第61話
9月27日、水曜日。
美冬を学校に送り出した後、渋谷のダンジョン内からイギリスまで転移し、そこでダンジョンを出て、今度は『水の住人』を用いて水中からアメリカ大陸を目指す。
陸地に突き当たったらそこで上陸し、ダンジョンの入り口を探して入る。
そこでここが何処かを確認すると、カナダの端の方だった。
仕方が無いのでまた海中に戻り、今度こそアメリカ合衆国に上陸する。
『地図作成・改』の地図は、飽く迄もダンジョン内の地図しか表示されないため、通常の世界で自分が今何処に居るのかは分り辛い。
当然この世界の地図も持ってはいるが、スマホの位置情報はオフにしてあるので、何か目印でもないとよく分らないのだ。
取り敢えず、最寄りのダンジョン入り口に入り、防護服の背に、アメリカ国旗をマント代わりに付けて、目と口しか見えない黒マスクを頭から被る。
アメリカ合衆国のダンジョン入り口数は、全部で12万5274個。
中国より少し広いくらいだから、ここも2か月程度で何とかしたい。
ユニークと金銀の宝箱目掛けて、攻略を開始した。
午後2時、奈良のダンジョンに入る美保さん達を送るべく、一旦自宅に戻る。
「まだまだ暑いね」
アイスティーを口にする美保さんから、香水の良い香りがうっすらと漂ってくる。
「この防護服、着ないと駄目かしら?」
下着姿になった理沙さんがそう言ってくる。
「これまでも真夏に着ていらしたではないですか。
今の方がずっと涼しいのでは?」
「そうだけど、私達も和馬のお陰でかなり強くなったし、今は『治癒』さえ使えるから、危ない場所以外は大丈夫なんじゃない?」
「・・確かにそうですね。
幾ら蒸れないとはいえ、夏は暑かったかもしれませんね。
ではどんな恰好がお望みですか?」
「夏なら、Tシャツと短パンに、ジョギングシューズみたいな物が良いわ」
「・・この防護服を作っている会社に特注してみましょう。
さすがに只のTシャツだと、汗をかいた時、お二人の下着が透けてしまいますからね。
同じ様な材質で、半袖の物と半ズボン、ブーツの代わりに特製のシューズを頼んでみます。
開発費も僕が出せば、そのくらいしてくれるでしょう。
お仲間の皆さんの人数分、予備を含めて購入すれば、それなりの額になるから儲けも大きいでしょうしね」
「有り難う。
我儘言って御免ね。
今日も和馬にだけ、お風呂で沢山見せてあげるから」
「私も精一杯ご奉仕してあげる」
美保さんが微笑む。
「いえ、探索でお疲れになるでしょうし、程々で・・」
「全然疲れないもの。
『自己回復(S)』を貰ってからは、夜の方でも理沙があまり
「ふん、この間は美保の方が先にいったでしょ」
ドリンクを飲んでいなくて良かった。
「あれは和馬君との余韻がまだ残っていたからよ。
身体が敏感になっていたの」
俺、何もしていませんが。
「・・何もされないからこそ、焦れて身体が火照ることだってあるの」
俺の考えた事が分ったらしく、艶のある流し目でそう言われる。
「ささ、そろそろダンジョンに向かいましょう」
『飛行』を使って上空から眺める、アメリカの国土。
奇麗だ。
ダンジョン内だからこそ、手付かずの自然がありのままの姿で残されていて、心を和ませる。
広大な森林、深い渓谷、多くの湖に河川。
通常の世界では大分形を変えてしまった物が、元の姿のままここにある。
中国のダンジョンも本当に奇麗だったが、人が手を加えると、あんなにも汚れてしまうんだな。
建築物と自然が織り成す造形美も良いが、人工物の数が増えるほど、その美しさが味気なく思える。
夜の街並み、遠方から見る夜景は奇麗だが、それは闇が汚い部分を隠しているからに他ならない。
早朝に訪れれば、『う~ん』と
この国の嫌いな面は3つ。
銃社会であること、未だに人種差別が蔓延っていること、変な宗教にかぶれた奴らが中絶を認めないこと。
スーパーで気軽に買える銃があれば、その辺の能無しでも直ぐに粋がれる。
銃口さえ向ければ、何でもできると錯覚する馬鹿が多い。
アメリカの民間人があまりダンジョンに入らないのも、ここでは銃が使えないからだ。
宝箱から得ない限り、銃など持ち込めないし、俺がこれまでに開けてきた
ダンジョンの創造主はよく分っている。
引き金を引くだけで、それまで何年も費やしてきた武道の成果を台無しにされたら堪らないよな。
この国の人種差別だって、矛盾しまくりだ。
貧民どもがする人種差別は見ていて痛々しい。
きっと、肌が白いという事は、他に何の取り柄も無い奴らの、最後の砦なんだろうな。
どうせやるなら、俺のように、肌の色や生まれではなく、その人間性で差別しろと言いたい。
念のために言っておくが、俺が使う『貧民』とは、単なる経済的な貧困層を示すものではない。
飽く迄も、心にゆとりのない奴、他人の気持ちや痛みなどを考えられない心の貧しい者を指している。
そういう意味では、さすがに大富豪には使わないが、その辺の成金程度になら平気で用いる。
中絶を認めない州法なんて論外だ。
どうして自己の身体的安全を、無関係な他人なんかの判断に委ねなければならない?
