第44話

 7月19日、水曜日。


到頭、ロシアに居たユニークの完全討伐と、宝箱の全回収を終える。


『飛行』のお陰で随分と楽にはなったものの、約6万個の宝箱の回収には、1日に340個近い数を回収しても、約半年も掛かった。


金色の宝箱の数は全部で4986個で、国土面積の割には意外と少なかった。


その中身は各能力値を上げる品々や貴重な装備品、武器の類が大半で、稀に特殊能力や魔法を得られるアイテム類、『異界の扉を開く鍵の1つ』であるイースターエッグ。


沢山出た『金運』や『開運』、『子宝』の他に、『処女の血』と言う、『抱いた処女の数だけ、肉体年齢が1つずつ若返る。但し、18歳未満にはならない』といった内容の特殊能力を覚えられる品が4個出たが、それらは全て、後述する『不用品の個別売却』でポイントに替えてしまった。


銀色のは5万個くらいで1番多く、その中身は数キロの宝石類や金塊が5割、同じく数キロのレアメタルのインゴットが4割、残りの1割は美術品や武器だった。


通常の茶色の物は約6000個で、中身の半分はランクの低い装備品や武器、あとの半分は小麦が30キロ入った麻袋やウオッカなどのお酒の樽で、宝箱から通常の食料品が出てきた事に驚いたものだ。


ロシアではこれらも価値あるお宝なのだろうか?


日本の茶色の宝箱の中身は、最低でも骨董品や装備品だったのに。


宝箱は一度開けると中身を取るまで消滅しないので、目立つから仕方なく全部貰ったけれど。


これはずっと後になってから判明するのだが、宝箱から出る金塊や宝石類、レアメタルは、実はダンジョン内だけで生産された物ではなかった。


通常の世界で、未だに発掘されずに鉱脈として存在している物の半分近くや、遺跡や土中、海中に埋もれた物が、ここに宝箱の中身として流れて来ていたらしい。


十数年後、ある国が未だ手付かずのダイヤモンド鉱山の発掘作業を始めたところ、全く何も出なかったと報じられた。


発見当時の事前調査では、相当な埋蔵量が期待できたはずなのに、どれだけ掘っても全く何も出なかったと。


それを知った各国が、慌てて自国の鉱脈を調べ直した際、かなり明暗が分かれたようだ。


俺はそれらの記事を新聞で読んで、全く何も出なかった国々に思い当たる事が多過ぎて、1人で苦笑いしていた。


ユニークについては、存在した数は全部で200体弱と少なく、その内の8体が『SSSランク。イースターエッグ。異界の扉を開く鍵の1つ』を護る守護的存在のドラゴンで、金、白、黒、赤、青、緑、茶、水色の8色の巨大な魔物だった。


彼らからは、総じて50センチを超える魔宝石と、貴重な特殊能力や魔法を得られ、金色のドラゴンからは『雷魔法』の『落雷』を、白いドラゴンからは『静寂』という、半径1キロ以内の一切の音を消し去る特殊能力を、黒いドラゴンからは『ブラックボール』という、黒い小球が当たった、精神力値が格下の存在を消滅させる魔法を、赤からは『火球』という火の攻撃魔法を、青からは『遊泳』という、水中を自在に泳げる特殊能力を、緑は以前に述べた『飛行』、茶色からは『地均し』という、地上に在る物を範囲を限定して崩し、更地にする特殊能力を、水色のドラゴンからは既に述べた『絶対零度』を得た。


『静寂』は『隠密・改』の3番目に収容され、『火球』は『火魔法』の中に、『遊泳』は既に得ていた『水中歩行』と一体になって『水の住人』という新たな特殊能力に変化し、後述する『身体能力・改』の中へ、『絶対零度』は『状態異常無効』が『状態異常無効・改』に変化して、『毒耐性(S)』、『魔法耐性(S)』と共にその中に収められた。


それまで俺もよく理解していなかったのだが、魔法というのはダンジョン内でしか行使できない以上、『魔法耐性』という能力も、あくまで魔法の攻撃に対する能力であり、通常の世界で猛吹雪に遭って極端に身体が冷えれば、俺の肉体強度でも、もしかしたらしもやけくらいにはなったかもしれない。


