第67話

 午後3時、約束通り、美冬と別れて校長室に出向く。


「お邪魔しますね」


「久遠寺様、本日はお越しいただき有り難うございます」


校長と教頭が、席を立って俺に挨拶する。


「早速本題に入りますね。

美冬に案内されて色々見て回ったのですが、どうも前回の寄付金の効果が表れていないようですが?」


「申し訳ありません。

あのような大金を頂きまして、その使い道を考えてはおりますが、どれから手を付けたら良いものか悩んでいるのが現状でございます。

それに、ある程度の蓄えをしたいというのも、正直な気持ちでありまして・・」


「成程。

僕は今日、ここの施設を拝見したり、生徒さんの意見を聴きまして、お二人にご提案しようと考えていたものに修正を加える事に致しました。

先ずお尋ね致しますが、授業中に工事の騒音があると、やはり不味いでしょうか?」


「は?

・・いえ、あまりに大きな音でなければ、授業中は窓を閉め切る事で問題ないかと思います」


「では次に、空いている土地に建物を建てても良いでしょうか?

念のため、都に確認致しましたが、個人の寄付金のみで建てる分には問題ないそうです。

あとは学校側の判断次第だと・・」


「また何かをしていただけるのですか!?

当校と致しましては、大変有難いお話ですが・・」


「新しい校舎を1つ増やそうと考えております。

そこに学食や購買を設け、自販機やイートインスペースも設置したいですね。

図書室も今の3倍は大きくして、蔵書を数倍に増やしたいと思います。

現在の校舎と繋げる作業は、冬期休暇や夏期休暇を利用すれば何とかなるでしょう。

それから、運動部員の為に、シャワー室も作ろうと考えています。

校庭や、殺風景な場所には造園業者を入れ、生徒さん達の目を楽しませたいですね。

勿論、これらの費用は僕が全額負担致しますし、その維持費に、こちらで100年間の財団を設立し、毎年5億円ずつこの学校に寄付を致します。

如何ですか?」


「「・・有り難うございます!!!」」


話を聴いて暫し呆然としていた2人が、揃って頭を下げる。


「金額が多めなのは理由があります。

実は、この学校の制服を、もう1種類増やしたいと思いまして。

今の物は、美冬には地味なのでね。

こちらでイタリアのハイブランドに特注をお願いしたところ、快く承諾していただけました。

毎年一定数購入するため、価格は1着当たり10万円で良いそうです。

夏と冬の2種類だから、生徒さん1人当たり20万円になりますが、それを財団が毎年寄付する金額で負担し、希望する生徒さん全員に無償でお配りしたいと考えております。

ただ、そのデザインだけは、こちらで美冬に似合いそうな物を選びます。

1か月で試作品をご用意していただけるらしいので、美冬の卒業には間に合いますからね。

ここは女子高ですから、イメージアップにも繋がるでしょうし、翌年以降の生徒募集にも大きな効果を齎すでしょう。

導入させていただけますか?」


「勿論です!」


「有り難うございます。

新しく校舎を建てる場所は、そちらにお任せ致します。

その校舎は、皆さんの福利厚生に繋がるものを優先致しますので、授業用の教室は最小限にするつもりです。

それと、その新校舎に取り入れたい施設がありましたら、予算は考えなくても大丈夫ですから、施工業者と話し合って決めてくださって結構です。

食堂や購買、自販機を入れる業者についても、そちらに一任致します。

生徒さん達が気兼ねなく利用できる価格帯であれば、僕は口を出しません。

そこで発生する人件費は、毎年の寄付金で賄ってください。

僕からのご提案はこれで全てですが、何かご質問がございますか?」


「久遠寺様のお心遣いには、唯々感謝する以外にございませんが、しがない公立でしかない我が校に、何故ここまでのご援助を頂けるのでしょうか?