魂の激痛や、余計な経済的負担まで押し付けられなければならない?
猿の様に無計画に、他に楽しみが無くて合意の上で性交した結果の産物ならまだしも、強姦されてできた子供まで
まだ10歳くらいの子供の被害者にまでそんな事を言う馬鹿は、俺がダンジョン内でぶっ殺してやる。
もし俺が悪党だったら、実際に実験するところだ。
中絶に反対する金持ちや議員達の妻や娘を
その時、名家や上流社会に属するそいつらが、その妻や娘に孕んだ子を産めと言えるかどうかをな。
・・考えただけで気分が悪くなってきた。
中東のダンジョンを攻略する際は、見つけ次第テロリストどもの首を刎ねよう。
宝箱を開け続けるだけの単純作業だから、陸な事を考えないな。
歴史の浅い国だからか、ユニークの数も少ない。
今日は早めに美保さん達を迎えに行って、2人の裸身に心を清めて貰おう。
『探索者チャット・中国語版』
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11101:軍幹部
まだあの赤い死神をどうにかできんのか?
11232:一兵卒
ならお前がどうにかしろよ
11101:軍幹部
何だと!
貴様、所属と階級を名乗れ!
11232:一兵卒
中国共産党、総書記。
11101:軍幹部
・・本当でありますか?
11232:一兵卒
嘘に決まってるだろ。
ば~か。
11101:軍幹部
お前、情報部に探させて、絶対に死刑にしてやるからな。
11232:一兵卒
この人物は、たった今、登録を削除されました。
11101:軍幹部
・・・。
21132:北京原人
でもよ、あの死神、軍人しか狙わないから、俺達には関係ないよな。
17666:パンダ
私、女性パーティーを襲った男達を殺しているところ、見たよ?
17878:カンカン
私も見た。
怖くて直ぐに逃げたけど、凄い美人だった。
17099:リンリン
私は、恐ろしい魔物を倒してるところを見た。
お陰で死なずに済んだの。
私を見ても一言も喋らずに、何処かに飛んで行っちゃった。
17666:パンダ
そう言えば、私が見た時も無言だった。
魔物だから、言葉が話せないのかな。
17099:リンリン
でも優しそうな人だったよ?
きっと、笑ったら凄くかわいいと思う。
11101:軍幹部
国賊を褒めるとは何事か!
貴様らに『愛国』の精神はないのか?
17666:パンダ
『愛国』と言えば何でも通ると思ってるの?
罪もない市民を閉じ込めたり、一方的に連行する軍人達の方が余程酷いでしょ。
この国にだって、言論の自由くらいはまだ残っているはずだしね。
17099:リンリン
そうでもないよ?
香港を見れば分るでしょ。
たとえ嘘でも愛国者を名乗らないと、もうまともな職業に就けなくなるかも。
17878:カンカン
嫌な時代になったね。
もしもの時は、ダンジョンから他国に逃げようか?
さすがの軍も、ダンジョン内は封鎖できないでしょ。
17666:パンダ
あ、それ良いかも。
ダンジョンでは彼らも大した武器を持てないしね。
パーティーを組まないと、複数で魔物を倒しても経験値が入らないから、ずっと弱いままだし。
軍人を殺しても、ダンジョン内なら罪に問われないから、日頃の憂さを晴らせるな。
17099:リンリン
私も頑張って強くなろ。
11232:一兵卒
もし今度、赤い死神に出会ったら、サインを貰っておいてくれ。
俺、ファンなんだ。
11101:軍幹部
貴様、まだ居たか!
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