第43話

 7月7日、金曜日。


今日がお誕生日である理沙さんの為に、松濤のレストランの個室を予約し、仲間内でディナーを楽しむ。


吉永さんも、今では気後れせず、きちんと出席してくれるようになった。


初夏の夜、華やかな衣装に身を包んだ美しい女性達と過ごす楽しい時間は、俺に安らぎと安心を与えてくれる。


大事な人達が、ちゃんと揃って側に居てくれる。


失う事を極端に恐れる俺の心を、彼女達の笑顔と声が鎮めてくれる。


9月が誕生日の美冬は、俺と一緒でまだ公然とお酒が飲めないので、果物を使ったソフトドリンクを傾けながら皆の話に相槌あいづちを打ち、折を見ては話題を振る。


俺と違って実に社交的だ。


吉永さんも接客業だけあって、こういった場ではそつが無い。


食事を楽しみながら、皆との会話に積極的に参加している。


ボッチだった俺とは、コミュニケーション能力に大きな差がある。


理沙さんへの誕生日プレゼントは、青森県の土地20万坪だ。


今後は毎年そうさせて貰う事にした。


そしてそれを購入し、手続きをして貰う事を依頼内容として、その報酬に1億円を支払う。


やはり何故そんな場所の土地を購入する必要があるのかを聴かれたので、百合さんの時と同じ説明をしたら、『秘密基地でも造るつもり?』と笑われた。


だが、こうして現時点では全く意味のない土地を買うだけでも、そこの自治体の役には立つのだ。


何も生まない荒れ地が、多額のお金に変わったのだから。


しかも、南さんが総理になって法律を制定するまでは、かなり負けて貰うとはいえ、毎年固定資産税すら入ってくる。


人口の流出が止まらない過疎地域では、それでも大きな財源になる。


将来的には無税にさせるが、そこが俺の土地として誰も住まなくなる以上、たとえ自治体並みの面積があっても公共事業や福祉による費用が発生しないから、管理費が要らなくなる。


数人、数十人しか住んでいない地域のために、何億も掛けて道路や水道管、橋の補修をし続ける負担がなくなるのだ。


本来、公共サービスというものは、そこの住民が支払う税金だけで維持されるべきだ。


自分達が払う税金以上のものを要求して、それがまかり通るのは、その分を他が負担してくれるからに過ぎない。


市町村で払えなければ都道府県が、そこでも無理なら国が補助金で助けている。


その国にとって、そこが観光や食料自給率などで意味ある場所なら理解できるし、その国に余力があるならまだ納得もできるが、先進国でも類を見ない程の借金を抱えた上、最早返せないと分っていながら買い手のいない赤字国債を毎年無理やり発行しているこの国に、そんな資格はありはしない。


ほとんど存在価値の無くなった参議院を無くし、無駄に多い国会議員の数を大幅に減らして、票のためにする無謀な政策を無くす事こそが、この国の未来に繋がる。


過疎や財政難故に、議員の給料が安い市町村で、ほとんどなり手が居ない状況を見れば分るだろう。


今時の議員は、理想や志を掲げてなるものではなくなっている。


そういう人物は、己の懐が痛む訳ではないから、平気で国の借金を増やし続けて、自分に投票する無責任層に無駄に金をばらまく。


病気や怪我で一時的に働けない人を助けるなら良い。


けれど、働けるのに選り好みして職に就かない、収入があるのにそれを隠して税金を納めない、そういう者達まで助ける時代ではなくなってきている。


助け合いというのは、お互いがそうするから成り立つ考え方であり、一方的な関係でしかないなら、人はそれを依存、言葉を選ばなければ、寄生と呼ぶのだ。


もう、できない事はできないとはっきりと告げ、国民に我慢や努力を強いるような時代にきている。


平等原則が建前となり、医療の現場のように、選別を強いる時期にきているのだ。


食事会が済むと、やはり俺だけが理沙さん達の家に招かれる。


実は、彼女達の家にお邪魔するのはこれが初めてになる。


以前の賃貸ではなく、俺が贈った物件だから中の間取りは分るが、その内装までは知らない。


理沙さんはシックなデザインを好むから、きっと落ち着いた色彩の部屋であろう。


「お邪魔致します」


7階にある1部屋に入ると、予想通りの雰囲気に迎えられる。


理沙さんが俺に珈琲を出してくれ、美保さんが浴室に湯を溜めに行く。


理沙さんも着替えるために一旦席を外し、俺だけがリビングでくつろぐ。


「理沙も今日で29。

・・あと1年ね」


盛装を脱ぎ、入浴前の下着姿でやって来た美保さんが、俺の横に座る。


「・・・」


「南さん達から、随分と攻められてるのよね?

