第60話

 9月26日、火曜日。


前日の深夜から始めていた宝箱の回収作業が完全に終わり、これで中国には1つの宝箱すら無くなった。


今後は、この地で殺された者達の装備品が茶色の宝箱となって出現しない限り、全く何も得られない。


しかも、美鈴が倒した者達の装備品は、全て俺のアイテムボックス内に吸収されるので、それすら難しくなるだろう。


美鈴といえば、先日一旦彼女を呼び戻して、そのステータス画面を確認しようとした時、自分のステータス画面にも変化が起きている事に気が付いた。


『ポイント』の表示が点滅していたのだ。


既に10億ポイントを超えているその数字を見ながら、点滅を繰り返す『ポイント』の文字をタップすると、空中にカタログが表示された。


電子書籍のようにページを捲ると、そこにはまるで通販カタログのように、様々な商品が並んでいる。


眷族に買い与える特殊能力、その衣装、普段は物を食べない彼女らが食することのできる嗜好品、そして今は購入不可の表示が付いた数々の品。


1ページに20個の、写真付きの商品表示があり、それが500ページ以上ある。


初めは何に使用できるのか不明だったポイントの使い道が、これではっきりした。


そしてそこに表示された商品の値段、つまり必要ポイント数を見るに、やはり要らない特殊能力をポイントに替えると、相当のポイントが得られるみたいだ。


Fランクの武器は5ポイント、Bランクで300、Aで500なのに、『略奪』の特殊能力は3億ポイント、『飛行』は5000万ポイントもする。


こちらがポイントに替える際のレートは当然これより低いはずだから、決して無駄遣いはできない。


試しにAランクの装備品を1つポイント変換して、どのくらい増えたかを確かめたら、300だった。


つまり、買う時の6割だ。


カタログの注意事項を読む。


『眷族に買い与えた特殊能力は、たとえその眷族が倒されても、相手に吸収される事は無い。

但し、その眷族の再召喚には丸1日の時間を要し、以前購入した特殊能力を再び使うには、その再購入が必要になる』


・・初めの内は、高い能力は買わない方が無難だな。


美鈴を一旦呼び戻した際の、彼女のステータス画面はこんな感じ。


______________________________________


氏名:美鈴めいりん


生命力:145890


筋力:65730


肉体強度:70280


精神力:77450


素早さ:64210


特殊能力:『心眼』『自己回復(S)』『飛行』


魔法:『風魔法』


衣装:チャイナドレス(真紅) ビキニ(赤)


親愛度:53


______________________________________


『自己回復(S)』と『飛行』、『風魔法』の『鎌鼬』はカタログで買い足した。


『飛行』は高い買い物だが、広い中国を移動するにはあった方が良いと判断した。


衣装は、最初に着ていた古代中国の女人衣装の他に、真っ赤なチャイナドレスと赤いビキニを購入した。


眷族は、その全身を薄い魔力で覆われているため、返り血や埃などで服が汚れる事は無いが、どうやらダンジョン内の温泉や海には入れるようなので、取り敢えず購入しておいた。


買った時、美鈴からにっこりと微笑まれたが、それが何を意味するのかは分らない。


勿論、着る着ないは彼女の自由だ。


序でに彼女の好物らしい、桃饅頭を2個渡した。


生前に好んで食べていたのかもな。


何でそんな事が分るのかと言うと、彼女に渡せる食べ物が、それしか選択できないからだ。


他にも沢山食べ物が載っているのに、渡す対象を彼女にすると、それしか購入できない。


最後に在る親愛度だが、これはよく分らない。


使役し続ける事で増えていくようだし、特殊能力や桃饅頭を渡しても増えるのかもしれないが、それが何に繋がるのかは今の所、不明である。


美鈴には、まだ暫くこの中国で軍人狩りをして貰う事にして、俺だけこの国の探索を終了した。


勿論、それ以外にも、魔宝石の値段が10万円以上する魔物や、女性を襲う男性パーティーは皆殺しにしろと言ってある。



 午後2時。


午前10時から京都のダンジョンで頑張っている吉永さんを迎えに行き、トイレ休憩を兼ねて昼食を共にする。


相変わらず渋谷の街は混んでいて、こんな時間なのに、働きもしないでプラプラしている貧民どもが多い。


ダンジョン内に行く訳でもないのに、無駄に大きなリュックを背負い、スマホに視線を固定しながらふらふらとろとろ歩いている奴。


狭い道なのに、まるで組んだ腕は絶対に放さないと言わんばかりに、2列歩行してくるバカップル。


自分達は全く避けないくせに、他者が少しぶつかったくらいで後ろを振り向いて睨んでいる。


一体何様のつもりだ?


俺達富裕層が避けてやるのは、ぶつかって、お前達の汚い服の汚れが付くのを防止するためで、決してお前達を優先しているからではないのだが。


ウザいので、結界を張って強制的に除けさせ、俺と吉永さんが通る道を開けさせる。


彼女の防護服から浮き出る、美しい胸とお尻のラインに見惚れた奴らが、その影響でアホな車にかれそうになった。


惜しい!


