第70話

 11月5日、日曜日。


「ねえ和馬、今度、ダンジョン内で紅葉狩りしない?

お仲間の皆さんを誘ってさ。

序でに温泉があれば言う事ないけど」


「以前買った箱根の温泉では駄目なのですか?」


「・・あそこは後で使い道があるからね。

紅葉を眺めながら露天に入りたいから、ダンジョン内が良いわ」


「分りました。

それ用の場所を探して準備しておきます」


「宜しくね。

今夜も一杯愛してあげるから」


「・・いえ、それは別に。

昨日も美冬に呆れられましたから」


2時間半も浴室から出て来ない俺達に、『今夜は私とも入るのに、大丈夫なの?』と心配された。


「和馬がさっさとあのを抱かないから悪いのよ。

いつまでもその一歩手前で焦らされているから、不完全燃焼で長引くのは仕方がないの」


「・・南さんも、あまり僕を煽らないでくださいね?

このままだと、初めてあなたとそうなった時、抑えが効かなくて壊してしまうかもしれませんよ?」


そう言って、にっこりと微笑む。


「ふん、やれるものならやってみなさいよ。

百合と2人で受けて立つわ」


「僕はね、2、3週間くらいなら、一睡もしなくても平気なんですよ。

おまけに、どうやら(精液が)無尽蔵らしくて、その間何度でもできます。

僕のは、あなた方のたおやかな指先とは違います。

本当に、どうなっても知りませんよ?」


「・・お、脅しても駄目だからね。

2人で無理なら、お仲間さん全員で戦うし、有給だって使い切るわ」


「和馬君、そのくらいで勘弁してあげて。

南だって、一生懸命我慢しているのよ?

君とお風呂を共にした夜は、いつもより激しいんだから」


えっ、あの後、更にしているのですか!?


「済みません。

冗談が過ぎましたね。

無尽蔵なのは本当ですが、僕には大切な女性を傷つける事なんてできませんから」


「因みに、私になら、何をしても構わないですよ?

それこそ、壊れるまでお相手します」


「・・・」


いや、そんな奇麗な笑顔でそう言われても・・。


「話が逸れたけど、紅葉狩りの件、お願いね。

さ、今日もダンジョンで頑張りましょ」


2人を岩手まで送り、自分はアメリカへ。


昨夜も遅くまで長野を攻略していた美冬は、11時半になってもまだ寝ていた。



 アメリカで宝箱の回収に励んでいた時、中国の美鈴から呼び出しが掛かる。


眷族達は、摂取行為をしなくても、最初から俺と念話ができる。


尤も、今の所は言葉を話さない彼女達は、用があると無言の圧で意思表示してくるだけなのだが。


どうやら緊急みたいなので現地に急ぐと、彼女の側に、女性3人が倒れている。


数箇所から血を流し、今にも死にそうなも居た。


恐らく魔物にやられたのだろう。


直ぐに『治癒』を施し、何とか一命を取り留める。


知らせてくれた美鈴に、ご褒美の桃饅頭を3個渡すと、にっこりと微笑んで仕事に戻って行った。


その間に、意識が朦朧もうろうとしていた彼女達が起き上がる。


皆が何かを言ってくるが、中国語を学んでいない俺には、その内容が理解できない。


翻訳機を取り出して、『出口まで送りますか?』と尋ねたら、一斉に頷いた。


3人居て、両脇に抱える事もできないから、彼女達と固まって歩く。


出口までの10キロの間に、5000円クラスの魔物の集団に三度襲われたが、俺1人で瞬殺し、このかん、『戦利品の自動回収』をオフにしていたから、そこで得た魔宝石と、ドロップ品の長剣2本と槍を、彼女達に渡した。


信じられない顔で俺を見る3人に、出口の側で『では、さようなら』と翻訳機で伝える。


何度も頭を下げられ、彼女達が外に出て行く。


それを見送ると、またアメリカに戻った。



 「あんな人も居るのね」


通常の世界に戻ってほっと一息吐くと、私は仲間に話しかける。


「ほんとラッキーだったよね。

運悪く強い魔物に追い掛けられて、かなり遠くまで逃げた上で襲われたもんね。

あのと彼に出会わなかったら、間違いなく全員死んでたし・・」


「魔宝石だけじゃなく、装備品までくれたもんね。

この槍、買えば15万元はするでしょ?」


「ええ。

3つで50万元以上するのは確かよ。

第一、今ではお店でもほぼ手に入らないし」


「彼さ、どうしてマスクを被っていたのかな?

中国人じゃないから?」


「さあ?

でも、そんな事はどうでも良いでしょ?

