第45話

 7月20日、木曜日。


「美冬、少し話があるのだけれど・・」


夕食後の片付けを終え、俺とお茶を飲んでいる彼女にそう切り出す。


「ん?

・・何か心配事?」


真面目な顔をしていたからか、彼女が少し不安げに俺を見る。


「今から話す事は、決して嘘じゃないし、欲望から出た言葉でもない。

どうかそれだけは信じて欲しい」


「そんな事、言われなくても分ってる」


「・・実は先日、ロシアのダンジョンで『念話』という特殊能力を得たんだ。

その能力は、『距離が離れた相手とも、頭の中で会話ができる』というもので、いつも君の事を気に掛けている僕としては非常に有難い能力だったのだけれど・・」


「何が問題なの?」


「それを行う相手には、能力者である僕の血液か精液を、一定量以上摂取して貰う必要があるんだ」


「・・え?」


「血液を大量に飲むと胃の中で固まると聞いた事があるし、どのくらい飲んで貰えば良いか分らないから、・・精液の方で試して貰いたいのだけれど、良いかな?」


「構わないわ。

私を抱くのね?」


「いや、そうじゃなくて・・。

約束したから、美冬が高校を卒業するまでは、そういう事は控えたい。

だから紙コップにでも採取した物を飲んで貰おうと・・」


「・・それはちょっと抵抗あるな。

どうせなら直接口に出して」


「良いの!?」


「君のなら平気だし、見ながら飲むのでなければ問題ないよ。

・・そうして欲しいなら、考えるけど」


「有り難う。

君にこんなお願いをするのはどうかと思ったのだけど、もし何かあった際に、非常に有効な連絡手段となるし、この能力ならダンジョン内でも通信が可能になるから・・」


「うん。

利用しない手はないよね」


「・・じゃあ今夜、風呂場でお願いしても良い?」


「分った。

今日も一緒に入ろう」



 約3時間後、再度、ダイニングのテーブルで果物ジュースを飲みながら美冬と向かい合う。


「・・何か凄い体験しちゃったね」


「・・・」


「皆こんな事してるんだ」


「・・『念話』を試してみても良い?」


「うん」


頭の中で彼女に話しかける。


『美冬、さっきは有り難う』


「わっ、頭の中に君の声がする!」


『言葉に出さずに頭で話してみて』


「う、うん、分った」


『ええと、・・男の人ってあんなに出すんだね。

ちょっとびっくりしちゃった』


『!!』


『でも慣れれば平気かな。

和馬になら幾らでもしてあげる』


「・・今度はお互いに別の部屋で話してみよう」


「了解」


2人で各々の自室に入る。


『この後、美冬に色々と特殊能力を贈るね』


『・・有り難う。

顔が見えないから少し戸惑ったけど、君をイメージしながら言葉を考えるんだね』


『そう、そんな感じ』


『でもさ、これって普段普通に考えている事まで筒抜けになるのかな?』


『話す対象をイメージしなければ大丈夫だと思う』


『う~ん、でも君の事を考えている時は君のイメージが頭にあるから、中々区別が難しいね。

少し練習しながら慣れるしかないみたい』


『じゃあ通常の思考と念話を区別するために、念話の時には会話の初めに何かを付けよう』


『電話の時の『もしもし』みたいなやつ?』


『そう、それ』


『・・この念話ってさ、私がしたような事を君とした相手なら、誰とでも話せるの?』


『今の所は僕を通さないと駄目みたいだね。

電話とチャットの違いと同じかもしれない。

現時点では、必ず『僕と誰か』になるね』


『成程。

それなら、合言葉は『今、少し大丈夫?』にしよう』


『分った』


『今日もこれからダンジョンに行くの?』


『・・いや、美冬にアイテムを渡して、その後は自室で過ごすよ』


『ならさ、今から和馬の部屋に行っても良い?

今晩は君と同じベッドで眠りたい』


『了解』


その後部屋にやって来た美冬に、複数の特殊能力を得られるアイテムを食べて貰った結果、彼女のステータスはこうなった。


______________________________________


氏名:柊 美冬


生命力:25080


筋力:13567


肉体強度:14956


精神力:17005


素早さ:15120


固有能力:【分析】


特殊能力:『美と芸の素養』『女帝』『状態異常無効・改』『自己回復(S)』

     『隠密』『結界』『幸運・改』


魔法:『光魔法』『火魔法』『水魔法』『精神魔法』


______________________________________


以前からおやつ代わりに各能力値を上げる品を食べて貰っていたから、もう1人でもユニークが楽に倒せるくらいに強い。


装備も初回に渡したCランクの武器と盾を回収し、Aランクの長剣とAランクの小盾に取り換えてある。


『状態異常無効・改』の中には、『毒耐性(S)』と『魔法耐性(S)』、『炎耐性(S)』、『氷耐性(S)』が入っており、『幸運・改』の中には、ポイントに変換する際、仲間の数だけ取って置いた『金運』、『良縁』、『開運』が収められている。


『光魔法』の中には、『治癒』と『浄化』、『光弾』が含まれていて、『火魔法』内には『着火』が、『水魔法』内には『給水』が、『精神魔法』には『解除』が含まれている。


日本のダンジョン内で戦う分には、最早敵なしだ。


ここまでしたのは、美冬が唯一無二の存在だというのは勿論、今後は1人か、他の誰かとパーティーを組んでダンジョン探索をして貰うためだ。


『転移』をあと5つ集めないとならなくなった俺は、最早国内のダンジョンで時間を使うのは惜しい。


今後は金色の宝箱だけを回収し、『異界の扉を開く鍵の1つ』を探す以外は、ユニークを【真実の瞳】で観察して、自分が所持していない特殊能力を持っていた時だけ倒す事に決めていた。


