第58話

 9月9日、土曜日、19時。


今日は南さん達を早めに迎えに行き、共に入浴してさっぱりした後、其々が盛装する。


既に準備を終えていた美冬を連れ、4人で松濤のレストランへ。


個室には既に他のお仲間さん達が到着していて、主賓の訪れで、部屋が一層華やかになる。


今日は美冬の18歳の誕生日。


プレゼントには、彼女名義の新潟の土地20万坪。


他にも色々贈ろうかと思ったが、本人から辞退された。


宝石類のアクセサリーを、多用するつもりはないらしい。


ネックレスもイヤリングもブローチもブレスレットも、指輪さえ、必要ないと言われた。


ただ、指輪は特別な物を1つだけ欲しいとも。


それが結婚指輪である必要もないらしいから、後でゆっくり考えると告げておいた。


成人の仲間入りを果たした彼女だが、お酒はあまり飲まない。


白と赤のグラスを1杯ずつ。


あとは俺と同じソフトドリンク。


それでも南さんと、お酒が好きな仁科さん、落合さんが居るから、ワインボトルを9本も空けた。


『自己回復(S)』は、どうやらアルコールにも有効らしい。


それだけ飲んでも、女性陣は酔いもしなかった。


2時間半で御開きになり、レストランに車を呼んで貰って皆を送る。


その後、夜道を美冬と2人でゆっくり歩いて帰宅し、彼女の希望で、その夜は俺のダンジョン探索も休んで、同じベッドで朝までゆっくりと睡眠を取った。


久々の睡眠で見た夢は、美冬に初めてキスをされた日のものだった。



 9月11日、月曜日。


美冬を学校に送り出した後に始めた中国探索で、『地図作成』を見つけた。


これで、中国における3つの最重要宝箱の回収が済んだ。


『転移』と『飛行』を組み合わせる移動で、宝箱の回収作業は予定よりかなり進んでおり、中国人の軍人パーティーにちょっかいを掛けながらでも、あと1週間くらいで終わるだろう。