私達の大恩人なんだから」


「そうだよね。

数十の魔物に三度も襲われた時は、もう絶対に駄目だと思ったよ」


「たった1人で瞬殺しちゃったものね。

せめてお名前だけでも聴いておきたかったな」


「・・ダンジョンで頑張っていれば、その内また会えるかな?」


「可能性はあるわ。

だから、今後はより慎重に頑張りましょう。

生き残って強くなれれば、きっとまた何処かで会える」


「そうだね。

また3人で頑張っていこう」


「彼への手掛かりはあるのだもの。

治癒魔法の使い手なんて、世界中にそう何人も居ないでしょ」



 11月7日、火曜日。


この日が誕生日である仁科さんの為に、松濤のレストランの個室を予約し、彼女はお酒が好きだから、赤白で10本以上のワインを開ける。


毎月のようにこうしてお仲間の皆さんと食事をするから、彼女達もすっかりこの店に馴染んだ。


因みに、誕生日プレゼントを用意するのは当人に土地を配る俺だけで、他の皆さんは一切渡さない。


大勢の人から毎年品物を貰っても、その内置き場所に困るし、今の彼女達に買えない物は少ないから、欲しい物は自分で買う方が効率的だ。


なので、皆で話し合って、そう決めたらしい。


2時間半に及ぶ食事が済むと、俺だけが仁科さんの家に招かれる。


誕生日の夜だけは、その人と俺の2人だけ、若しくはそのパートナーを加えた3人のみで過ごすよう、お仲間の皆さんだけで決めてしまった。


美冬がそれで良いと言うので、俺としても文句はない。


家に着くと、仁科さんが抱き付いてきて、長いキスを交わす。


浴槽に湯を張る間、盛装を脱ぎ、俺の衣装も吊るしてくれる。


片手に小さなペットボトルを持った彼女に手を引かれて浴室に赴くと、そこからは彼女の好きなようにさせる。


いつもは落合さんと3人で入っているので、何だか新鮮だ。


俺の手首を摑んで、自身の触れて欲しい場所に誘導しながら、彼女自体はひたすら俺を攻めてくる。


彼女を満足させつつ二度ほど摂取されたら、ゆっくりと湯に浸かり、素肌にバスローブを羽織って珈琲を飲みながら雑談する。


その後、仁科さんの希望で、お互いに何も身に付けずに、同じベッドで抱き合って眠りに就いた。



 11月11日、土曜日。


南さん達を岩手に送ってから向かったアメリカで、ついにユニークの全討伐と、金銀の宝箱の全回収を終える。


倒したユニークは総勢102体。


回収した宝箱は、金色が2396、銀色が約2万8000、茶色はこれらの側にあった約2000のみで、未回収の物が約4500ある。


倒した魔物の数は、約9万体だった。


『異界の扉を開く鍵の1つ』である『聖書』は全部で8冊あり、全て揃った時、地図上のアメリカのとある場所に、聖書の印が現れた。


ユニークから得た特殊能力は、黒鳥の『飛行』8個の他、『状態異常無効』と『自己回復(S)』が4つずつ、『毒耐性(S)』と『魔法耐性(S)』、『破魔』と『結界』が5個ずつ、『炎耐性(S)』4、『生命力増加』『隠密』『遊泳』『一攫千金』『人材育成』『加速』が其々2つずつだった。


この他、魔法で『治癒』と『浄化』、『光弾』が4つずつ、『照明』5、『属性付与』3、『造形』4、『鎌鼬』3、『ハリケーン』2、『着火』6、『消火』2、『火球』3、『給水』4、『沈黙』1、『金縛り』2、『解除』3つが手に入った。


『光魔法』の割合が多いのは、宗教が絡んだ国だからか。


金色の宝箱からは、『幸運』6、『金運』38、『良縁』9、『開運』15、『子宝』12、『学問成就』21、『若返り』2、『処女の血』3、『洗脳』7、『指導者』4の他、SSランクの銃が2丁(弾丸なしで撃てる)、Sランクの斧が3つ出現し、『アイテムボックス』、『地図作成』、『転移』を1ランク上にするアイテムが2つずつ手に入り、残りは全て各能力値を上げる品が出た。


『子宝』、『若返り』、『処女の血』は、全部ポイントに替える。


『学問成就』も5つだけ残して、あとはポイントに。


『転移』も既に完成しているから、そのランクアップアイテムをポイントに替えようとしたが、思い直して、念のために持っている事にした。


銀色の宝箱の7割は金塊か宝石類、レアメタルのインゴットで、残りの2割はAかBランクの装備品、あとの1割は美術品の類だった。


茶色からは低ランクの装備品の他、お酒のバーボンの瓶が数千本出たので、装備品は全てポイントに替えたが、バーボンは残しておいた。


夕方6時に南さん達を迎えに行くまで、魔宝石が30万円以上する魔物を数百狩り、彼女達を回収した後は、自宅でアイテムを分配するため、入浴前に『念話』でお仲間の皆さんに連絡をつけた。