散々キスを繰り返した後、俺の腕の中で眠りに就いた美冬を見つめる。


艶のある漆黒の髪の間から覗く、安らかな寝顔。


彼女も既に、俺と同じ様に、身体の全細胞、全組織での改変が始まっている。


そのせいもあって、吉永さんの店に月に3度はお世話になっている。


俺を除けば、美冬が1番親しい仲間は彼女だろう。


そうそう、吉永さんと言えば、彼女のお店の宣伝は既に取り止めた。


固定客が10人ほど付き、あとはその人達の口コミや紹介でのみ、お客を取る事にしたのだ。


今後は南さん達や理沙さん達にも身体の改変が起き始めるだろうし、吉永さん本人も、何れそうなる。


だから俺は折を見て、一流の人材派遣会社に大金を支払って、優秀な人材を探して貰おうと考えている。


メイド数人と司法書士1人、秘書1人、マッサージ師1人とエステティシャン1人は最低限必要だし、この間理沙さんが言っていた、例の不動産鑑定士とは今度会う事になっている。


理沙さんにお願いしていた物件の残りも無事見つかり、渋谷と恵比寿、品川に、其々ビルを購入した。


渋谷の物件は10階建ての商業ビルで、敷地面積は約120坪。


今は内装工事の真っ最中で、1フロアに数部屋あった物を、余計な壁をぶち抜いて1部屋にしている。


恵比寿のは7階建ての高級マンションで敷地が200坪あり、品川のは14階建てのオフィスビルで、敷地面積は300坪。


どちらも一般に売りに出す前に1棟買いしたので新築物件だ。


渋谷は150億、恵比寿は200億、品川は400億円で購入した。


理沙さんは呆れていたが、今の俺は『幸運・改』の10倍効果もあって、魔宝石の売却益以外に、株やビッグなどの宝くじ、ネット競馬を用いて月平均で5000億円ほど稼ぐ。


銀行口座や証券会社の口座には、既に兆単位のお金が入っていた。


その他に、アイテムボックス内には100トン以上の金塊や宝石類、レアメタルが入っている。


その内、非上場でお仲間の皆さんだけを顧客にした、銀行や証券会社でも作ろうかと本気で考えている。


商売というより、お金や株式の置き場所として。


最近は、宝くじでも競馬でも、3億円以上にならないものには面倒だから手を出さなくなった。


ロシア攻略を終えた今の俺のステータスは以下の通り。


既に人間とは違う、何か別の存在になっている。


______________________________________


氏名:久遠寺 和馬


生命力:10978570


筋力:998470


肉体強度:1045300


精神力:1186900


素早さ:976780


固有能力:【真実の瞳】


特殊能力:『身体能力・改』『地図作成・改』『アイテムボックス・改』

     『ダンジョン内転移・改』『能力強化・改』『隠密・改』

     『状態異常無効・改』『可能性の芽・改』『結界・改』

     『人材育成・改』『幸運・改』『過去・未来』『子宝・改』

     『強制支配・改』


魔法:『光魔法』『土魔法』『風魔法』『火魔法』『水魔法』『雷魔法』

   『ブラックボール』『精神魔法』


所有ポイント:3億8751万4500


______________________________________



 『探索者チャット・ロシア語版』(ここでの会話は全てロシア語で行われています)


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10876:女学生


 私の王子様はまだ見つからないのですか?


胸に輝くZのマークが素敵な、黒づくめの男性なのです。


10056:女子大生


 あなたのではなく私の王子様よ。


逞しい肉体に、誠実なお人柄。


何故声を出してくださらなかったのかは分りませんが、きっとお声も素敵よね。


早く会いたい。


15345:貴族の血


 あなた達に彼は似合わない。


彼に相応しいのは、私のような高貴な家柄の女性。


きっと彼も、元ロシア貴族の家柄よ。


10056:女子大生


 赤と黒の時代じゃあるまいし、今時貴族なんて言われてもね・・。


10876:女学生


 そうよ。


大抵の貴族は既に落ちぶれて、殺されるか国外に逃げているもの。


生き残っている時点で大した地位でなかった証拠よ。


15345:貴族の血


 何ですって!


我が○○○○家を愚弄すると許しませんよ!


10056:女子大生


 事実を言っているだけでしょ。


本当にお金持ちなら、護衛も付けずにダンジョンになんか入らないし。


9985:ロシア市民


 でも彼、純粋なロシア人じゃないと思いますけど。


瞳が漆黒でしたよ?


10876:女学生


 ならZのマークはどう説明するの?


9985:ロシア市民


 さあ、そこまでは分りません。


でも、覆面をしていた理由だって、何か意味があるような気がしますけど・・。


命を助けていただいたのだから、私は彼が何人なにじんであっても感謝してます。


15345:貴族の血


 いいえ、ロシア人でないと駄目よ。


偉大なロシア人でなければ、あそこまで強いはずがないもの。


16743:愛国者


 はいはい、俺がその王子様だよ。


あの時は何も話さずに御免ね。


秘密厳守の特命を帯びていたからさ。


今もダンジョンには週2で入ってるんだ。


良かったら今度時間を作るよ?


10056:女子大生


 そうなの!?


1つ質問して良いかな?


別れる時に何をしてくれた?


16743:愛国者


 さあ、何だったかな。


沢山の人を助けてるからよく覚えていないんだ。


・・ハグだっけ?


10876:女学生


 死ね!


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