第86話

 1月18日、木曜日。


この日は、仁科さん達に任せる場所として、岐阜の攻略をする。


岐阜県のダンジョン入り口数は、合計135個。


金箱のある重点探索地域は、日枝神社、大矢田神社、伊奈波神社、華厳寺、温泉寺、南宮大社、飛騨一宮水無神社、橿森神社、養老の滝、大滝鍾乳洞辺りの計10箇所。


ユニークは居らず、金箱の中身は『開運』2『金運』1『子宝』1『若返り』1『給水』1、残りの4つは能力値を上げる品だった。


『子宝』と『若返り』はポイントに替える。


ここまでやって約40分しか経っていない。


倒した魔物は僅かに900。


銀箱18と茶箱41は、仁科さん達に任せる。


あまりに早く終わったので、青森の攻略も序でにやってしまう。


青森県のダンジョン入り口数は、全部で123個。


金箱があるのは、岩木山神社、蕪嶋神社、十和田神社、高山稲荷神社、猿賀神社、恐山菩提寺、地獄沼、黄金崎不老不死温泉、十和田湖辺りの計9箇所。


ユニークは、恐山辺りに居た老婆の魔物のみで、俺を見ると戦闘を諦めたのか、15センチの魔宝石を残して消滅した。


それと同時に体内に入って来た感覚を確認すると、『装備解除』という特殊能力だった。


説明には、『対象の装備を全て解除する。但し、精神力と素早さの双方が1000以上相手を上回っていなければ成功しない』とある。


『身体能力・改』の中に収納されていた。


金箱からは、『開運』2『金運』1『生命力増加』1『浄化』1を得られ、他は全て何れかの能力値を上げる品だった。


ここも、僅か40分足らずで終えてしまう。


倒した魔物は約750体。


銀箱11と茶箱29は、ここを攻略するお仲間に任せる。


時間を確認すると、まだ午前11時にもなっていない。


その足で、アフリカに跳んだ。



 1月21日、日曜日。


福島の攻略を終えた南さん達を、新たな場所である秋田へと運ぶ。


美冬は今日までセンター試験なので、朝から出かけている。


1月15日は落合さんの誕生日だったのだが、彼女が受験生である美冬に気を遣い、皆を集めてレストランでお祝いする事を固辞したため、俺が彼女と仁科さんの2人だけを栃木のダンジョン内に作った温泉へと連れて行き、そこで接待した。


料理とお酒をふんだんに持ち込み、食欲を満たした後は、温泉に浸かりながら彼女達の性欲に奉仕すべく、為すがままになっていた。


湯気の先から、細雪が木立を彩ってゆく様を見ながら、摂取行為を繰り返す彼女達の息遣いを耳にする。


2人が求める場所を愛撫しながら、約3時間、お互いの視線だけで語る時を楽しんだ。


誕生日プレゼントとして落合さんに与えた茨城の土地20万坪には、『耕作』を掛けた後、『植林』で梅の木を植えておいた。


お酒が好きな2人だから、人を雇って梅酒でも作らせようと考えている。


今夜の夕食は、センター試験を終えた美冬に寛いで貰うため、馴染みの店に頼んだ料理を家で食べる事にしている。


そのため、南さん達との入浴は、今日だけ夕食後にしたから、迎えに行くのは21時で良い。


美冬と2人だけで食事を取る予定の19時まで、アフリカに向かった。



 「美冬の試験結果はどうだったの?