魔法のブリザードのような攻撃には何の被害も受けないが、『絶対零度』がなければ、自然界の猛威の前に少しくらい何かを感じる。


つまりはそういう事のようだ。


因みに、『状態異常』が示す内容は、主に精神に被害を受ける『魅了』や『金縛り』、発声ができない『沈黙』などのものを言う。


それらを元に戻すには、それを使用した魔物を倒すか、『解除』という特別な魔法が必要になる。


他のユニークから新たに得られた特殊能力は、『炎耐性(S)』、『皇帝』、『女帝』、『革命』、『洗脳』、『地雷』、『略奪』、『念話』で、『炎耐性(S)』は『状態異常無効・改』の中に収容され、これまでに得た能力と同じ物であった場合は、ほぼその能力がその数だけ倍に強化された。


具体的には、『幸運・改』の中に在る『金運』、『良縁』、『開運』などは元の10倍の効果になってそこでカンストし、あとはアイテムとして残ったので、全部ポイントに替えた。


ステータス画面には表示されない幸運値が異常に高過ぎて、最早何をしても良い結果に繋がるのではないかと錯覚するほどだ。


また、『地図作成・改』の4番目の枠に『ユニークの位置が?で表示される』が加わり、5番目の枠には『金色と銀色の宝箱の位置が、其々同色で表示される』が収まった。


『地図作成・改』の枠は、どうやらこれで全部のようである。


そして『アイテムボックス・改』の3番目の枠に、『不用品の自動売却』が加わる。


これは、アイテムボックス内に表示されている絵柄をタップし、そこに現れた品物の詳細から要らない種類をオンにするだけで、ドロップ品を自動回収した際に即座に売られて、その質と量に応じたポイントを貰えるというものだ。


例えば、Dランク以下の武器が要らないなら、武器の表示をタップし、更にそこに表示される項目で種類とランクを選び、Dを選択すれば、それ以降に入手した物が自動的にポイントに変換されるのだ。


4番目の枠には、『不用品の個別売却』が収められ、これで『アイテムボックス・改』の枠が全て埋まった。


このポイントが何に使用できるのか、品物が一体何処に売られるのかは、今の所、不明である。


『ダンジョン内転移・改』の2番目の枠には、『一度に12人まで転移可能』が加わる。


4人以上で入ると強い魔物が出現する可能性が高まるが、今の俺達なら全く問題ないだろう。


そして驚くべき事に、3番目の枠が現れた時、その枠は6つに区切られていた。


その理由は間も無く判明する。


ロシア領内でも、開けた際に『知恵と幸運、武力を備えた汝に、更なる力を授ける』という文言が表示された宝箱が3つあり、その宝箱から『アイテムボックス』、『地図作成』、『転移』の特殊能力を得られる力を得たのだが、何故か『転移』だけが吸収され、他の2つはそれを覚えられるアイテムとして残ったのだ。


