第48話
7月26日、水曜日、午後10時30分。
エステの仕事を終えた吉永さんの家にお邪魔して、これまで他のお仲間にしてきたものと同じ内容の話を繰り返す。
「分りました。
今晩はこの後じっくりとお相手致します」
「いえ、一度摂取していただければ、それで十分なのですが・・」
「嫌です」
「え?」
「24日の午後、お仕事の合間を縫って、南さんが施術を受けに来られたのですが、その間ずっと上機嫌でした。
それとなく理由をお尋ねしたら、和馬様から沢山の元気の素を頂いたと・・。
今のお話から察するに、その元気の素というのは・・」
南さん、勘弁してくださいよ。
「・・お考えの通りです」
「でしたら私も、彼女と同じだけ頂きたいと思います」
「それはちょっと難しいと思います。
彼女達はダンジョンに入る前と後の二度に分けて摂取されたので、数が多いのです。
一度でそれと同じ回数を摂取するのは・・」
「南さんは、一体何回摂取なされたのですか?」
「・・5回です」
「!!!
・・和馬様の馬鹿。
それ程までに溜まっていらっしゃったのなら、どうして私に言ってくださらなかったのですか?
あなたになら、何時でも特別な施術を致しますのに・・」
吉永さんが、俺の顔を見ながら文句を言ってくる。
一緒に風呂に入るようになってから、彼女は以前にも増して打ち解けてきた。
こうして我儘すら言うようになった。
とても良い傾向だと思う。
「いや、それをしてしまったら、最早別のサービスになってしまいますから」
「良いのです。
お店ではやらない、和馬様だけの裏メニューなので」
「吉永さんは、そういったマッサージのご経験もあるのですか?」
「ありません!
私は何もかも、和馬様が初めてです。
キスだって、裸をお見せしたのだって・・」
「済みません。
別に風俗のようなものでなくても、オイルマッサージというものがあるそうなので、そちらのご経験をお尋ねしたのです」
「和馬様、その手のマッサージは、風俗との境目が曖昧です。
決して他でお試しにならないでくださいね?」
「それは勿論。
僕はもう、吉永さんにしかお頼みしませんから」
「フフッ、フフフッ。
私にしか・・。
とても素敵な言葉です。
私も、全てあなただけに・・。
さ、浴室へどうぞ。
施術用の、特製のマットもご用意致しましたから」
立ち上がった彼女に腕を取られ、浴室へと連れて行かれた。
3時間以上に及ぶ入浴で、本当に南さんと同じ回数を摂取された後、リビングで髪を乾かして貰う。
珈琲を出され、バスローブ姿の吉永さんが髪を乾かす間、美冬と念話で迎えに行く時間を確認する。
広い北海道を走りながら、どんどん魔物を倒している彼女。
まだアイテムボックスを所持していないから、大きなリュックを背負いながら戦っている。
魔宝石が2000円以下の魔物は放置しているらしいが、全体で数十万の数の魔物が居るから、夏休みの間に終わるかどうかは微妙だ。
「和馬様、お待たせ致しました」
髪を乾かし終えた彼女が、自分用のアイスティーを淹れる序でに、珈琲を淹れ直してくれる。
美冬にあと2時間で迎えに行くと告げて、念話を終える。
「今回のロシア探索で得たアイテムをお渡しするので、今、できるだけ食べていただけますか?
全部で9つあります」
彼女の前に、理沙さん達に提供したアイテムと同じ物を置く。
「有り難うございます。
・・では、失礼して」
箸を取りに行った彼女が、小さな饅頭やピロシキ、ロールキャベツなどの形をしたアイテムを口にしていく。
エアコンの効いた室内で、白いバスローブのみを身に付けた彼女の動きに合わせ、大きく重たげな胸が揺れる。
上品なその仕種からは、浴室での妖しい艶を纏った彼女の姿を想像するのは難しい。
「食べながら聴いてください。
吉永さんは、これまで僕と2人でダンジョンに入っていましたが、今後はなるべくお一人で探索していただきます。
送迎は僕が行いますし、僕や南さん達が強い魔物を狩り尽くした場所を担当していただくので、今のあなたなら身の危険はありません。
武器や装備品もAランクの物をご用意するので、どうか頑張ってみてください。
これまで通り、お店がお休みの時だけで構いませんから」
一旦箸を置いた彼女が、アイスティーで喉を潤してから話し出す。
「最初に1つだけ我儘を言わせてください。
探索の後は、和馬様とこれまで通り、お風呂を楽しみたいです。
それさえあれば、1人でも頑張れます」
「分りました。
お約束致します」
俺の我儘で彼女にダンジョン探索を強いるのだから、こちらも当然、相手の要求にできる限り応えるべきだ。
「嬉しい。
今の私の、最大の楽しみなんです」
吉永さんが、にっこりと微笑む。
「そう言えば、美冬と南さんのお二人には、以前の和馬様と同じ兆候が見られますね。
垢すりの頻度が増え、その度ごとに肌が強く、美しくなっています。
女性特有の素肌の柔らかさはそのままなのに、不思議な現象ですね」
「各能力値の上昇と共に、身体の細胞や組織が作り変えられている最中なんです。
それが始まる目安は恐らく、どの能力値も1万以上。
そしてそれが完成するためには、各能力値が2万くらいになる必要があるはずです」
「え!?
美冬ってそんなに高いのですか!?」
「ええ。
おやつ代わりにアイテムを食べさせていましたから・・。
今はそれに見合う技を磨いている最中なんです」
「彼女、本当に良い
あれ程の美人でスタイルも抜群、今は経済力だって備えてるのに、全然偉ぶる所がないし。
笑顔が素敵で、穏やかで、私、大好きなんです」
「僕の1番の宝物ですから。
勿論、2番目はお仲間の皆さんですよ」
「フフッ、私も、和馬様が何よりも大切です。
・・愛していますから」
じっと瞳を見つめられる。
「・・・」
「お側に置いていただければ、それだけで良いんです」
「そのお気持ちに報いるよう、今後も頑張ります」
「・・はい。
2人だけの、秘密の約束です」
囁くように、甘い口調でそう告げられる。
「時に吉永さん、助手は必要ではありませんか?」
「え、・・助手ですか?
お仲間の皆さんが何時来てくださっても良いように、今は1日2名様まででやっておりますから、特に必要ありませんが・・」
「でも今後、吉永さんも美冬と同じ様に、細胞組織の改変が始まりますよ?
お一人では、ご自分の垢すりも満足にできないのでは?」
「・・それはそうですね」
「実は今度、大手人材派遣会社に特別料金を支払って、必要な分野における最高の人材を確保する予定なのです。
そのリストにエステティシャンも1名入れてあるのですが、どうせなら、ご自分のお店で短期間、指導なされてはみませんか?
あなたのお身体をお任せする相手にしようと考えているので、実際に試してみては如何でしょう?
その方の給料は僕が支払いますし、ある程度したら、その方にも別な店をご用意するつもりですので」
「和馬様に施術をするのは、今後も私だけ。
そうですよね?」
「はい、それはお約束致します」
「なら受け入れます。
有り難うございます」
その後、再度アイテムを食し始めた彼女と少し雑談をして、美冬を迎えに行った。
因みに、今の吉永さんのステータスは以下の通り。
彼女の装備は、Aランクの斧と盾に変更した。
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氏名:吉永 沙織
生命力:5510
筋力:568
肉体強度:573
精神力:728
素早さ:527
特殊能力:『自己回復(S)』『状態異常無効・改』『幸運・改』
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『状態異常無効・改』と『幸運・改』の中身は、理沙さん達と全く同じである。
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