第46話

 7月22日、土曜日。


攻略を始めた中国のダンジョンから一旦戻り、11時少し前に家を訪ねて来た南さん達を、リビングに通す。


「ダンジョンに行く前に、少し大事なお話があります」


アイスティーの入ったグラスを彼女達の前に置きながら、神妙な顔でそう切り出す。


「なあに?

到頭私達を抱く気になった?」


俺の表情が可笑おかしかったのか、南さんがそう言って笑顔を見せる。


「・・お二人に、それに近い行為をお願いしたいのです」


「「・・・」」


2人の顔から笑みが消える。


「途中で止めないわよ?

いい加減、私達も焦れてきているんだから」


南さんが真っ直ぐに俺の眼を見る。


「3人で、新しい愛の形を作りましょ」


百合さんが妖艶に微笑む。


「・・いや、その、そういう理由でお願いする訳ではなくてですね、新しい特殊能力を得たので、お二人とそれを共有するのに必要な行為なのです」


「何よ、期待させておいて酷い!

・・一体どんな事をする訳?」


南さんが、かわいくふくれる。


百合さんが、じっと俺の顔を見る。


「・・南さんが、浴室で僕になさっている行為の延長です。

実は、『念話』という、距離が離れた相手とも、頭で会話ができるという特殊能力を得られたのですが、そのためには、その相手に僕の血液か精液を摂取していただく必要がありまして・・」


「ああ、成程。

でも凄い能力を得られたわね。

これでダンジョン内でもお互いに連絡が取れるものね」


「ええ。

日常的に使えるので、周囲に知られる事なく迅速に行動が起こせます」


「じゃあ早速今からお風呂に入りましょ。

ダンジョン内でも実際に使ってみたいしね」


立ち上がった彼女に、強引に腕を取られる。


「探索が終わってからでも・・」


「駄目。

待てない」


百合さんはさっさと浴室に湯を溜めに行く。


観念して立ち上がると、両腕を首に回されて、唇をしっかりと塞がれる。


フレームの入っていない夏仕様の高級ブラだからか、彼女が押し当ててくる胸の感触が、その舌の動きと共に俺を刺激してくる。


「やっと一歩前進なのね。

いつもみたいに瘦せ我慢しちゃ嫌よ?」


至近距離から潤んだ瞳で見つめられる。


「・・善処します」


「1回だけでは済まさないから」


「え?」


反論する前に、再度口を封じられた。



 「・・一度摂取していただければ、それで良かったのですが」


南さんと百合さんの2人から、代わる代わる計4回も摂取された俺は、やや呆れ気味にそう漏らす。


「でも凄く気持ち良かったでしょ?

あれだけの量を出したのだから」


南さんが満足そうに微笑む。


「4回目ですら量が減りませんでしたよ?」


百合さんも嬉しそうに笑っている。


「私達には、特に百合には、確認の意味もあったからね。

でも大丈夫だったわ。

和馬のなら抵抗なく受け入れられる。

飲み込んでいても、全く不快に感じなかった」


「・・・。

ロシア攻略に区切りがついたので、お二人にも戦利品をお分けしますね。

それから、一応報告しておきますが、以前南さんにお渡しした『印籠』と同じ効果を持つ『皇帝』と『女帝』を得まして、僕のは強制吸収だったのですが、アイテムとして残った『女帝』は美冬に与えました。

今後は僕は海外のダンジョンに集中しますので、美冬を含め、他のお仲間の皆さんには、僕抜きで探索して貰います。

勿論、行きと帰りは僕がお送り致しますので」


「そうね。

私達もかなり強くなったし、『印籠』のような効果を持つ特殊能力が他にもあるなら、和馬が回収しておいた方が良いものね。

・・でも、探索後にあなたとお風呂に入る事は止めないわよ?

それはもう、私達の習慣になっているからね」


「分りました。

僕も南さん達とご一緒する時間は楽しいです」


「フフッ、正直で宜しい」


「お分けする戦利品の話に戻りますね。

南さんには、『状態異常無効』、『自己回復(S)』、『毒耐性(S)』、『魔法耐性(S)』『結界』『炎耐性(S)』『氷耐性(S)』『金運』『良縁』『開運』の特殊能力と、『治癒』『鎌鼬』『給水』『解除』の魔法をお渡しします」


「えっ、そんなに!?」


彼女が大きく目を見開く。


「ええ。

ここだけのお話ですが、ロシア領に存在した宝箱を1つ残らず回収してきましたので・・。

ユニークも全て倒してきたから、あそこの国民は、もう自国のダンジョンから特殊能力を得られる事はないでしょう」


「アッハハハ、素晴らしいわ!!

これでもう、あの国は脅威でなくなった!

もし戦争になっても、和馬がダンジョンから転移で向こうに跳んで、指導者達を暗殺して回れば短期間でけりがつくしね!」


南さんに大受けしている。


「防衛庁に勤務する者としても非常に有難いです。

勿論、今のお話は誰にも漏らしません。

和馬君を当てにして、国の防衛を緩められては堪りませんから」


百合さんも微笑んでいる。


「百合さんにも、特殊能力の面ではほぼ同じ物をご用意しています。

南さんと異なるのは、『結界』の代わりに『隠密』が含まれている点ですね。

魔法に関しては、申し訳ありませんが、入手数が極僅かでしかなかったので、『浄化』と『着火』のみになります」


「私にもそんな数を!?」


「当然でしょう。

僕の大事なお仲間ですから」


「・・有り難う。

南と2人で、ずっとあなたを愛していくから」


彼女の瞳が濡れている。


「・・私達がこんなに男性を愛せるなんてね。

和馬に出会う前は、それこそ男なんて路傍の石と同じだったのに」


南さんが感慨深げにそう漏らす。


「驚くのはまだ早いですよ。

これから取って置きの話をしますので」


「他にもまだあるの!?」


「寧ろこちらが本命なんです。

これは僕が海外のダンジョンを早期に探索しようと思った理由にもなるのですが、実はですね、世界に1つしかないと考えていた『アイテムボックス』や『地図作成』、『転移』が、ロシア領でも1つずつ見つかったのです」


