くてお金持ちで美人な訳?


男に理想を求めるのは勝手だけどよ、せめて自分も相手と釣り合うくらいでないと、聞いてて吐き気がするわ。


寄生虫と同じだな。


2819:女子大生


 何だとニート野郎!


和歌山まで来い!


ボコボコにしてやんよ!


1524:俺様


 電車賃がないから無理。


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