第65話
10月20日、金曜日。
北海道攻略の終わりが見えて来た美冬の為に、長野県の探索に入る。
この県のダンジョン入り口数は、合計173個。
ここも岩手と同じ様に、ユニークと金色の宝箱のみに専念する。
金色の宝箱がある場所は、善光寺、戸隠神社、諏訪大社、北向観音、安楽寺、若一王子神社、妻科神社、瑠璃寺、新海三社神社、栗尾山満願寺、理性山三澤寺辺りの計11箇所。
ユニークは満願寺辺りの1体だけ。
先ずはそのユニークを倒す。
鬼の魔物で、15センチの魔宝石と、『因果応報』の特殊能力を得る。
これは、『この能力を用いて質問された事項には、嘘が吐けない』というもの。
『身体能力・改』の中に収容された。
善光寺辺りには通常の金色の宝箱の他に、隠し扉の中に牛と鳩に関する問いに答える仕掛けがあり、それに正解すると、『アイテムボックス』の機能を1段階上げる品を得られた。
戸隠神社辺りからは『開運』と『良縁』を、諏訪大社辺りからは『開運』『子宝』『四股』『給水』の4つを、若一王子神社辺りでは『開運』を入手でき、あとは皆、能力値の何れかを上げる品だった。
例によって『子宝』はポイントに替え、残りの銀色23、茶色52の宝箱は、市販の地図に印を付けた上、美冬に任せる。
今日の夕食時にでも、『戦利品の自動回収』が付くアイテムを美冬に食べさせよう。
倒した魔物は約300だった。
10月21日、土曜日。
この日は、
その疑問とは、『果たして生者が身に付けている衣服も、24時間以内に消滅するのか』というものだ。
死者の衣服が遺体と共に消滅するのは知っているが、生きている人間の衣類まで消滅するのかを確認した者は、世界中でまだ誰も居ない。
ダンジョン内で24時間以上、継続して過ごせるような者が居ないからだ。
弱い者なら確実に魔物に殺されるし、わざわざその事だけを確認するために、出口付近の何時でも逃げられる場所で、24時間以上、寝ずに過ごす酔狂な者も居なかった。
それを証明したところで、1円にもならないのだから当然だろう。
だが俺の場合、前もって確認する必要が出てきた。
俺やお仲間の皆さんなら、やろうと思えばそれができるし、ダンジョン内でバカンスするにはどうしても確かめておかないと、いきなり皆が裸になったら困る。
それにもう1つ。
そもそも、生きている人間も、ダンジョン外の存在なのだ。
外から持ち込んだ物が24時間以内に消滅するのなら、人間はどうなのだろう?
死体が消滅する以上、その違いは、命があるかどうかでしかない。
これまでにも、1日16時間くらいはダンジョン内で過ごした経験があるが、継続して24時間以上過ごした事はなかった。
俺には1つの仮説があった。
ダンジョン内で得た物は、ダンジョンで消滅する事は無い。
通常の世界にも持って行ける。
ならば、ダンジョンで特殊能力や魔法を身に付けた者、若しくは各能力値が上がる品を口にした者は、ダンジョン内で得た物をその身に宿しているのだから、消滅しないはずである。
そう考えて、気軽に実行しようとしたのだが、家を訪れた南さん達にその話をした途端、彼女に思い切り引っ叩かれた。
「ふざけないで!!!」
「え?」
「一体何を考えてるの!?
和馬の命は他のどんな物にも代えられないのよ!?
実験したいなら、その辺のごみ共でやりなさいよ!」
目に涙を溜めて怒り狂った南さんを、俺は呆然と眺める。
とても『両親にさえ叩かれたこと無いのに』なんてボケる雰囲気ではなかった。
「今のは和馬君が悪いよ。
南が怒るのも当たり前」
涙を拭く彼女を支える百合さんからも、底冷えのする視線でそう言われた。
「・・済みません。
多分大丈夫だと思ったので、あまり深く考えませんでした」
2人に頭を下げて詫びる。
彼女達の怒りが治まるまで、それから暫く時間が掛かった。
「でも、和馬も変な事を考えるわよね。
そんな事、今まで思い付きもしなかったわ」
やっと機嫌を直してくれた南さんが、珈琲を飲みながらそう話す。
その代償は大きかった。
将来、南さんが総理になって憲法や民法を改正する際、重婚を明文化するから、彼女を第2夫人にする事を約束させられてしまった。
百合さんからも、順位には拘らないからそうして欲しいと告げられる。
これには、他のお仲間に対する口止め料も含まれている。
『もし美冬が、和馬のやろうとした事を知ったら、一体どうなるでしょうね?
