第76話

 12月10日、日曜日。


早朝6時、到頭オーストラリアの攻略を終える。


かなり頑張ったので、予定より5日程早い。


既に回収していたユニークからのドロップ品や金箱のアイテムに加え、約1万7000の銀箱の中身を全て取り終えた事で満足し、約3500個の茶色の宝箱は放置。


ユニークかつ『異界の扉の鍵』を護る6体のロックイーターからは、30センチの魔宝石と、荒れた大地も肥沃な土地へと変える『耕作』の特殊能力を得られ、その他、金箱の物を合わせると、『金運』『開運』『幸運』の3つが5個ずつ、『良縁』2つ、『造形』が10、『放水』が3、『子宝』2、『落雷』1、『給水』と『照明』を3つずつ得られた。


『アイテムボックス』と『地図作成』、『ダンジョン内転移』の効果を1段階上げる品も、其々1つずつ入手した。


装備品は、Sランクの長剣が2本と、斧、槍が1つずつ、同じくSランクの胸当てと籠手、盾が2つずつ手に入る。


残りは全て、各能力値の何れか1つを上げる品だった。


午前9時、自宅にお仲間の皆さんを集め、戦利品を含めたアイテムの分配を始める。


理沙さんには、『地図作成』の効果を1段階上げる品と、Sランクの胸当て、『良縁』を3つ。


美保さんにはSランクの籠手と『放水』、『金運』を5つ。


南さんへはSランクの長剣と盾を。


百合さんにはSランクの槍と『造形』、『金運』と『開運』を2つずつ。


吉永さんにはSランクの斧と、『アイテムボックス』の効果を1段階上げる品を。


仁科さんには『耕作』と『雷魔法』の『落雷』、『良縁』と『開運』を3つずつ。


落合さんには『耕作』と『造形』、『放水』、それに加えて『良縁』と『開運』を3つずつ。


美冬には、其々Sランクの長剣と盾、胸当て、籠手に加え、『耕作』を。


『子宝』はポイントに替え、『ダンジョン内転移』を1段階上げる品はストックしておく。


各能力値を上げる品は、皆がダンジョンに入る前に毎回食べて貰う事にしたので、ここでは出さない。


前回のように、1人で20個近くアイテムを食べさせられる事がなくなり、皆の顔に安堵の表情が浮かんでいる。


全員が食べ終えた後、お茶を飲みながら30分くらい談笑し、この日がダンジョン攻略日である南さん達を除き、他の皆さんが自宅や職場に帰って行く。


着替えた南さん達を福島に送り、美冬と2人で昼食を取った後、俺は次の攻略地として定めたブラジルへと向かった。



 ブラジルにあるダンジョン入り口数は、全部で10万8481個。


アメリカの端から『水の住人』を用いて海路でペルーに渡り、そこでダンジョンに入って、そのまま陸路でブラジルに潜入する。


ここも最初はユニークと金箱のみに専念し、『ダンジョン内転移』が存在するかどうかを見極める。


日本との時差が12時間くらいあるから、こちらは今、真夜中だ。


いつものように、頭に黒いマスクだけを被って、探索を開始した。



 12月11日、月曜日、午前2時。


美冬を新潟まで迎えに行き、その後、共に風呂に入る。


ダンジョンから戻る際、一旦外に出て、美冬が所有する20万坪の土地に『耕作』を使ったら、10分もしないで肥沃な農地が出来上がった。


予めごみや岩を取り除いてあったにしても、これなら十分、先が見通せる。


結果に満足して帰宅し、浴槽に湯を溜める間に2人とも歯を磨いて、脱衣所でお互いに服を脱ぐ。


若い女性がパンティーを脱ぎ去る姿に言い様のない美を感じる俺は、いつもそこだけは視線を向けるので、一緒に入る皆から毎回苦笑いされる。


脱ぐために俯かせる顔や、折り曲げる腰と脚の角度、下着と素肌のコントラストに芸術性を感じるのだが、そう説明しても、吉永さんと仁科さん、落合さん以外には理解されない。


美保さんにはやたら挑発的な動作をされてからかわれ、南さんは凝った下着で以て濡れたような視線を向けてくるし、美冬からは端的に『エッチ』と言われて微笑まれる。


百合さんになんか、『そんなに気になるのでしたら、脱がせても良いですよ?』と口にされる。


分ってない。


自分で脱がせては、あの美しさが出ないのだ。


・・まあ良い。


並んでシャワーを浴び、肌寒くなってきたから、身体を洗う前に一旦湯に浸かる。


直ぐ様、美冬が膝の上にまたがってくる。


「ん・・んんっ・・ん」


挨拶代わりのキスなのに、たっぷりと2分以上、唇と舌でなぶられる。


「今日は2400体くらいは倒したかな。

攻略し始めだと、やっぱり魔物が多い」


「1時間に400体くらいだな。

盾を使わなければ、もう少し稼げるんじゃないか?」


「そうだね。

二刀流で進めた方が良いみたい。

盾が無くても、相手の攻撃に傷つく事がなくなってきたし・・」


「各能力値が既に4万を超えてるな。

来年までには5万くらいまでいきそうだ」


美冬のステータスを見ながら、感慨にふける。


「毎回のようにアイテムを食べさせて貰ってるしね。

最近は力加減の調節が、かなり上手くなってきたよ。

もう鉛筆を使っても折れないし」


「・・南さん達の事があるから、美冬が高校を卒業したら、なるべく早く籍を入れたい。

俺と結婚してくれるか?」


「今更何を言ってるの?