ステータス画面を調べてみたところ、『ダンジョン内転移・改』に生じた3番目の枠にあった6つの区切りの内の1つが塗り潰されていた。


その現象を踏まえれば、世界中のダンジョン内の何処かに、あと5つ、同じ物が存在するはずなのだ。


当初は世界に1つだけの特殊能力だと思ったが、どうやら考えが甘かったらしい。


早急に他国も探索する必要が出てきた。


『皇帝』と『女帝』は『印籠』とほぼ同じ効果で、『女帝』は俺が男性だからか、アイテムの形で落ちた。


『革命』は、『その国の民を煽って、国を作り変えようとさせる』能力。


使用者の精神力の値により、効果に差が出る。


『洗脳』は、『その対象者に自分の言動が真実だと思い込ませる』能力で、相手より精神力が200以上高くないと成功しない。


ステータス画面の特殊能力欄に、新たに『強制支配・改』という物が発生し、その中に、『皇帝』、『革命』、『洗脳』の3つが収容されていた。


『地雷』は文字通り、『その場所に多数の無形地雷を発生させる』能力で、『身体能力・改』の中へ。


『略奪』は、『対象者の持つ特殊能力や魔法を強制的に奪い取る』能力で、相手よりも精神力と素早さの双方が1000以上高くないと全く成功しない。


またこの成功率は、『開運』の程度によっても多少上昇する。


『能力強化・改』の中に、『破魔』と共に収容された。


『念話』は、『距離の離れた相手とも、頭の中で会話ができる』という能力で、入手した当初は非常に喜んだのだが、その説明を読んで絶句する。


『念話が可能な相手は、能力者の血液か精液を、一定量以上体内に取り入れた者のみ』


・・暫く使えないな。


何だか、こんなような内容の物が多くて困る。


皆にどう説明しろと言うのだろう。


数が増え過ぎたからか、ステータス画面の特殊能力欄に『過去・未来』という物が発生し、その中に『未来視』と『回想』が収められ、同じく発生した『身体能力・改』という物の中には、上述した物の他に『自己回復(S)』と『生命力増加』、『治療』、『飛行』、『地均し』、『念話』が収容されていた。


ユニークからは魔法も得られ、『水魔法』の『給水』と『放水』、『風魔法』のハリケーン、『土魔法』の『地震』、精神魔法の『魅了』と『沈黙』、『金縛り』、『解除』を得た。


そしてユニークから得られた物の最後に、特殊能力や魔法を得られるアイテムがある。


俺に吸収されずにアイテムの形で残った物で、その内容は以下の通り。


特殊能力を得られる物は、『状態異常無効』が9つ、『自己回復(S)』が14、『毒耐性(S)』が12、『魔法耐性(S)』が8つ、『隠密』が5つ、『結界』が7つ、『炎耐性(S)』が8つ、『氷耐性(S)』が9つの計72個。


魔法を得られる物は、『治癒』が3つ、『浄化』が4つ、『光弾』が1つ、『鎌鼬』が1つ、『着火』が3つ、『給水』が4つ、『解除』が4つの計20個。


残りの物は、『愛欲の僕』とか『若返り』、『魅了』のような性的な意味合いを含む物だったので、全てポイントに替えてしまった。



 今回は、何処を重点的に探索したとか、そういう事はない。


無駄に広いロシア領で、いちいちそんな事を気にはしていられない。


全速飛行で宝箱の場所まで飛び、金色の宝箱があった周辺を少し探してユニークを倒す以外は、ほとんど何もしていない。


『地図作成・改』の全枠を埋めたお陰で、後半はユニークの居場所や金銀の宝箱が判別できてかなり楽にはなったが、それでも今後は茶色の宝箱は無視しようと思えるくらいに面倒だった。


それに、建物名や地名がやたらに長くて、覚えるどころか読む気にすらならない。


聖ワシリイ大聖堂やハリストス復活大聖堂、クレムリン、バイカル湖、エルミタージュ美術館、エカテリーナ宮殿くらいは知っているが、それ以外は何処の大聖堂で偉そうな将軍の魔物をぶちのめそうが、無駄に着飾った貴族の魔物の首を刎ねようが、全く気にも留めなかった。


ただ、そうした探索中に、何度か若い女性達のパーティーを助けた事がある。


魔物に殺されそうだったり、自国の男達に襲われて犯されそうだったりした所を、運良く通りがかった俺が助けた。


魔物はともかく、俺の目の前で女性に乱暴しようなんて思う奴は、問答無用で蹴り殺す。


蹴った奴の身体が拉げてブーツを汚されるのが不愉快だが、ご婦人の貞操には代えられない。


恐怖で身体が強張っている彼女達に、翻訳機を使って『安全な場所まで送りましょうか?』と声をかけ、送った後はFランクの武器をあげて無言で飛び去る。


何かを言われても全く理解できなかったので、胸をらしてZのマークを強調し、遣り過ごした。


ロシア探索で最も有意義だったのは、『異界の扉を開く鍵の1つ』であるイースターエッグが全て揃い、地図上に、卵のマークが現れた事だ。


それが何処かはまだ口にしないが、異界への入り口を1つ確保したのだ。


数年後、この世界を粗方探索した後に、仲間の皆とそこを開けたい。


日本の扉も探さねばならないのだ。


もしかしたら、世界中にもっとあるかも。


これだから探索者は止められない。


さあ、家に帰って美冬と珈琲を飲もう。


今日は久々に熟睡できそうだ。


約半年のロシア探索で倒した魔物の総数は、進路上の70万体くらい。


随分と手抜きをしてしまったな。

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