「「!!!」」


「その際、他の2つはアイテムとして残ったのですが、『転移』だけは、既に得ているはずなのに吸収されたんです。

調べてみたら、『ダンジョン内転移・改』の中に3番目の枠が生じてまして、それには6つの区切りがあり、その内の1つが塗り潰されていました」


「・・つまり、他にもあと5つは存在するという事ね?」


俺は頷く。


「それは大問題だわ。

他はともかく、『転移』だけは核兵器並みの効果がある。

ダンジョンから核施設の側まで跳んで、そこに爆弾でも仕掛けられて逃げられたら、その国は一溜りもない。

下手をすると、それを理由に第3次世界大戦が始まってしまう」


南さんの顔が強張こわばる。


それは百合さんも同じだ。


「なので、僕は早急にそれだけはどうしても回収しようと考えています。

皆さんと別行動をする理由の最たるものです」


「分ったわ。

和馬はそれに専念して。

国内は私達で何とかする」


「宜しくお願いします。

美冬は当然として、理沙さん達や吉永さんにも、お休みの日はできる限り頑張って貰いますから」


「暫くは、大分忙しくなるわね」


「まあ、国内のは既に回収済みですから、あまり無理をなさらないでくださいね?

ご自分のペースで楽しんでください」


「大丈夫。

好きでやっている事だし、『自己回復(S)』があれば、ほとんど疲れを残す事はないでしょ。

和馬との時間も、一切削るつもりはないしね」


「最後に、南さんには先ずこれを。

・・『アイテムボックス』を取得できる品です。

装備も、あとでAランクの長剣と盾をお渡ししますね」


「良いの!?」


「当たり前じゃないですか。

だって全部で6つずつ手に入る予定なんですよ?

お仲間の皆さんで分けましょうよ」


「ああ、身体が火照ってくる。

和馬が欲しくて堪らない。

早く美冬と済ませてよ。

そうすれば幾らでもできるのに・・」


蕩けそうな瞳で、熱い吐息を吐いてくる。


やっぱり『若返り』の能力は、直前まで内緒にしておこう。


確実に襲われる。


「百合さんには先ずは『地図作成』の方から。

お二人で探索なさるから、これでほぼ問題なく進めるでしょう。

装備も、Aランクの槍と胸当て、籠手をご用意しておきます」


「私が今、一体何を考えているか分る?

・・南と2人で、君にどんな事をしてあげようか考えてるの。

まだまだ若いつもりだから、これからの人生で、思い付く限りの事をしてあげるね?」


穏やかに微笑まれる。


「・・僕は至ってノーマルですので、ご遠慮させてください」


身の危険が更に増して、俺にそんな逃げ口上を吐かせる。


「大丈夫よ。

言ったでしょ?

私達は、道具類は一切使用しないの。

全て自分達の身体だけで、相手に気持ちを伝えたいから。

・・そんなに心配しなくても、変な事は絶対にしないわ」


取り敢えず、2人に少し落ち着いて貰うため、熱いお茶を用意して、アイテム類を全て食べていただいた。


小さいとはいえ結構な量があったから、暫くソファーで食休みをされている内に、いつもの2人に戻ってくれた。


尤も、沖縄を攻略し尽くした彼女達を連れて、新たな場所である栃木の攻略に励んで貰った後の入浴で、再度、計6回も摂取され、遅めの夕食を共にした美冬から苦笑いされたのだが。


現在の南さん達のステータスは以下の通り。


______________________________________


氏名:伊藤 南


生命力:15830


筋力:10535


肉体強度:10670


精神力:12700


素早さ:10060


特殊能力:『規律』『心眼』『国土経営』『印籠』『自己回復(S)』

     『状態異常無効・改』『結界』『幸運・改』『アイテムボックス』


魔法:『光魔法』『風魔法』『水魔法』『精神魔法』


______________________________________


______________________________________


氏名:神崎 百合


生命力:17240


筋力:10080


肉体強度:11440


精神力:11560


素早さ:9980


特殊能力:『自己回復(S)』『状態異常無効・改』『隠密』『幸運・改』

     『地図作成』


魔法:『光魔法』『火魔法』


______________________________________


両名とも、『状態異常無効・改』の中には『毒耐性(S)』『魔法耐性(S)』『炎耐性(S)』『氷耐性(S)』が含まれ、『幸運・改』の中には『金運』『良縁』『開運』が収められている。


南さんの『光魔法』の中には『治癒』が入り、『風魔法』の中には『鎌鼬』が、『水魔法』には『給水』が収められ、『精神魔法』には『解除』が入っている。


百合さんの『光魔法』には『浄化』が、『火魔法』の中には『着火』が入っている。


そして彼女の『幸運・改』の中には、『金運上昇』と『勝率上昇』も一緒に収められた。


今後暫く、土日祝日は11時に彼女達を栃木のダンジョンに送り届け、夕方5時に迎えに行って、その後3人で2時間ばかり風呂に入り、それから美冬の作った夕食を取るという形になる。


ダンジョン内での正確な時間が分らなくなる彼女達のために、数十ある腕時計の装備品から其々お好きな物を差し上げた。

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