そんなの当たり前でしょ。

寧ろ、そうしてくれなかったら、最早誰も信じられなくなるよ」


美冬が、じっと俺の瞳を覗いてくる。


「私と結婚して。

和馬を愛しているの。

もし嫌われたら、この世界を壊したくなるくらいにね」


いつもほがらかに笑っている彼女からは想像できない程の、真剣な顔。


「聴くまでもないだろ。

美冬に振られたら、俺はこの世の男を全員殺してしまうかもしれない」


お互いにじっと見つめ合う。


「・・フフフッ、私達、似た者同士だね。

お互いに対する執着心が普通じゃない。

どちらが欠けても、既に世界が成り立たないよ」


いつもの様子に戻った美冬が、可笑おかしげに笑う。


「結婚指輪をそろそろ作らせようと考えている。

手持ちのピンクダイヤの塊から極上の物を選んで、リングに仕立てて貰うつもりだ。

もし他の宝石が良ければそう言ってくれ」


「凄く勿体無さそう。

折角のダイヤを削るんでしょ?」


「捨てる程持っているから問題ない」


「ちゃんとお仲間さん全員に、希望するリングをあげてね?」


「彼女達が俺との婚姻を望むなら、そうするよ」


「それで、私に対する隠し事が一体何なのか、まだ教えてはくれないの?」


「・・美冬を抱く時にでも話そうと考えていた」


「どうして?」


「それに関連する事だからだ」


「・・もしかして、和馬って種なしなの?

私は別にそれでも構わないよ?

子供ができたら久遠寺姓を名乗らせるけど、どうしても欲しい訳じゃないし。

2人きりの生活だって、今と同じできっと最後まで楽しいよ」


美冬の、両胸の先端を軽くつねる。


「んっ」


悩まし気な吐息を吐く彼女に、きちんと反論する。


「ち・が・う」


「じゃあ何なの!?」


お返しとばかりに、俺のシンボルを握ってくる。


「高校を卒業するまでは、絶対に他言無用だぞ?」


「うん、分った」


「俺の特殊能力に、『子宝』と『若返り』というものがある。

『子宝』を使えば、中に出すと確実に孕む。

この能力はオンとオフが選べて、普段はオフにしているから、仮に女性を抱いたとしても、絶対に妊娠しない。

そして『若返り』は、女性のちつに射精した回数に応じて、その相手の肉体年齢を1つずつ下げていく」


「!!!」


「尤も、決して18歳未満にはならないらしいがな。

この能力は、『子宝』をオフにしている時にしか発動しない。

つまり、理沙さんや美保さんを若返らせる場合には、彼女達に子供は産まれない」


「・・凄い能力だね。

他の女性に知られたら、きっと美人は皆、どうにかして和馬に抱かれようとするだろうね。

18歳まで若返るなんて、まるで夢物語だよ」


「俺はまだ、自分の子供を欲しいとは思わない。

やりたい事、やるべき事が沢山あるし、生まれた子供にきちんと責任を持てるようになるまでには、まだまだ時間が掛かる。

だから美冬を抱く際には、常に『若返り』を使おうと考えていたんだ」


「そっか。

早く言ってくれれば良かったのに。

そんな事、私全然気にしないよ?」


にっこり笑ってそう言ってくれる美冬を、強く抱き締める。


「1つ疑問があるんだけど」


自身も俺をしっかりと抱き締めながら、言葉を紡ぐ。


「その『若返り』は、何度でも有効に作用するの?

40歳の人が一度18歳まで若返って、それから20年経って38になった時、『若返り』を再度用いれば、再び18歳まで若返るのかな?

もしそれが可能なら、不老不死とほとんど変わらないよね?」


「可能みたいだな」


「・・それは絶対にお仲間さん以外には話せないね」


「もう1つ、美冬に言わねばならない事があるんだ」


「どんな事?」


「俺の寿命は、『不老長寿』という特殊能力のお陰で、現在5000万年まで伸びている」


「・・マジですか?」


「マジです」


「私も(その寿命に)付き合った方が良いですか?」


「勿論です。

というか、『若返り』で半ば強制的に付き合って貰う」


「それだと、子供を作るなんて話が出る幕ではないね。

幾ら産んでも、必ず子供達が先に死んじゃう」


「そういう事だな」


「・・長い旅になりそうだね」


「どうか宜しくお願いします」


「こちらこそ。

正直に話してくれて有り難う」


抱擁を解くと、俺達はしっかりと唇を重ね合わせた。

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