第84話

 1月5日、金曜日。


到頭、ブラジルでの宝箱回収作業が終わった。


ユニーク総数68、金箱1847、銀箱約1万8000個。


茶色の宝箱、約5900は放置。


この国のユニークは、『鍵』の守護者を除けば、規定数以上のパーティー編成によって発生したらしい魔物が多かった。


そのユニークと金箱からは、『幸運』7『金運』12『良縁』3『開運』11『一攫千金』2『自己回復(A)』6『状態異常無効』4『毒耐性(S)』7『子宝』5『略奪』1『結界』3『隠密』2『破魔』4『加速』1『地均し』2の特殊能力と、『治癒』2『浄化』1『光弾』2『照明』7『着火』9『火球』2『給水』6『造形』15『樹木再生』9『鎌鼬』1『魅了』1『沈黙』3『金縛り』1『解除』1の魔法を得られた。


種類数が異常な日本を除けば、多彩なアイテムを得られた方だと思う。


『子宝』と『略奪』は、入手後、直ぐにポイントに替えてしまった。


それ以外は、Sランクの斧とメイス、ワンド、胸当て3つを除いて、全て何れかの能力値を上げる品々だった。


銀箱の9割は貴金属のインゴットと宝石類で、残りの1割がAかBランクの装備品。


この国で狩った魔物の総数は、進路上に居た物を含めて約7万体だ。


全体の数パーセントと言った所だろう。


予定より数日早く終了できたので、まだ15時くらいだが、日本に戻って秋田の攻略を始めた。


秋田県のダンジョン入り口数は、合計148個。


金箱がある重点探索地域は、愛宕神社、白山神社、赤神神社玉社堂、白瀑神社、真山神社、大龍寺、多宝院、唐松神社、大平山三吉神社、正乗寺、大日霊貴神社、抱返神社、田沢湖辺りの計13箇所。