美冬にも、『今夜の夕食は9人分お願いします』と伝えておく。


浴室で、南さん達にアメリカ攻略が済んだ事を伝えたら、『じゃあ是非お祝いしないとね』と告げられて、計4回も摂取された。


2時間半に及ぶ風呂から上がると、既に皆が揃っていて、数人からにっこりと微笑まれる。


敢えて気にしないようにして、食事の前に、皆に其々のアイテムを食べて貰った。


美冬には、『アイテムボックス』と『地図作成』のランクを上げる品を1つずつと、『加速』『洗脳』『破魔』『幸運』『一攫千金』『属性付与』『ハリケーン』『消火』『金縛り』『学問成就』を渡し、更に『金運』『良縁』『開運』を9個ずつ食べて貰う。


そのせいで、彼女は夕食を取る事ができず、少し呆れられた。


だがこれで、彼女の『金運』『良縁』『開運』はMAXになったから一安心。


南さんには、『アイテムボックス』のランクを上げる品を1つと、『飛行』『破魔』『洗脳』『生命力増加』『光弾』『幸運』を渡し、『金運』『良縁』『開運』を其々2つずつ食べて貰った。


彼女も夕食の量が半分に減った。


百合さんには、『地図作成』のランクを上げる品が1つと、『幸運』『飛行』『洗脳』『照明』『解除』を渡し、『金運』『良縁』『開運』をやはり2つずつ食べて貰う。


だが彼女は、夕食の量がいつもとあまり変わらなかった。


吉永さんへは、『生命力増加』と『破魔』、『加速』『幸運』『光弾』『照明』『造形』『火球』『解除』を渡し、更に『金運』『良縁』『開運』も1つずつ食べて貰う。


美冬同様、1人で探索している吉永さんには、戦闘に役立つ物を優先する。


彼女は、夕食に2品だけを選んだ。


仁科さんには、『飛行』と『隠密』、『遊泳』『幸運』『学問成就』『治癒』『浄化』『照明』『解除』を渡し、『金運』7個と、『良縁』『開運』を1つずつ食べて貰う。


これで『金運』がMAXになり、不動産の買い付けでも大きな効果を発揮するだろう。


彼女も夕食に手を付けなかった。


落合さんへは、『飛行』と『遊泳』、『隠密』と『学問成就』、『洗脳』『幸運』『治癒』『浄化』『鎌鼬』『着火』『給水』『解除』を渡し、この他に『金運』7、『良縁』1つを頑張って食べて貰った。


彼女もこれで『金運』がMAXになり、俺の秘書として様々な人物と接する内に、投資や援助に有効な人材を見つけ出すだろう。


やはり落合さんも、美冬が作った夕食には手が付けられなかった。


1つ1つのアイテムの大きさは通常の洋菓子程度でしかないが、甘い物が余程好きでないと、胃にもたれるのかもしれない。


理沙さんには、『飛行』と『破魔』、『浄化』と『照明』、『造形』『火球』『解除』を渡し、『金運』4個と、『良縁』と『開運』を3つずつ食べて貰った。


理沙さんの『幸運・改』には、未だドロップ率が2倍になる『幸運』が含まれていないので、ステータス画面で確認すると、その表示の幸運の文字だけが暗い。


でも、そこに収容された他の能力は問題なく作用するので、『金運』『良縁』『開運』を全て5段階まで引き上げた。


彼女も夕食はほとんど食べられなくて、皆さんの給仕に徹して珈琲やお茶を注ぎ足し回っていた俺に向かって、呆れるように溜息をいた。


美保さんに渡したのは、『飛行』と『結界』、『幸運』と『破魔』、『治癒』『浄化』『光弾』『給水』『鎌鼬』『解除』の10個で、その他にも『金運』と『開運』を4つずつ、『良縁』を1つ食べて貰う。


『和馬君さ、こんなに沢山のお菓子を一度に女性に食べさせるのだから、ちゃんと責任取ってくれるんだよね?

水曜日、期待してるよ?』


珈琲のお代わりをした際に、彼女は妖しげな眼をして、カップに注ぎ足す俺にそう告げた。


要は、探索後のお風呂で、今日の分をしっかりと燃焼させろと言っているのだろう。


曖昧に微笑むしかなかった。


因みに美保さんも、夕食は一品ひとしなしか食べられなかった。


結果的に、折角美冬が作ってくれた夕食が大量に余り、俺はそれらを全て使い捨ての容器に小分けして収め、アイテムボックス内に終った。


後で大事に食べるつもりだ。


今回の件は、『甘い物は別腹』という言葉を過信し過ぎて夕食前に出した事と、大切な用事は一度に纏めてやってしまいたい俺の性分が悪い方に働いて起きた。


あからさまに文句は言われなかったが、我儘を聞いてくれた皆さんには、『紅葉狩り』できっちりとお礼をしようと思った。

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