頂けるご援助の総額は、恐らく個人としては、この国における史上最高額になるのではないかと・・」


「前回もお伝えした通り、美冬に楽しい高校生活を送らせてやりたいからです。

それ以外には理由がありませんでしたが、今日ここに来て、生徒さん達と接して、

彼女らにとっても有意義な場所であって欲しいと思うようになりました。

3年間の、人生に一度しかない輝かしい時間。

その期間を、勉学に勤しみ、恩師と語らい、友人達と笑い合う。

そんな楽しい時間にできたら良いと考えました。

僕は中学を卒業後、直ぐに探索者になりましたから、高校には通えておりません。

だから僕の分も、ここの生徒さんに喜んで欲しいのですよ。

美冬の学友としてね」


校長と教頭の2人が、何も言わずに深く頭を下げる。


「数日後、僕の秘書に電話を入れさせます。

今後の詳しいお話は、彼女、落合さんとしてください。

彼女はとても優秀なので、遠慮なく、何でもご相談くださいね。

因みに、来年度から運営を開始する財団の名称は『柊財団』、その理事長は美冬ですから」


2人に校門まで見送られ、呼んで貰ったタクシーで帰る。


余談だが、約1か月後に出来上がった、夏と冬で全く色合いの異なる新たな制服は、ネット上で大反響を生む。


更に、新校舎が完成し、校庭などの手入れも済むと、公立の安い学費では有り得ないその設備に、受験者数が激増する。


そのお陰で、この学校の偏差値は数年で10も上がり、一躍都立のトップ校と肩を並べる存在になる。


そして、公立にも拘らず、その人事には都が口出しできないという、新たな伝説も生じるのであった。



 「ん、んん、・・んっ」


浴室の中で、美冬がくぐもった声を発する。


長く濃厚なキスを終え、彼女が唾液の糸を引きながら、唇を離す。


浴槽に入るまでは、他の生徒を刺激したお仕置きという意味の分らない理由で、2回も摂取された。


その後、口をすすぎ、持参したウーロン茶のペットボトルを飲み干した彼女は、浴槽内で執拗に俺を攻めてきた。


美冬に限らず、お仲間さん達が俺と入浴する際は、皆がドリンクの小さなペットボトルを浴室まで持参する。


連続で摂取してくる際は、美冬と吉永さんを除いて、お互いのパートナーとキスを交わしてから再度してくるが、摂取の終了後には、皆が俺に気を遣って、丁寧に口を漱ぎ、その後でドリンクを飲んで口内をさっぱりさせている。


それが済んでからでないと、俺にキスをしてこない。


とても有難い気配りである。


「・・全国で100番以内か。

美冬って、かなり頭が良かったんだね」


「ん~、少しずるい気がするけどね」


「何で?」


「元は偏差値60くらいだったんだよ。

それが、探索者となって精神力の数値を伸ばしていったら、一度読んだり覚えたりしただけで、何でも記憶できるようになっちゃってさ。

しかもそれを絶対に忘れないんだよ。

最早パソコン並みなの。

AIと同じで、応用力は鍛えないといけないんだけどね」


「探索者って、本当に便利な存在だよな。

最初は命懸けだけど、その先には希望しかない」


「そうだね。

運良く和馬に出会えた人は、初めから希望しかないしさ。

皆が知ったら、きっとダンジョンは大混雑するだろうね」


「その分、死体も増えて大変さ。

魔物がどんどん強くなるしね」


「それは嫌だな。

人の死体は、見慣れるものじゃないからね」


「そしてその死体から、金品や装備品をはぎ取る者が増える。

戦っている人の近くで、じっとその人が死ぬのを待つ者も出るね」


「・・はい、嫌な想像はここで御仕舞。

もっと楽しい事を考えよう」


「美冬の胸は、また少し重さを増した。

ぎっしり実が詰まっている感じ」


「何それ」


「美冬の腰は、更に細く締まってきた。

お陰で胸がより一層強調されて、凄い事になっている」


「だから何なの、それ」


「楽しいこと」


「・・私の身体、好き?」


「勿論。

ずっと眺めていたいくらいだ」


「私も和馬の身体が大好き。

厚い胸板も、ビキビキに割れている腹筋も、筋肉で引き締まった手足も、・・それから、お湯から顔を覗かせるくらいに大きくて堅いここも・・」


美冬の指先が、つーっとそこをなぞり上げる。


「お客さん、お触りは困りますね。

見るだけにしてください」


「良いじゃない。

チップを弾むわよ?」


「・・では、キスをもう一度」


「フフッ、随分安いのね」


美冬の両腕が、しっかりと俺の首に巻き付いた。



 翌日、文化祭2日目の日曜日。


「あの、柊さん、昨日の彼は、今日はお見えにならないのですか?」


「あ、美冬、今日は彼氏は来ないの?」


「柊さん、昨日の彼は、一体どういう人なんですか?」


「・・柊さん、昨日のお方は、何ていうお名前なのですか?」


会う人皆が、和馬の事を尋ねてくる。


・・和馬、今晩もお仕置きね。

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