理沙さん達や沙織さんでも、きっと只では済まないわよ?』
そう言われると、黙って頷くしかなかった。
美冬が本当に怒った所を見た事は無いが、絶対に怖いはずだから。
そうでなくても、本気で泣かれるだけでも相当なダメージになる。
「済みません。
一度疑問に感じると、それを試してみたくなる悪い癖が中々治らなくて」
「和馬がするのでなければ問題ないわ。
その辺の犯罪者でも連れて行って、縛り上げてから結界の中に放り込んで、翌日にでも見に行けば良いのよ」
「そうですね。
先ずはその方向で試してみます。
それで消滅したら、次は生命力を上げる品を1つ食べさせてから、同じようにしてみますね」
「勿体ないけれど、仕方ないわね」
「さっきは叩いて御免なさい。
お詫びに、今夜は精一杯サービスするから」
俺の頬に手を当てると、深く唇を重ね、舌を差し込んでくる。
珈琲の
南さん達を岩手に送った後、自分はアメリカへ。
実験体を探すべく、ダンジョンから外に出て、手近な都市の貧民街へ。
コンビニと雑貨店が合わさったような、アメリカ独特の店で、此見よがしに大量の100ドル札をポケットから出してチョコを買う。
そのまま札を手にしながら、ゆっくりと路地裏へ。
案の定、後から付いて来た男2人に直ぐ銃口を向けられた。
当然、金など渡す気はないからそれを無視していると、1人が俺に発砲した。
勿論、身体に当たっても跳ね返る。
驚いたそいつの首をへし折り、もう1人は痛めつけてから洗脳する。
ここで、予てからの疑問であった、もう1つの謎を解消すべく、死んだ奴の死体をアイテムボックスに入れようとしてみる。
・・入った。
思わずにやけてしまう。
これで、通常の世界でも完全犯罪が可能になる。
何せ、遺体が見つからないのだから。
陸に動けないもう1人の男を抱えてダンジョンの入り口まで運び、そこで降ろして中に入らせる。
入り口から200メートルくらいの場所に座らせ、今度は『魅了』を用いて、この場から動かないように命令する。
男の周囲に結界を張り、1日分の水と食料を置いていく。
あとは24時間経過後に、もう一度見に来れば良い。
そこから数十キロ離れた林の中に、先程の男の死体を捨てると、いつもの作業を開始する。
夕方6時まで続け、その後南さん達を迎えに行って、共に風呂に入る。
俺を叩いたお詫びも兼ねたそのサービスは、これまでで1番過激で、2人から計6回も摂取され、道具として使用された俺の指がふやけた。
2人の様子がいつもと若干異なるため、夕食の席で、美冬がじっと俺の顔を見て【分析】をしていたようだが、それにはもう慣れた。
その間中、美冬が浴室で俺にしている事を考えていたら、『むむむ』と唸って顔を赤らめた。
フフッ、勝った。
夕食後、美冬を北海道のダンジョンに送った際、『そんなに嬉しいなら、今晩もしてあげる』と上機嫌で言われる。
自分はアメリカに戻り、実験体の生存を確認した後、宝箱の回収に専念した。
10月22日、日曜日。
南さん達を岩手に送った後、再度、実験体の様子を確認する。
まだ生きていた。
追加の水と食料を置いて、自分の仕事に専念する。
夕方6時、もう一度見に行く。
これで彼が生きていれば、ダンジョン内でも生者なら安心して過ごせる事が証明される。
地図上に人を示す表示があるから無事だとは思ったが、やはり生きていた。
衣服もちゃんと身に付いている。
実験に協力させた礼として、結界と洗脳、魅了を解いて自由にしてやる。
運が良ければ外に出られるだろう。
正気に戻った男が俺を見て、慌てて逃げ出した先は、最寄りの出口とは反対側だった。
10月24日、火曜日。
吉永さんを奈良に送り、その足で向かったアメリカで、守護者のユニークと対峙する。
ハリケーンを引き起こす、超大型の黒い鳥だった。
『飛行』と『加速』を用い、地形に被害が出る前に、その首を刎ねる。
45センチの魔宝石と、『飛行』のアイテムを残して消滅した魔物が護っていた場所にある隠し扉から、『SSSランク。聖書。異界の扉を開く鍵の1つ』が出る。
この大陸にもあった。
こみ上げてくる嬉しさを噛み締め、更なる回収に励んだ。
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