楽勝とはいえ、緊張しなかったかしら?」


浴槽の中で、南さんが尋ねてくる。


「問題ないみたいです。

全体でも9割以上は取れていると言ってました」


「まあ、そうよね。

最後の模試では全国で50番以内だったみたいだし」


「『ダンジョンでの戦闘に比べたら、何て事は無いよ』と笑ってましたね」


「でも、さすがに少し疲れたみたいね。

もう寝ているのでしょう?」


百合さんが、背後から俺を抱き締めながらそう言ってくる。


「睡眠は彼女の楽しみでもありますから。

お金に苦労していた時、お腹が空くと、睡眠でごまかしていたようですし・・」


「・・切ない話ね。

共学なら、幾らでも男が貢いだでしょうに」


「南さんと違って美冬は義理堅いから、そういうの嫌なんですよ」


「失礼ね。

私だって、高価な貢物みつぎものをしてきた男達には、微笑みくらいあげたわよ?」


「・・・」


「そのほとんどは質屋に売り払ってましたけどね」


百合さんが呆れたように口にする。


「仕方ないでしょ。

部屋に置いたままだと、場所を取って邪魔でしかなかったのだから。

頼みもしないのに、自己満足で贈ってくる方が悪いのよ」


「・・百合さんは、そういう経験なかったのですか?

絶対にモテたはずですが」


「百合はもっと酷い事してたわよ?

彼女は同性からのお菓子の差し入れが凄く多かったけど、家に持ち帰るなり全部捨ててたし・・」


「・・・」


「・・手作りの品だと、何が入ってるか分らないじゃないですか。

市販の物は、南と2人でちゃんと食べましたよ?」


「お陰でお菓子には困らなかったわね」


「和馬君だって、大分持てたでしょう?

イケメンで凄いお金持ち、おまけに文武両道なんて、漫画の中にもそういませんよ?」


「僕はボッチだったから、学校では陸に会話もしなかったので・・。

バレンタインデーの日は、中学時代はズル休みしてましたしね」


「どうして?」


「女子がウザ・・何かやたらと態度が大きかったのです。

チョコレートをあげる側だからかもしれませんが、見ていて気持ちの良いものではなかったので。

男達も、妙にそわそわして見苦しい感じだったし」


「結果オーライね。

和馬に変な虫が付かなくて良かったわ」


「じゃあずっと右手が恋人だったのですね。

ティッシュの減りが早くて困ったでしょう?」


「あのですね、僕は紳士なので、お二人のように毎晩致していないのです。

そんな事をするくらいなら、身体を鍛えてましたから」


「嘘よ。

1回であれだけの量を出しながら、ほぼ無尽蔵なんだし、毎日抜かないと持たないでしょ?

それに私達だって、今はそれ程でもないのよ?

和馬がきちんと満足させてくれた日は、何もせずにぐっすり寝れるから」


「僕だって、昔からこうだった訳ではありません。

どうやら『生命力』の数値が関係しているみたいですね」


「ああ、成程ね。

納得した」


「和馬君の生命力は、今どれくらいあるのですか?」


「・・2000万を超えてますね。

ロシアの完全攻略後に倒した魔物の数は数十万にしかなりませんが、相変わらずユニークを全部倒してしまっているので、能力値を上げる品を使わずともこの数字になります」


既に得ている特殊能力しか持たない国内のユニークは、美冬や南さん達に任せるつもりでいたのだが、『子宝』や『若返り』の存在をまだ知らせたくはなかったし、倒す前にいちいち調べるのも面倒なので、全て自分だけで倒している。


美冬には既にその存在を伝えてあるが、4月までは他の皆さんには内緒にしたいしな。


「・・もう完全に人ではないわね」


「そんなの、今更ですよ。

お二人だって、既に病院には掛かれませんよ?」


「必要ないもの。

出産の際には、百合に助産婦の役割を頼むわ」


「しっかり学習してありますよ?

フフフッ」


「・・・」


「そろそろ上がる?

美冬が寝たなら、家に来ない?

偶にはベッドで楽しみたいわ」


「まだ足りないのですか?」


「今日はまだ1回ずつじゃない。

・・週末限定の楽しみなのよ?