・・私達と、どっちが凄い?」


耳元で囁いてくる。


お酒が入った彼女は、妙に色っぽい。


「ノーコメントで」


「でも本当に凄いわ。

あれだけの美女達に裸で攻められて、未だに童貞を守っているのだもの。

私達の攻めにもしっかりと耐えているし」


「それだけ美冬を大切にしている証拠でしょ。

その意志力が素晴らしいわ。

・・お風呂の準備ができたみたいだから、行きましょ」


理沙さんも下着姿でやって来て、俺の上着を脱がせてハンガーに掛けてくれる。


この物件の浴室は、億ションの中でも上位の物だけあって、俺の家ほどではないが、2人なら余裕で入れるだけの浴槽がある。


浴室に連れて行かれ、早々に全裸になった彼女達が、俺の衣服を吊るしてくれる。


シャワーを浴びると、3人ではやや手狭な浴槽内で、前後から挟まれる。


「理沙さん、暇を見て、秋田と山形、宮城に新潟の土地も買い進めておいていただけますか?

一筆になる安価な場所で構いませんから」


俺を背後から優しく抱き締めている彼女に、そうお願いする。


「さすがに不動産鑑定士を雇うわよ?

今までの物件探しで、知り合いになった若いがいるの」


「若くしてその資格を取得してるなら、かなり優秀なんでしょうね」


「ええ。

まだ27くらいだけど、性格が良くて、しかも美人よ?

野心家でもあるから、何れは自分の事務所を持てるように頑張ってるわ」


「・・人格に問題がないなら、その人、引き抜けませんか?

美冬が休みの時に彼女を助手として同席させて、その方と事務所で話してみてください。

美冬がオーケイを出したら、僕が不動産鑑定士の顧問として迎え入れます。

神泉にある物件の3階を与えれば良いでしょう」


「話をするのは別に構わないけど、その娘も仲間に欲しいの?」


「今の段階では、単に顧問としてだけです。

実際に会ってみないと分りませんしね。

現時点ではまだ構想段階ですが、探索者仲間としてではなくても、実務や生活に必要な、優秀な女性の人材を集めたいとは考えてます。

女性に限定するのは、僕のお仲間さん達の雑務も引き受けて貰うからです。

男性だと、特に美冬を見た時に、変な勘違いをされると嫌なので」


「フフフッ、彼女を前にして平常心を保てる男性は、そう多くないしね」


それまで、俺の前方で何かと悪戯をしていた美保さんが、唇を離してそう笑う。


「和馬も焼餅を焼いたりするんだ?」


理沙さんも、共に入浴をし、美保さんが俺に濃厚なキスをするのを目にして、俺に対する呼び方を変えた。


今では彼女も、極自然に俺にキスをしてくる。


因みに美冬は、親しみを込めて、お仲間全員から呼び捨てにされている。


「焼餅とは違います。

彼女が僕以外の男性をその視界に入れていないのは、普段一緒に暮らしていれば、嫌でも理解できますので。

単に皆さんに掛かるストレスを、事前に取り除こうとするに過ぎません」


「あの、あなたしか眼中にないものね」


美保さんが再度悪戯を止め、俺越しに理沙さんとキスをする。


その後に理沙さんが身体を洗うために浴槽から出て、美保さんに独り占めされる。


「・・ここからは、例のお時間。

理沙と交代するまで、たっぷりと練習しましょ」


後頭部と首に両腕を巻き付かせながら、彼女が濡れた瞳でそう告げてくる。


何かを口にする前に、しっかりと唇を塞がれた。

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