もう少しで、免許を持つに値しない、脳みそが猿並みの奴共々始末できたのに。


尤も、その猿の方は、下手をすれば罰金だけで済んでしまうがな。


何とかして、こいつら全員をダンジョンに送り込む手段はないものか?


『洗脳』なら可能だが、1人1人それをするなんて面倒極まりない。


・・あ、今まで思い付かなかった。


思い付いてしまった。


そうか。


今度から、我慢できないほど嫌な奴を見つけたら、そうしよう。


『君には不思議な力がある。

君ならダンジョンに入って素手でどんな魔物でも倒せる。

是非そうして欲しい!』


こう言ってあげよう。


吉永さんが、歩きながら悪だくみする俺の顔を、うっとりと眺めている。


いやいや、今はそんな高尚な事を考えていませんからね。


彼女は常識人なので、反対側から人が来れば、一歩下がって俺の後ろに回り、道を開けている。


うん、やっぱり、超高額な税金を納めながら、非常識で税すら陸に納めない貧民どもに遠慮しなければならない社会は間違ってるな。


税負担の不公平さに対して、税金を陸に納めない者達からは、『助け合いだから』とか『支え合いだしね』とか、それを自分達の立場で正当化する言葉が聞こえて来るが、俺に言わせれば、『俺はお前達の世話になった事は一度もないし、今後もその予定は全くないんだが』と反論したい。


政治家のように票を貰える訳ではないし、会社の経営者のように、自社の製品を買って貰える訳でもないのだ。


人の何千倍もの税金を納めながら、特権の1つすら寄越さないから、この国からどんどん金持ちが出て行くのだ。


「交通遺児育英募金にご協力をお願いします!」


109の辺りで、数人の学生達が募金を呼び掛けている。


「済みません。

少し寄り道します」


吉永さんにそう告げて、彼らの下に行く。


募金箱を持つ者の中には、まだ中学生のような子供さえいる。


ほとんど誰も見向きもしないのに、懸命に声を張り上げていた。


俺は財布を取り出すと、そこから全ての札を抜き出した。


そして、万札1枚を残して、20万円ずつ彼らが持つ箱に入れていく。


4人居たから、全部で80万円だ。


余った数枚の万札も、中学生の持つ箱の中に入れる。


ポカンとする彼らの、1番の年長者である少女に、取って置いた万札1枚を差し出す。


「これはあなた方個人に。

活動が終わったら、皆で分けるなり、ご飯を食べるなりしてください」


「え?」


戸惑う少女に、お金を強引に押し付けて去る。


少し離れた所でそれを見ていた吉永さんの下へ戻り、詫びた。


「お待たせして済みません。

謝罪序でにもう1つ。

・・手持ちの現金を全て寄付してしまったので、ATMのある場所まで行きたいのですが」


俺は普段から、店に迷惑が掛かるので、カードを使わないのだ。


勿論、信用できないから、スマホにお金をチャージなどもしない。


「フフフッ、大丈夫です。

お昼は私がおごりますよ」


「え、いやそれは・・」


「奢らせてください!

こんな機会、滅多めったにありませんし、とても良いものを見せていただきましたから」


「・・僕は、他人に依存してばかりの人間は大嫌いですが、たとえ貧しくても、弱い立場であっても、その中で懸命に己のできる事を探せる人は好きなんです。

思わず応援したくなる。

だから、はたから見れば偽善に思われるような事でも、躊躇ちゅうちょしない悪い癖が付きました。

きっと周囲の人間からは、笑われているでしょうね」


「いいえ。

そんな事はありません。

和馬様がこちらに来られる際、あの4人はあなたの背に向けて頭を下げていました。

・・あなたのお気持ちが、ちゃんと通じているのですよ」


「・・そうなら嬉しいですね」


「さあ、お店に行きましょう。

それとも、今日はもう探索を切り上げて、私の部屋にいらっしゃいますか?

私の料理を召し上がっていただいて、その後は・・」


「僕はどちらでも」


「なら私の部屋へ。

今日は夜までずっとあなたと過ごしたい。

あなたを独占したい。

お風呂の中で、色々お話ししましょう。

助手の方、凄く良い人ですよ?

うちの経営方針とやり方を説明したら、目を輝かせて働いてくれています」


「それは良かった」


「尤も、和馬様の施術だけは、私の部屋で、私一人だけですると教えたら、がっかりしてましたけどね。

フフフッ」


手を繋がれて、タクシーを呼ばれる。


彼女の俺に対する施術は、マッサージと風俗の境目が、大分曖昧になってきたのだけれど。


まあ、美冬と済ませるまでは、彼女も一線だけは越えずに、きちんと待ってくれているから文句は言えないし、言いたくもないけどね。

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