そうしたら、ここでも全ての茶色い宝箱を取ってしまおうと考えている。


今でも近くに在る物は回収してるから、金額の美味しい魔物を倒しがてら、2週間くらいで集中的にやるつもりだ。


当初は時間的に茶色だけは放置しようとしたが、中国がまだダンジョンを諦めていない事が判明した以上、低級とはいえ装備品が出る茶色の宝箱も回収しておく必要が出てきた。


日本の国防にも関わる事だから、百合さんの為にも頑張らないと。


そう考えながら作業を続けていると、ユニークの居る場所に着いた。


古代中国の貴族姿をした、若く美しい女性の魔物だった。


俺は、相手が人型の女性である限り、たとえ魔物でも自分から直ぐには攻撃しない。


必ず相手の出方を見る。


そのユニークは、俺が男性であると分ると即座に両手に持つ剣を構えたが、俺が何もしないで待っていると、そのままじっと俺を見つめ、暫くすると構えを解いた。


俺の方でも、何となくそのユニークに興味があって、初めて『回想』を用いた。


そしてそこで見る事のできた彼女の過去に、俺の眼から細い涙が流れる。


小国の王族として、両親である国王夫妻から大事に育てられてきた姫。


しかし16歳を過ぎた頃、隣国の大国である王子に見初められて求婚される。


その王子は既に40歳近く、妾を含めると30人以上の側室がいた。


しかも女癖が悪く、町に出向いては直ぐに気に入った女性に手を出す。


娘をかわいがっていた国王は、そんな相手に嫁がせる事を拒み、その代わりに大量の財宝を差し出して許しを請うた。


向こうもそれで了承し、友好の宴を開いたその夜、宴席でいきなり両親を暗殺される。


この女性にも、捕らえようとする敵の手が伸びたが、武芸に秀でたこの女性は、既に殺された護衛の剣を借りて果敢に戦った。


たった1人で15人を相手にしながら、傷付いてもひたすら戦い続け、到頭全員を討ち取った後、出血多量で、両親の亡骸の側で息を引き取った。


涙をぬぐうため、被っていたマスクを脱いだ俺を見つめたそのユニークは、そっと俺の側にやって来て、己の頭を俺の肩に凭せ掛けた。


暫しそうした後、彼女は俺に微笑みながら、40センチの魔宝石を残して消えて行く。


俺の中に何かが入り込んで来て、それをステータス画面で確認すると、『眷族』のリストの2番目に、その女性の名が在った。


美鈴めいりん


彼女が持っていた『心眼』は、俺に吸収されず、そのまま備えているようだ。


彼女の使役には1時間に3000の精神力を必要とするが、今の俺なら、回復量を合わせれば、余裕で24時間、いつまででも出し続けられる。


俺の場合、その精神力は8時間以上の睡眠で全回復し、一切眠らずに活動していても、日々約15%分が回復していく。


『転移』や『飛行』で消耗する分は、1日中探索していても数千から数万なので、精神力は毎日満タンなのだ。


なので、ちょうど良い機会でもあったから、その場で美鈴を呼び出し、『中国の軍人パーティーを殲滅して欲しい』との依頼を出す。


頷いた彼女は、直ぐに行動を開始して走り去った。


移動性でないユニークの場合、通常は己が今居る場所からそう離れる事は無いが、彼女は俺の眷族となった事で、この土地の呪縛から解放されている。


ちょっとした実験を兼ねているので、今から結果が楽しみだ。


19時に帰宅し、美冬と夕食を取り、21時には仁科さん達と三重のダンジョンへ。


翌1時に帰宅して彼女らと入浴した後、再度中国のダンジョンに戻る。


ほぼ宝箱だけに専念できるから、回収が進む進む。


それに予想通り、美鈴が軍人達を倒して手に入れた装備品や所持金の類が、俺のアイテムボックス内に送られてくる。


彼女は俺の精神力で具現化しているから、その彼女が倒し、得た品物は、全て俺の物になるようだ。


この分なら、もう1つの仮説も正解になりそうだ。


恐らく、彼女を戻した時、その各能力値は大幅に上昇していることだろう。


俺のパーティーメンバーに加える事ができない代わりに、彼女自身が稼いだ経験値が、そのステータスに反映されるのだ。


所謂、放置ゲームのキャラクターみたいに。


後日、宝箱の回収まで手伝って貰おうとしたが、さすがにそれは無理だった。


どうやら魔物は、自分だけで宝箱を開ける事はできないらしい。



 9月15日、金曜日、午後5時。


到頭、中国全土のユニークの完全討伐と、金銀の宝箱の全回収が終わる。


倒したユニークは総勢128、回収した宝箱は、金が2614、銀が約2万で、茶色は5000個くらいある内の、670だけ開け終えた。


『異界の扉を開く鍵の1つ』であるぎょくも全て揃い、最後の6個目を取り終えた時、地図上の中国のとある場所に、玉の印が現れた。


『不老長寿』の年数は、最終的に5000万年まで伸びて、俺に乾いた笑いをあげさせた。


この地で得られた特殊能力は、『金運』『良縁』『開運』を8つずつと、『状態異常無効』『自己回復(S)』『毒耐性(S)』『魔法耐性(S)』『炎耐性(S)』『氷耐性(S)』『結界』『隠密』を其々2個ずつストックした以外は、『飛行』の1つを除いて全てポイントに替えてしまった。


『子宝』や『処女の血』、『若返り』は勿論のこと、『皇帝』や『革命』、『洗脳』に『略奪』すらあったが、それらも全部だ。


ただ、『処女の血』の1つだけは、ユニークを倒した際に強制的に『子宝・改』の中に吸収されてしまったので、お仲間の皆さんには内緒のままでいようと思う。


各能力値を上げる品も、生命力の600個を筆頭に、其々400個くらい得ている。


魔法に関しては、『治癒』『浄化』『照明』『給水』『着火』『造形』を4つずつ、『魅了』と『解除』、『火球』に『鎌鼬』を2つずつ得られたので、それらは全部ストックした。


銀色の宝箱の中身は、金塊やレアメタルのインゴットが十数キロから数十キロ入った物が約7割を占め、Bランク以上の武器や装備品が2割、残りは陶器や宝石類だった。


茶色からは、下級の装備品の他、象牙でできた麻雀牌なども出た。


明日からは、魔宝石が30万円以上する魔物を狩りながら、茶色の宝箱の残り約4300個を回収する。


この日はこれでダンジョンを後にし、美冬との夕食後、予め念話で伝えておいた、お仲間の皆さんの家々を訪問して回った。


美冬には、『地図作成』と『照明』『火球』『造形』の計4つを食べて貰い、南さんには『隠密』『浄化』『照明』『着火』『造形』の計5つを、百合さんには、『結界』と『治癒』『給水』『魅了』を、吉永さんには『結界』『隠密』『治癒』『浄化』『着火』『給水』『鎌鼬』をその場で食べて貰う。


理沙さんには『結界』『隠密』『治癒』『給水』を、美保さんには『隠密』『浄化』『照明』『着火』『造形』を食べて貰い、仁科さんには『状態異常無効』『魔法耐性(S)』『炎耐性(S)』『氷耐性(S)』『鎌鼬』の計5つの他に、『良縁』と『開運』を1つずつ余計に食べて貰い、その効果を2倍にした。


落合さんにも仁科さんと『鎌鼬』以外は全く同じ物を食べて貰い、更に彼女には『照明』と『魅了』まで食べさせてしまった。


その全員から、『夕食前に連絡してくれて良かった』と、苦笑交じりに言われたのは言うまでもない。


『飛行』は今回1つしか入手できなかったので、取り敢えずそのまま持っている。


これで、お仲間の皆さんの特殊能力や魔法も、大分充実してきた。


あとは日々の探索に彼女達を送る前に、おやつ代わりに能力値アップの品を食べて貰えば大丈夫だろう。


そんな安心感からか、この日はその後ぐっすりと寝てしまった。


折角美冬が同じベッドに潜り込んで来たのに、それにも気付かずに。


なので、朝に目覚めた時、彼女の抱き枕状態で、暫く身動きが取れなかった事くらいは喜んで受け入れよう。

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