第63話
10月2日、月曜日。
「和馬様、ご希望になられていた箱根の温泉宿が見つかりました」
探索に出る前、俺の家に集まった仁科さんと落合さん。
何時の間にか、この2人からも名前で呼ばれている。
「有り難うございます。
幾らくらいでした?」
「10億です。
個人経営の一軒宿で、敷地面積は約1000坪。
駅からは少し距離がありますが、その分風情があり、客室は全部で5つ。
源泉かけ流しで湯量は豊富ですが、家族経営だった上、板前のご主人が亡くなり、息子夫婦ももう歳で、そろそろ引退したかったようです。
最近は客足も伸びず、2億の負債を抱えておりましたので、直ぐに契約が成立致しました。
既に、支払いと登記移転の両方が済んでおります」
「仕事が速いですね。
助かります」
「司法書士の彼女、富永さんは当たりです。
仕事が的確で、しかも迅速です。
資格を取ってからも、色々勉強しているみたいですね」
「『良縁』の効果が出てますね。
お二人に出会えたのも、その影響でしょうし」
「そんな。
私達の方こそ、和馬様との出会いには心から感謝しております」
「お風呂は広いの?」
落合さんが仁科さんに尋ねる。
「男湯と女湯の両方とも、15人くらいは一度に入れます。
ただ、露天風呂はありません」
「露天はない方が良いです。
あと10年もすれば、露出狂かお年寄りでもない限り、誰も入らなくなりますよ」
「どうしてですか?」
落合さんが首を傾げる。
「ドローンがあるじゃないですか。
個人が自由に飛ばせるようになれば、必ずそれを用いた盗撮が増えます。
法規制ができても、道交法と同じで、どうせ陸に機能しませんよ」
「それは盲点でした。
海や山に面した露天風呂は、もう危なくて入れませんね」
「撮影された物を、金儲けのためにネット上で流されたら、ずっと誰かのパソコン上で残りますからね。
世の中には、普通では考えられないくらいの馬鹿が居るものです」
「私、もう露天に入るの止めよう。
私の裸は、和馬様以外の男に見せたくない」
「私も。
もう二度と露天に入らない」
「済みません。
そうしていただけると嬉しいです。
ただ、露天風呂に安全に入る方法はあります。
ダンジョン内の温泉なら、金属を使用した製品は持ち込めない上、電波も届かないから大丈夫です。
結界を張ったり、僕が『地図作成・改』で見張っていれば、誰も近付けないですしね」
「成程。
もう海と温泉は、ダンジョン内で楽しんだ方が良いかもしれませんね。
ナンパもされないし・・」
「そうね。
お仲間の皆さんと一緒に楽しんだ方がずっと良い。
この間の海も楽しかった」
着替えを始めながら、そう話す2人。
この家では、俺の目の前で着替える事が、最早一般的になってしまった。
宿の管理については、定期的に清掃業者を入れ、普段は結界を張る事にした。
この際なので、その場で2人に『結界』のアイテムと、『金運』を2つ、『良縁』、『開運』を1つずつ余計に食べて貰った。
これでこの2人の『幸運・改』は、通常の3倍の効果がある。
10月5日、木曜日。
俺の17歳の誕生日を祝うべく、美冬が松濤のレストランに予約を入れ、お仲間の皆さんが全員集まってくれた。
美しい、そして華が在る。
着飾った若い美女達による饗宴。
グラスに注がれた深みのある赤が、照明に輝くナイフやフォークの銀色が、女性達のしなやかな指先にマッチする。
派手なネイルを施したり、ゴテゴテの指輪を嵌めている人は誰もいない。
持って生まれた、日々の手入れを怠らない、その美しい指先だけで十分絵になる。
時々、長い爪に絵が描いてある人を街角で目にするが、トイレの後、きちんと手を洗っているのか疑問に思う。
あれは、石鹸で擦ったくらいでは落ちないのかな?
「和馬、最初に謝っておくね。
プレゼントなんだけど、結局何が良いか分らなくて、用意できなかったの。
君は何でも持っているからね。
だから、皆で話し合って、延期させて貰う事にしたの。
御免ね」
美冬が皆を代表してそう告げてくる。
「謝らないでください。
こうして集まっていただけただけで、十分ですよ」
「プレゼントは必ず渡すわ。
ただ、その時期が半年くらいずれるだけ。
楽しみに待っていて」
南さんが妖艶に微笑む。
「きっと一生の思い出になるよ」
美保さんもそう言って微笑む。
吉永さんは俺をじっと見つめ、仁科さんと落合さんは赤くなって下を向いた。
何だか嫌な予感がするが、美冬がオーケイしたのなら問題ないだろう。
「・・ではそうさせていただきます」
「フフフッ、
南さんが嬉しそうに笑い、理沙さんが苦笑いする。
今日の料理を楽しみながら、『もう直ぐジビエの季節だな』、そんな事を考えていた。
その夜は、浴室で美冬から濃厚なサービスを受け、彼女が眠りに就いた後、アメリカに跳ぶ。
お国柄だからか、銀の宝箱からは、装備品として銃と弾丸が偶に出る。
それ以外は金塊やレアメタル、宝石類がほとんどだ。
ラスベガス辺りで、バニーガールの衣装を身に付けたユニークと遭遇する。
肩までの明るい金髪と、グリーンの瞳を持つ、かなりスタイルの良い美女だ。
向こうから動く気配がしないので、『回想』を用いて彼女の過去を垣間見る。
どうやら彼女はカジノのディーラーだったみたいだ。
幼い頃から手先が器用で、カードゲームのテーブルを担当していた。
カモの客に最初だけ勝たせて、それからじわじわ巻き上げていくやり方で、店に大きな利益を齎していた。
だがある時、対立するカジノの親分同士の大勝負で、指示された通り
まだ18歳で、訓練以外は陸に遊びも知らなかった彼女は、稼ぎ頭でもあったから、誰の手も付かずに大事にされていた。
異性との付き合いも、夜の経験もないまま世を去った彼女は、それが心残りとなって、魔物としてダンジョンに現れたらしい。
じっとしている俺を、彼女が値踏みするように見る。
しなやかな指先で、顔を差す。
要求通り、被っている黒マスクを脱いだ。
その途端、彼女が破顔一笑する。
右手を上げ、そこにトランプの札を数枚生じさせると、いきなりそれらをこちらに飛ばしてくる。
弾丸のように速く、刃物のように鋭いそれらを、1枚1枚指で弾いて無力化すると、彼女の笑みが一層深まる。
その後、こちらにゆっくりと近付いて来て、俺の首に両腕を回しながら、深く唇を重ねてきた。
侵入してくる舌の求めに、2分程応えてやる。
唇を離した彼女は、うっとりとした瞳をしながら満足そうに消えて行く。
何かが体内に侵入する感覚と共に、30センチくらいの魔宝石が残る。
直ぐにステータス画面で確認した。
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氏名:アマンダ
生命力:45890
筋力:14270
肉体強度:17560
精神力:20420
素早さ:21680
特殊能力:『開運』『加速』
親愛度:30
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普段は???でしか表示されないユニークも、眷族になると名前が明記されるらしい。
ポイントを使い、カタログで、『飛行』と『自己回復(S)』、『状態異常無効』の特殊能力と、『パーティードレス(緑)』、『ビキニ(緑)』の衣装を購入する。
チョコレートが好物らしいので、後で贈ってあげよう。
時間を確認すると、もう6時45分。
美冬と朝の珈琲を楽しむために、今朝はこれで帰宅することにした。
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