ユニークは、真山神社辺りに居る物だけだ。


先ずはそのユニークを倒しに行くと、俗に言う『なまはげ』のような魔物だった。


これまでと違うのは、このユニークは5体でワンセットだという事だ。


倒し終えた時、15センチの魔宝石5つと『勤労化』のアイテム4つを残し、何かが体内に入り込んで来る。


確認すると、案の定、『強制支配・改』の中に『勤労化』の特殊能力が備わっていた。


説明には、『怠惰な存在を実直な勤労者へと変える。但し、術者の主観ではなく、客観的にそれに該当しないと発動しない』とある。


非常に良い能力を貰った。


理沙さんは必ず欲しがるだろう。


気を良くして、金箱も全て開ける。


『子宝』『開運』『給水』の3つ以外は、全て能力値の何れか1つを上げる品だった。


20個の銀箱と、48個の茶箱は放置。


ここを本格的に攻略して貰う、南さん達に任せる。


ここで倒した魔物は、金箱の回収に邪魔だった1200体くらいだから、これら全ての作業に1時間程度しか要しなかった。


う~ん、まだ16時半にもなってないか。


仕方がない。


次の攻略地へと進むか。


今度のターゲットは、国ではなく、丸々1つの大陸だ。


アフリカ大陸。


恐らく、魔物の平均レベルが最も高い場所。


ダンジョン初期の頃には数億人、今でも毎年数百万の人がここで命を落としているのだから。


教育レベルも軒並み低いから、民主制を採っていながら独裁者による長期政権が多い。


人の命なんて、バナナ1本の価値もない場所さえ存在する。


それだけ、出生率が無駄に多いからだ。


育てられもしない子供達を、猿みたいに生み続ける者もいる。


幾ら性行為しか娯楽がないとはいえ、もう少し加減できないものか。


先進国による援助にだって、限度というものがあるのにそろそろ気付いて欲しい。


その内、愚かな為政者達によって、大陸の何割かが中国の植民地にでもなりそうで怖い。


彼らの援助の申し出に、どんな裏があるのかよく考えろと言いたい。


『水の住人』を用いて、海路でアフリカ大陸へ。


突き当たった場所から上陸して、最寄りの入り口からダンジョンに入る。


アフリカ大陸全体のダンジョン入り口数は、合計38万6879個。


ロシアの倍近くあるので、かなりの長期戦が予想される。


ここも、ユニークと金銀の宝箱のみに専念し、茶箱は基本的に無視。


この大陸が終われば大分楽になると自分に言い聞かせ、地道な作業を開始した。



 1月8日、月曜日、午前10時。


ダンジョンに入るべく、仁科さんと落合さんが自宅にやって来る。


珈琲を出し、各能力値を上げる品々を食べて貰いながら、少し話をする。


「和馬様、先日、ダンジョン内で廃屋群のような場所を見つけたのですが、ダンジョンには人工的な建造物は一切ないと聞き及んでおります。

木造でしたから、誰かが『造形』を使用したとも思えませんし、一体どういう事でしょう?」


仁科さんが質問してくる。


「ああ、それらは多分、元から在る物ですね。

紛らわしいのですが、『人工的な建造物は一切ない』という表現は、『通常の世界ではその場所にあるはずの建造物がない』という意味で使われております。

例えば、ダンジョン内の渋谷に該当する地域を歩いても、駅やビル群が存在しないという意味ですね」


「成程、そういう意味でしたか。

確かに紛らわしいですね」


「なので、ユニークが居る場所などには普通に建造物が建っています。

欧州などでは古城も多数あるそうですし、中国にも沢山の朽ちた寺院や廃墟が存在しました。

ただ、金属製の建造物は、これまで全く目撃されておりません。

その全てが木造か巨石を積み上げた物、若しくはレンガなどの土製です。

僕も世界中を探索していますが、金属製の建造物を目にした事はありませんね」


話しながら、2人が今日分のアイテムを全部食べ終えた事を確認する。


「もしかして、まだ食べられそうですか?」


この2人は、エミリアを除けば、仲間内では最も能力値が低い。


仲間に加わる時期が少し遅かったので、ダンジョンに入った回数が他の皆より少ないから、それは仕方がない。


なので、各能力値が1万を超えるまでは、優先してアイテムを食べて貰っている。


因みに、ブラジルの攻略が済んだ後、いつものようにアイテムを分配しようとしたが、考えを改めて、各自に必要と思われる物だけを分ける事にした。


ゲームのように、皆のステータス画面を特殊能力や魔法で埋め尽くしても、それらを一度も使用しないのであれば、意味がない。


寧ろ、画面が見辛くなるだけだ。


だから今後は、その人に必要と思われるアイテムだけを食べて貰う事にした。


皆を集めてそう説明した時、誰からも反対意見が出なかったしな。


よって今回、皆に分配したアイテムは以下の通り。


美冬には、『鎌鼬』と『沈黙』のみ。


理沙さんには『金運』5つと『勤労化』、美保さんには『開運』5つと『火球』、Sランクの胸当てを。


これで理沙さんの『金運』と、美保さんの『開運』はMAXに。


南さんには『金運』7つと『加速』に『学問成就』、Sランクの胸当て、百合さんには『開運』5つと『勤労化』、『破魔』を。


南さんの『金運』と、百合さんの『開運』もMAXになる。


吉永さんには『金運』3つと『開運』3つ、『学問成就』に『金縛り』と『沈黙』、Sランクの胸当て。


仁科さんには『良縁』3つと『開運』3つ、『火球』に『破魔』、落合さんには『開運』4つと『破魔』に『光弾』、『火球』、『沈黙』を。


仁科さんは『良縁』と『開運』もMAXになり、落合さんも『金運』に続いて『開運』がMAXになった。


エミリアには、『炎耐性(S)』と『氷耐性(S)』、『結界』に『隠密』、『治癒』、『給水』、『造形』、『光弾』、『着火』を渡した。


各能力値を上げる品は、其々がダンジョンに入る日に食べて貰う。


「あと少しなら」


「私もです」


「では更に、生命力の上昇以外の4つを食べてください。

そうすれば、今回か、遅くとも次回には、身体の改変が始まるでしょう」


「嬉しいです。

やっと私達も、皆さんと同じ立場に立てるのですね」


「和馬様、吉永さんの助手を、あと1人増やした方が宜しいのではないでしょうか?

お二人だけですと週に一度しか休めませんし、久保さんに何かあった時、お店に支障が出ると思いますが・・」


「そうですね。

吉永さんと相談した上で、もう1人増やしましょう。

人選をお願いできますか?」


「はい、勿論です。

取り敢えず2名に絞って探してみます。

その後で、和馬様にどちらかをお選びいただく形に致しますね」


「・・ところで、珈琲のお代わり、如何ですか?

飲み物なしではお辛いでしょう?」


「・・頂きます」


「私もお願い致します」



 2人を京都に送り、自分はアフリカへ。


もうそろそろ、仁科さん達にも専用の県を割り当てよう。


さっさと日本全土の攻略を済ませたいし、彼女達にも宝箱を開けさせてあげたい。


考え事をしながらも、最早身体に刷り込まれた動きによって、次々に宝箱を回収していく。


意外な事に、アフリカには、ユニークの数がそれ程多くは存在しない。


ざっと見た限りでは、大陸全土でせいぜい80体くらいか。


面積はロシアの倍近いのに、ユニークはその半分以下しかいない。


元々のユニークの他に、規定数を大幅に超えたパーティーによって生み出された魔物の数が少ないのだろう。


その理由は、なんとなく想像がつく。


この大陸では、探索者協会が十分に機能していないのだ。


ほとんどの子供が、少年少女が、探索者登録すらする事なしにダンジョンに入り、その日の内に命を散らしていく。


登録料が払えないからだ。


口減らしの意味を兼ねた探索に、彼らの親達が、なけなしの金を払うはずもない。


当然、協会の講習も受けられないから、貧しい子供達はダンジョンがどれ程危険な場所かも知らずに、武器も持たずに単独で入って行く。


スラムの子供達がする、ごみ拾いのような感覚なのだろう。


同じアフリカでも、比較的裕福な国の子供はこの限りではないが、世界中でも最下層に入る国々の子供達は、その9割が大人になれないとさえ言われている。


こうなると、最早自国の産業だけでは国が成り立たず、アメリカと中国、ロシアの対立を上手く利用して、援助を強請ねだるしかなくなる。


そして、アメリカはともかく、中国の援助を受けようものなら、陸な成果も得られずに借金だけが膨らんで、主要な港を100年という長きに亘って借金の形に押さえられてしまうのだ。


俺がアフリカで宝箱の回収を急ぐのも、自国に金銀の宝箱が見当たらない中国が、遠からずここまで足を延ばして来ると確信しているからでもある。


なので、できればアフリカでは茶箱まで回収したいのだが、この後も各国の金箱を全て回収するつもりの俺には、それだけの時間がない。


一体どうしたものか。

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