もう少し付き合ってよ」


奇麗な笑顔でそう言われたら断れない。


「・・午前4時までなら」


「嬉しい!」



 1月22日、月曜日。


今日は10時から、吉永さんの店で新たに働いて貰う人材の面接がある。


落合さんが2人に絞ってくれているので、それ程時間は掛からない。


指定したホテルのラウンジで、落合さんを同席させた上、時間をずらして彼女達と会う。


1人目は、31歳の独身女性。


名を磯部さんと言い、経験年数は8年弱。


大学を卒業し、中々就職先が決まらなかったため、未経験の分野に飛び込んで苦労を重ねたみたいだ。


大手に就職できたものの、これまで一度も昇給せず、年収は額面で380万を少し超えるくらい。


残業も多いが、それらの対価は、予め給与に含まれているとして全く支払われない。


そのくせ、売り上げが悪いと、化粧品などを半ば強制的に買わされる。


一人暮らしだから、今の給与では満足に預金もできず、何時解雇されるか分らない立場に不安を抱えていた。


彼女の志望動機を聴きながら、【真実の瞳】を用いて感情面と能力値をチェックする。


青い光を放つ彼女の精神力は87。


大学を出てからも、まあそれなりに勉強しているようだ。


「うちで働いていただくに際して最も重要な事は、店主である吉永さんの指示には全面的に従うという事です。

よく考えた上での提案は許可しますが、異を唱える事を許しません。

非合法、理不尽な要求や指図は全くありませんが、指示を守らない、約束や規則を違える事は即解雇に繋がる可能性があります。

勿論、秘密厳守は言うまでもない事です。

逆に、これらの点さえきちんと守ってくだされば、年収1000万、週休2日を保証致します。

残業は一切無し、有給、厚生年金もあります。

因みに、僕は向上心の無い方は嫌いです。

やっていく自信がお有りですか?」


相手の眼を見てそう尋ねる。


「有ります。

精一杯頑張ります。

必要な勉強も欠かしません。

ですから、どうかお願い致します」


「最後に1つ質問致します。

あなたは、探索者をどう思いますか?」


「・・自分の可能性を試せる、凄い職業だと思います。

残念ながら、私は能力が足りなくて、一度足を踏み入れただけで諦めてしまいましたが・・。

今思うと、若い時に精一杯の努力をしてこなかった事が、私の未来を閉ざしている気が致します」


「磯部さん、あなたを採用致します。

今のお気持ちを忘れる事なく、吉永さんを支えてください」


「有り難うございます!

・・とても嬉しいです。

今度こそ、精一杯頑張りますから・・」


少し涙ぐんでいる彼女を見送り、落合さんと珈琲を楽しむ。


「相変わらずですね。

アメとムチの使い方が絶妙です。

和馬様の容姿であれだけの待遇を示されれば、大抵の女性は一ころですよ」


「1000万なんて、そう大した額ではないですよ。

今までが低過ぎたのです」


「株で集めた会社のお金ではなく、個人の懐から出す金額としては、それでも十分ですよ。

どんなにお金を持っていても、ケチな人はケチなままですから」


「久保さんをチーフに引き上げて、年収を1500万にしましょう。

もう1人の方もほぼ採用ですから、4人になりますしね。

彼女に教育を担当していただきます」


「やはりそうなりますか。

次の方はかなりお勧めなので、和馬様が採用しないはずはないと考えておりました」


「履歴書を見る限り、どうしてうちを選んだのか分らないほど優秀ですからね。

緒方さんでしたか?

新卒ですから4月からになりますね。

しかも慶応の薬学部。

不思議ですね」


「2月の国家試験は受けるみたいですからね。

彼女の成績なら、薬剤師にすらなれますよ」


「この方、何と言って応募してこられたのですか?」


「美容に興味があるそうです。

香油とかアロマにもチャレンジしたいと仰っていました。

初めは趣味だったらしいのですが、今では薬よりもこちらの方を専門に学びたいと・・。

写真でも分る通り、中々の美人さんですよ」


「磯部さんといい、落合さんが選ぶ方は、美人さんばかりですね」


「エステの従業員としては、容姿も大切な要素なのです。

和馬様には吉永さんしか施術なさいませんから、要らぬ争いも起きないでしょう」


この後、その緒方さんと面接し、喜んで受け入れた。


条件は磯部さんと同じで、アロマなどの開発に、年500万円の予算も付けた。

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